イラン戦争の行方:大胆な収束予想と日本が取るべきスタンスについて
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イラン戦争の終わりが見えない、と言われる。
議会承認を得ていないので、アメリカ(トランプ大統領)的には、これは戦争ではなく軍事衝突とのことだが、もはや戦争状態と言ってよいであろう。仮に地上軍を投入するとなれば間違いなく戦争だ。
定義はどうであれ、一体、このまま泥沼化するのか、案外サッと終わるのか、なかなか見通しが立ちにくいのは事実だ。
いろいろな変数の変化の積み重ねで解が変わってくるので、何とも予測が難しいわけだが、体感では多くの専門家を含め、泥沼化・長期化するのではないかとの覚悟を持っている人が多い印象である。
では、かつてアメリカとも中東とも多少なりとも仕事上の関わりを持ってきた私の予測はどうなのかと言えば、結論としては、案外、あと1〜2か月のうちに事実上、少なくともアメリカによる戦争はストップするのではないかと見ている。
より正確に書けば、米軍が本格関与しての泥沼化の可能性は2割程度で、8割方は案外、1〜2か月のうちに少なくとも米国は停戦(事実上の停戦を含む)の方向に進むのではないかと考えている。
乱暴に言えば、今回の戦争はトランプ大統領が始めたものであり、彼が「やーめた」と言えば、事実上、アメリカによる戦争は終わる。したがって、彼が戦争を開始した動機を考えれば、今後の帰趨がある程度は見えるのではないかと思う。私見では、動機は大別して4つあると考えているのだが、これら動機のそれぞれの強さや状況を考察することが今後を考える上での基本であろう。
トランプ大統領の4つの戦争開始の動機とその行方
動機その1は、今回の攻撃の大義名分にもなっている話だが、イランを弱体化させることによるイスラエルやアメリカの安全の確保である。その意味では、長らく最高権力者であり続けたハメネイ師の殺害をし、核施設を含むイランの軍事施設に打撃を与えたので、一定程度の弱体化は達成したと見てよいであろう。
一体何をもって「弱体化の完成」とするのか、別の言葉で言えば、今回の戦闘目的・目標は何であるのか、ということについては、多くの批判が寄せられているとおり、トランプ氏自身を含めて曖昧であることは確かだ。核関連施設を徹底的に破壊することなのか、革命防衛隊を中心とするイラン軍を壊滅することなのか、民主化勢力を支援してイラン革命以前のような親米政権を打ち立てるなどの体制変革までを企図しているのか。
トランプ政権サイドとしては、先般の大規模デモなどを踏まえて体制変革までの期待はあったことは事実であろう。ただ、事ここに至っては、そうした動きが顕在化しているわけでもなく、達成は難しそうである。つまり、いくら幹部を殺害しても体制変革が望めそうもなく、ベネズエラのときのように「米国に従順な傀儡のトップ」を据えることも見通せない。
また、体制変革が難しい中でのイラン軍の壊滅も、地上軍の本格投入など相当なコストを払わないと達成できそうもなく、空爆でできる核施設の破壊もそろそろ限界であろう。そもそも、施設はいくら破壊できても、核開発に関連する技術者や資料を根絶やしにしなければ、また研究開発を始めるのは目に見えているので、「徹底的に破壊」したことにはならず、それもまた難しい。
こう考えると動機その1をこれ以上達成することは、生半可な覚悟では無理ということになる。冒頭にこれは戦争なのか否かということについて少し触れたが、地上軍を投入して本格的な戦闘をしておきながら、これは単なる軍事衝突で議会承認は不要だと言い張ることも難しくなる。トランプ氏的には、もう潮時だと考えているのではないだろうか。
動機その2は、イスラエルに押し切られて、ということである。動機その1の延長とも言えるが、動機その1で書いた「イラン弱体化による安全の確保」とは、そのほとんどはイスラエルに当てはまる話である。つまり、イランの核の脅威は、実はアメリカ国民にはさほど響く話ではなく(遠い世界の話で、アメリカの安全に直結しているようには見えない)、現にアメリカの世論調査では、イランの脅威を差し迫った危機だと受け止める向きは少ない。
