「ユダヤ人が絶対的な被害者」ガザの痛みがイスラエルに届かないワケ(ダイヤモンド・オンライン)

 イスラエルの首都・テルアビブから、ガザやヨルダン川西岸地区までは、車で1時間と近い距離にある。しかし、イスラエルで暮らすユダヤ人たちには、あらゆる人道的危機に苦しみ続けるパレスチナの人々の声は全く届かない。なぜ、イスラエルの人々の胸は痛まないのか。その背景には、ユダヤ人が先祖代々から伝えられた「強い被害者意識」があった――。※本稿は、高橋真樹『もしも君の町がガザだったら』(ポプラ社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● たとえ話: 「もしも君の町がイスラエルだったら?」  君は高校2年生。両親と、お姉さん(大学生)、妹(中学生)の5人家族だ。猫も1匹いる。お父さんはIT企業で働くエンジニア、お母さんは看護師の仕事をしている。家族の収入は平均よりも多く、お金に困ることはない。  君が住む町は、海沿いにお店やレストランがならび、ヨットやサーフィンも楽しめるすばらしい場所だ。ただこの町は、近くに住む「テロリスト」にねらわれている。   君が生まれる少し前には、カフェやバス停で「自爆テロ」があった。テロリストは、体に爆弾を巻きつけて、見知らぬ人を殺す。どうやら悪い宗教に洗脳されて、そんなことをするようになってしまったようだ。  でも、君が生まれてからは「自爆テロ」はほとんどなくなった。国が巨大な壁で、テロリストを閉じこめたからだ。そしてテロリストに武器が届かないように、物の出入りも管理してくれている。  でも、町の人々の恐怖がなくなったわけじゃない。こちら側に来られなくなったテロリストは、ロケット弾を開発して町に向けて撃ってくるようになった。そこで、町はあちこちにシェルターをつくった。ロケット弾が落ちても命が守れるように。シェルターは、君の家や学校にもあって、君も何度か逃げたことがある。

 幸い、犠牲者はほとんど出ていない。国が迎撃ミサイルで、ロケットのほとんどを撃ち落としているからだ。それでも、とつぜん警報サイレンが鳴るのは心臓に悪いし、そのたびに勉強や遊び、仕事が中断されるから、みんなうんざりしている。以前、飼い猫をシェルターに連れていけないことがあった。妹は「うちの猫に何かあったら許さないから!」と怒っていた。 ● 国防大臣が言った 「奴らは人間じゃない」  君の国には、徴兵制がある。  18歳になるとみんな防衛軍に入ることになっている。君も高校を卒業したら、兵士になる。お姉さんはもう兵役を終えたけれど、退役後も命令が出たらいつでも戦場に行かなければいけない。君の両親も、みんな経験してきたことだ。テロリストが近くにいるかぎり、こうやって国や家族を守りつづけなければならない。  そんなある日、大事件が起きた。絶対に破れないとされていた壁を破壊して、テロリストが町になだれこんだ。そして、子どもや女性、高齢者が大勢殺された。  犠牲者には君の遠い親戚もいたらしい。  お姉さんがつぶやいた。  「ひどい!こっちは戦いたくないのに、なぜあの人たちは殺しにくるの!?」  事件を受けて国防大臣が言った。「奴らは人間じゃない」と。それを聞いた妹が言った。  「同じ人間なら話しあいができるかもしれないけど、人間じゃないなら無理なのかも……」  事件の次の日から、防衛軍の戦闘機がテロリストの住む地域にはげしい空爆を続けている。子どもたちも犠牲になっているというニュースを聞いて、お父さんが言う。  「もちろんいいことじゃない。でも、壁の反対側の住民の多くは、テロ組織を支持している。だからあそこに住む人は、全員テロリストのなかまだと思われてもしかたがないんだ。もう二度とあんなこと起こさないように、軍にはがんばってもらわないと」  君はもうすぐ兵士になる。市民を守って、平和な世界をつくるために……。 ● ガザや西岸からの悲痛な声が イスラエル市民に届かない理由  ここでは、イスラエルの市民から見た紛争を想像してもらった。ガザや西岸の話を通して誤解してほしくないのは、「イスラエル人=悪い人」ではないことだ。ではなぜ、占領やジェノサイドのような攻撃を支持するのだろうか(注1)?  (注1)2023年末の世論調査では、ユダヤ系イスラエル人のおよそ8割が、「軍事計画を立てる際、ガザの人々の苦しみを考えるべきではない」とこたえている(23年12月19日にイスラエル民主主義研究所が発表した調査結果より)

ダイヤモンド・オンライン
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