米FRB、明確なシグナル発信は避ける見通し-利下げの時期巡り

米金融当局は30日まで開く連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、5会合連続となる政策金利据え置きを決める見通しだ。

  会合後にパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が記者会見に臨むが、当局が利下げに近づいているかヒントを探っても、投資家は手掛かりを得られないかもしれない。

  現在予想されている金利据え置きには、FOMCメンバーの1人ないし2人が反対票を投じる可能性がある。その場合、当局者の一部が早期のフェデラルファンド(FF)金利誘導目標引き下げを支持していることが裏付けられることになりそうだ。

  ただ、9月16、17両日の次回FOMC会合までに大量の経済指標の発表が予定されており、パウエル議長は経済の方向性と政策の適切な進路が一段と明確になるまで、選択肢を残す判断を下す可能性がある。

  FRBでエコノミストを務め、現在は銀行業界団体バンク・ポリシー・インスティテュート(BPI)の調査責任者、ビル・ネルソン氏はリポートで、「FOMCが金利据え置きを決めることに疑いの余地はない」とコメント。その上で、「問題は9月会合での利下げについて一層柔軟な姿勢を示すかどうかだ」と指摘した。

関連記事:FOMC、金利据え置きの公算も議論激化か-市場は秋の利下げにらむ

  トランプ大統領は利下げ注文を繰り返し表明している。また、パウエル議長は会見で、25億ドル(約3710億円)に費用が膨らんだ首都ワシントンのFRB本部改修工事について、記者団の質問を受けるのは確実と考えられる。

  FOMC政策決定は米東部時間30日午後2時(日本時間31日午前3時)に発表され、2時半からパウエル議長が会見する。

9月会合の見通し

  今週のFOMC会合を終えると、年内の会合は9、10、12各月の3回だけとなる。米金融当局者は6月に公表した金利予測分布図(ドット・プロット)で中央値として年内2回の利下げ予想を示した。

  シティグループのエコノミスト、ベロニカ・クラーク氏はこの予想に関し、「当局者の多くは引き続き静観の姿勢を保っているものの、9月は極めて妥当だ」とし、同月利下げの公算が大きいとの見方を示した。

  しかし、パウエル議長がそうした方向にどの程度予想を誘導するかは依然として不透明だと、BPIのネルソン氏は指摘する。FF金利先物市場の動向に基づけば、投資家が織り込む9月利下げの確率は60%強となっている。当局者は会合前に発表される経済指標を確認する機会を得るまでは、この確率がさらに高まることを望まないかもしれないと、ネルソン氏は論じた。

  9月のFOMC会合までに、8月1日発表予定の7月分を含め、あと2回の雇用統計を確認することになる。また、インフレや個人消費、住宅市場に関する統計発表も予定されている。

  ネルソン氏は「委員会が選択肢を残しておきたいのであれば、あくまで慎重に中立的な姿勢を保ち、引き続きデータ次第であることを強調する必要がある」と説明した。

反対票

  FOMCが会合後の声明で労働市場を「堅調」とする表現を維持する判断を下せば、米雇用情勢が一段と脆弱(ぜいじゃく)になっていることを懸念する当局者が反対票を投じる可能性がある。

  ウォラーFRB理事は17日の講演で、「ソフトデータとハードデータの両方を見渡すと、労働市場が瀬戸際にあるという印象を受ける」と述べ、7月会合での利下げを支持する考えを表明した。ボウマンFRB副議長(銀行監督担当)も今週の会合での利下げ検討の用意を明らかにしている。

関連記事:米FRBは今月0.25ポイント利下げを-労働市場支援でウォラー理事

  ウォラー、ボウマン両氏が反対票を投じれば、2人の理事が政策決定に反対するのは1993年以来となる。注目すべき事態ではあるものの、FRBウォッチャーの一部は、政策が転換点に近づいている局面では、当局者間に意見の相違があるのは当然だとしている。

関税の影響

  パウエル議長は最新のインフレ指標の解釈を巡り質問を受ける公算が大きい。議長をはじめとする当局者は、関税が物価に与える影響を明確に把握するまでは、利下げに慎重な姿勢を示している。トランプ氏は8月1日を関税交渉の期限としており、米国の平均関税率がどの水準に落ち着くかや、経済見通しがどうなるかについて、一定の見通しが得られる可能性がある。

  ウォラー理事は関税が一時的な価格上昇につながると予想しているのに対し、他の当局者はインフレへの影響が一層持続的なものになる可能性を懸念している。

  一部の物品価格は上昇しているものの、一段と顕著な影響がないことに多くのエコノミストは困惑している。EYパルテノンのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は企業による在庫輸入の前倒しや、利益率低下を通じた打撃吸収に加え、少なくとも現時点では関税の負担の一部をサプライチェーン全体で分担していることで、影響の顕在化が遅れている可能性があると述べた。

政治的圧力

  パウエル議長の記者会見では、FRB本部改修プロジェクトや、トランプ氏や共和党議員らによる先週の現場視察など、さまざまな話題が取り上げられると予想される。パウエル議長には、政治的圧力が当局者の政策決定能力に影響を与えているのかどうか質問があるかもしれない。

関連記事:トランプ米大統領、パウエル議長解任は不要-FRB本部改修を視察

  一方、ベッセント財務長官は23日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、金融当局の「ミッションクリープ(任務の逸脱・拡張)が金融政策の独立性を危うくしている」と述べ、パウエル議長が金融政策以外のFRBの活動について「内部調査を実施すれば、議長自身にもFRBにとっても有益だろう」と語った。

  ベッセント氏は「内部調査が真剣なものに見えなかった場合は、外部調査が必要になるかもしれない」とも話しており、パウエル議長はこうした指摘を巡っても記者団の質問を受ける可能性がある。

関連記事:パウエル議長の後任選定「急ぐ必要はない」-ベッセント財務長官 (1)

原題:Fed to Avoid Clear Signal on Rate-Cut Timing: Decision-Day Guide(抜粋)

関連記事: