金与正氏とキム・ジュエ氏 「状況次第で内部抗争も」康仁徳元統一相:朝日新聞
西側メディアが「キム・ジュエ」と呼ぶ、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記の娘。同氏の実妹、金与正(キムヨジョン)党副部長との関係はどうなっているのでしょうか。韓国中央情報部(KCIA)で長く北朝鮮研究に携わった康仁徳(カンインドク)元統一相は「状況次第では、深刻な内部抗争を生む可能性もある」と語る一方、「世襲制度を廃止しない限り、北朝鮮の未来はない」と指摘します。
――ジュエ氏は9月、金正恩氏の訪中に同行しました。
ジュエ氏が後継者の可能性が高いと考えますが、今は時間をかけて北朝鮮社会に認知させている段階だと思います。北朝鮮では依然、男尊女卑の儒教思想が残っています。高齢者のなかにはジュエ氏を後継者として受け入れにくい雰囲気があるのでしょう。
――ジュエ氏は中国側要人と接触しなかったようです。
まだ、後継者として中国側にお披露目する段階に至っていないのでしょう。今回は、北朝鮮国民に後継者として認識させるとともに、金正恩氏の食事や着替えなど、身の回りの世話をするために同行したのではないかとみています。
康仁徳・元韓国統一相=2025年10月23日、東京都内、牧野愛博撮影――ジュエ氏は長女とみられています。
金正恩氏には2人子どもがいるようですが、下の子も女性でしょう。男性なら、そちらを後継者として公開しているはずです。
ジュエ氏は現在は後継の最有力者ですが、将来、男子が誕生すれば、そちらを後継者にする可能性もあります。
――金正日(キムジョンイル)総書記も金正恩氏も党務や政務の実績を積んだ後、対外的に存在が公開されました。
公務に就いていないジュエ氏を対外的に公開したのは、金正恩氏の健康状態と関係があると思います。金正恩氏は肥満体で、足を引きずる様子の映像が流れたことや、2カ月近く対外活動が公開されなかったこともありました。金正恩氏に万が一の事態が起きたとき、いつでも後継者になれる準備をしているのでしょう。
また、金正恩氏の父、金正日氏は脳卒中で倒れた2008年まで後継者を決めませんでした。金日成(キムイルソン)主席が晩年、深刻な経済危機を懸念して権力を金正日氏から取り戻そうとする動きを見せたことがあったからです。事件は金正日氏の権力への執着心を強め、たとえ子どもであっても後継者を決めてしまえば、自らの権力が揺らぎかねないと心配したのだと思います。
このため、金正恩氏は後継者に決まってから、実際に権力を継承するまでの期間が3年しかなく、人脈や経験不足に苦しみました。「自分と同じ苦労を子どもに味わわせたくない」と考えているのでしょう。
北朝鮮は最近、ロシアとの協力を誇示し、海沿いのリゾート施設で楽しむ市民の姿を公開しました。一方で、各国の調査や脱北者の証言を積み重ねると、北朝鮮が長く自称する「地上の楽園」の表と裏が浮かび上がります。最新情勢を5回の連載で伝えます。
金正恩氏の公開活動写真、「選んでいるのは金与正氏」
――北朝鮮メディアが金正恩…
【30周年キャンペーン】今なら2カ月間無料で有料記事が読み放題!詳しくはこちら
この記事を書いた人
- 牧野愛博
- 専門記者|外交担当
- 専門・関心分野
- 外交、安全保障、朝鮮半島