現在は、むしろ中東の巨人に化けた感があるが、建国からの歴史を考えるとイスラエルにとっては、その原初的恐怖の源泉とも言えるイスラム諸国は、決定的に弱体化していてほしい対象であることは間違いない。特に、直接に対峙することの多いハマスやヒズボラやフーシ派(私は、勝手に頭文字をとって「ハ・ヒ・フ」と総称している)とその大支援者であるイランは不倶戴天の敵である。就中、ネタニヤフ首相とより強硬な右翼である連立政党は、原初的恐怖という意味でも、国内政治情勢的にも、イランを徹底的にたたくことが「安全」の基本となる。
つまり、この動機その2から見れば、アメリカはイスラエルに付き合っているだけなので、これ以上はとても付き合っていられないとなれば、少なくともアメリカによる戦争は終わる。普通に考えれば、当初はイスラエル側から聞かされていたという「体制変革」が起きる気配もなく、あとはイスラエルが勝手にやってくださいというモードになるとすれば、遠からずアメリカは攻撃を止めると見るのが自然だ。
ただ、うがった見方をすれば、トランプ氏の女婿のクシュナー氏やユダヤ・ロビー対応というポジティブな理由以上に、例えばモサド(イスラエルの情報機関)などにトランプ氏が、後述する動機その3のスキャンダル関連の証拠などの弱みを握られているというネガティブな状況がないとも限らない。仮にそうだとすると、トランプ氏はイスラエルのOKが出るまで、この戦争から手を引くに引けないということになる。
そして動機その3だが、それはスキャンダル隠しである。トランプ氏がイラン攻撃を仕掛ける頃は、エプスタイン文書を巡る騒動が盛り上がっていた。開示した文書には、クリントン元大統領とエプスタイン氏の交遊を巡る部分が多数含まれており、ラトニック商務長官など現共和党政権の要人たちにも火の粉が降りかかってきていたが、なぜかトランプ氏のところは不自然に手薄な報告で、隠している部分があるのではないかとさらに疑惑が深まっていた最中であった。
いかなる時も崩れることのなかったトランプ氏の岩盤支持層も、エプスタイン氏とトランプ氏の交遊が明るみに出るにつれ、「やはりお前もディープ・ステートの内側にいたのか」とばかりに支持離れを起こし始めているとも言われていたわけだが、さらに悪いことに、トランプ氏の息子を巡るスキャンダル(UAEルートなど)も取りざたされ始めていた。
そんな中で、突如、アメリカによるイラン攻撃が始まるわけだが、私ならずともスキャンダル隠しが動機の一つなのではないかと疑う向きは少なくない。現に、イラン攻撃が始まってからというもの、印象では、エプスタイン文書やトランプ一族に関する疑惑の報道などは一段落してしまっているようにも見える。
イランとの停戦が正式であれ事実上であれ成立することで、またスキャンダル暴きが再燃するのはトランプ氏としては避けたいであろうが、永遠に戦争で覆い隠すことができる話でもない。少なくとも一時的に目を逸らすことには成功しているので(大成功と言ってよいかもしれない)、その意味からも、そろそろ頃合いよしと、戦闘終結に向けて舵を切るとみるのが自然な気がしている。
最後に動機その4だが、それは中国に与えるダメージである。ベネズエラに続いて、イランでいわゆる斬首作戦、すなわちトップを殺害することに成功した米軍は、親中の国が採用する中国の防衛システム(防空ミサイルシステムやレーダー)が、実際にはほぼ機能していないことを「証明」したような形になっている。
そして、本来は、中国がイランに有する石油利権も、ベネズエラ同様に奪っていきたいと考えていた節があり、それはカーグ島攻撃への脅しなどからもうかがうことができるが、ベネズエラのような形での政権の親米化が望めない以上、仮に中国から石油利権を本格的に剥ぎ取るとなると、それは相当な軍事介入が必要になる。
中国の防衛システムへの信頼を失わせたということには既に成功しており、さらにこの先、石油利権や中国の権益剥奪などの弱体化のために、より徹底的に軍事介入する可能性がないわけではないが、そのために払う犠牲と見合わないのではないかと思う。
以上の4つの動機の分析などに加えて、もともとアメリカやトランプ政権は、泥沼化したイラクやアフガンの二の舞はしない、アメリカは世界の警察官ではなく、ドンロー主義とも言われるように米州に注力するというのが大原則でもあるので、その意味からも早々にイランから手を引きたいと考えていると思われる。
また、油価高騰を招いているため、石油関連企業を除く国内からの反発や国際社会からの批判を考えても、中間選挙への悪影響なども踏まえ、早々に手を引くとみるのが妥当な気がしている。
トランプ大統領が、自身の発言の一貫性や整合性をどこまで気にしているのかという論点は別途あるが、それにしても、4〜7週間とされていた作戦期間がそれ以上になるのは避けたいと考えるであろうし、これ以上の軍事介入について「これは戦争ではなく、ちょっとした軍事衝突だ」と強弁するのも限界であろう。
もちろん、これらの変数はちょっとした事情でいろいろと変化しうるし、うがった見方をすれば(一部、報道も出ているが)、トランプ氏や周辺は、自身の発言で油価が乱高下して株価なども連動して動くことを利用しての蓄財に走っているとの話もあったりするので、基本的には大統領再選がないはずであることなどと併せて、もはや政権の支持率や中間選挙には興味を失っている(諦めている)のかもしれない。
そうしたさまざまな要因で、アメリカとイランの戦闘状態が長引く可能性も上述のとおり3割くらいはあると見ているが、7割方は終結に向けて動いていくものと考えている。
我が国が取るべき4つの方策
最後に、我が国が外交・エネルギー安保上取るべきアクションについて触れておきたい。こちらも短期〜中長期で大きく4つあると考える(備蓄の放出や補助金などの国内政策を除く)。
まず、足止めされているタンカーや日本人を含む船員の無事の脱出だ。日本はイランと独自の外交チャンネルを持っており、米側とも諮ったうえで航行の安全を確保して、脱出を早期に図ることが真っ先にやるべきことだと考える。
次に、ホルムズ海峡や紅海側(バブルマンデブ海峡)の航行の安全確保を図り、エネルギー(原油やナフサ等の石化製品)の安定供給を図ることである。米国ともイランとも良好な関係を持っている日本は、したたかに原油や石化製品の調達の安定化を図るべきである。
そして中長期的には、エネルギー調達の確保を対外的に積極的に進めていかねばならない。具体的には、原油の調達先の多様化(アラスカなどが取りざたされている)、エネルギー源の多様化(洋上風力、地熱からSMRなどの安全な小型原子炉の活用なども含む)などが大切である。
今回、INPEXが海外に権益を持つ開発案件からの優先引き取りも話題になっているが、オペレーターシップの確保も重要になってくる。何だかんだ言っても、日本の一次エネルギー供給の3割超が未だに石油であり、その中東依存度は約9割である。
年によって変動はあるが、日本の輸入額全体に占める石油・天然ガス・石油製品の割合は、概ね3割程度と見てよい。これを買わずに済む体制構築に向けて進む道筋をつけることが、ひいては過度な円安是正にも貢献する。当面の石油の調達先の多様化と将来的なエネルギー源の多様化という2つの多様化は、基本的に進めていかねばならない。
最後に重要になってくるのは、米国やイランへの外交的働きかけである。先般、暴君とも言えるトランプ大統領を前に、無茶な要求をされることなく無難に会談をこなした高市総理のいたいけな姿を、ほぼ全国民が胸を撫で下ろしながら安堵の気持ちで見守ったわけだが、歴史的に米国ともイランとも太いパイプを持つ日本としては、正直、やや物足りなさもある。
我が国は、いわば「仲介国家」とも言うべきスタンスを持つべきである。つまり、東洋と西洋、先進国と後進国などの立場を超えた状況理解者として各地・各国の紛争を実情に応じて調停する役割を担い、分断の世界を束ねる尊厳ある国家として「国際社会において名誉ある地位を占める」べきであると考える。
今回のアメリカによるイラン攻撃については、明確に両者の停戦協定などを文書で不用意に結ぼうとすると、互いのメンツをかけた条件がかみ合わずに破綻するので、アメリカが事実上攻撃を止めるという状態を作るべきである。