「火病」というか…|広尾晃「野球のことを中心に、そのほかの話題も」

ワールドカップで1次リーグ敗退した韓国代表の洪明甫監督に対して、母国韓国で猛烈なバッシングが広がっている。一般の心無い人だけでなく、李在明大統領までもが「能力よりも身内びいきを重視し無能な人物を指揮官に選べば、結果は火を見るよりも明らかだ」と痛烈に批判した。韓国という国、韓国人という人々は、何事につけ「毀誉褒貶が激しい」が、これがこの国の「宿痾」であるように思う。

日本の井端監督は…

3月のWBCで日本代表は、ベスト8でベネズエラに敗退した。前回大会で世界一になった日本は「連覇」がかかっていた。大谷翔平以下、メジャーリーガーの参加も多く、日本は「史上最強」の呼び声も高かっただけに、敗退した時には、落胆の声が聞かれた。井端弘和監督の「指導力不足」「経験不足」への批判はあったが、井端に対する「人格批判」「個人攻撃」などはなかった。もちろんSNSではひどい言葉が並んだが、匿名で誹謗中傷するネット民は国によらずモラルが崩壊している。日本ではまともな人は落胆こそすれ、井端弘和の人格を貶めるような声は出なかった。井端は日本代表監督を辞任したが、中日監督の後任候補などに名前が挙がっている。少なくともキャリアを絶たれることはなかった。

警察が乗り出す騒ぎに

韓国代表の洪明甫監督は、帰国の際、空港で数百人のファンが「洪明甫、出て行け」と叫び、洪監督や韓国サッカー協会(KFA)を批判する横断幕を掲げた。新聞、メディアは「洪明甫、W杯の惨事再現」と書き立て「“想定された悲劇”という専門家たちの予想を抜け出せなかった」と酷評した。「共に民主党」の国会議員宋永吉は大韓サッカー協会に対して「無能と無原則の歴史が繰り返された。今、韓国サッカーに最も必要なことは監督1人の交代ではない。大韓サッカー協会の刷新だ」と言った。事態は監督自身の責任追及でとどまらず、大韓サッカー協会の「任命責任」に及んでいる。李在明大統領は「能力よりも“身内を重視”し、無能な人を指揮官に選べば結果は明らかだ」と言い、警察は現在、職権乱用などの疑いでサッカー協会会長らの捜査を進めているほか、韓国政府も「惨たんたる失敗の真相を把握するため」として、協会の特別監査に乗り出す方針だという。サポーター「レッドデビルズ」は「国民の前でひざまずき、サッカー界から永遠に去らなければならない」との声明を発表した。

歴史的背景

日本からすれば考えられないようなバッシングが続いている。この背景には、韓国が民主主義社会として成熟していないことがある。大韓民国は、1987年の民主化宣言から40年しかたっていない。それ以前は、李承晩、朴正熙などの軍事独裁政権だった。以後は民主主義的な選挙によって大統領が選ばれているが、敗れた旧政権の大統領が投獄され罪に問われる事態が続いた。選挙はいつもあたかも内乱のような様相を見せる。「異なる意見を持つ人とも一つの社会を形成する」という民主主義社会の原則がいまだに理解されていない印象だ。ただこれは、韓国を植民地化し、韓国の人々を「二級国民」として日本人の下に置くことで、市民社会の熟成を35年にわたって阻害した日本の責任も大きいと思う。さらに言えば「結果論が幅を利かせる風潮」がある。「勝てば官軍」で、勝者が威張り散らし、負けた相手を「水に落ちた犬を叩く」ように徹底的に攻撃する。感情が極端に振れる傾向がある。韓国という国がいまだに「儒教」の影響下にあり「既存秩序をたっとび」「面子をつぶされること」を激しく気にする意識が強いこともあろう。

日本を意識する

さらに言えば、韓国人の感情は「日本」が視野に入るとさらに大きく振れる傾向がある。戦後、韓国は朝鮮戦争後、日本の経済支援によって復興、発展したが、もともと韓国は、中国を中心とする「中華思想」において、日本より上位の国という認識があった。「兄の国」韓国が、「弟の国」日本の助けを受けることを潔しとしない気持ちが常にある。特にサッカーでは韓国は「アジア最強」を自他ともに認めていた。それだけに「日本の下風に立つ」ことを激しく嫌った。洪明甫は、ベルマーレ平塚や柏レイソルでの選手歴がある。Jリーグファンにもおなじみのサッカー人だが、そうしたキャリアも、今回の敗北によってマイナスに働いたかもしれない。日本側からは、洪明甫を援護する声が相次いだが、ライバルがそういう助け舟をすることも、癇に障ったかもしれない。何事によらず中庸を重んじる日本とは対照的に、韓国は極端に振れる。小さな話だが、韓国プロ野球KBOは、24年、MLBに先んじてABS(Automatic Ball-Strike System=自動投球判定システム)を導入した。MLBの場合、疑問のあるストライクボールを機器に確認するだけで、両チームとも「2回失敗するまで」に限定されているが、KBOはボールストライクの判定をすべて機器に任せて球審はその結果をイヤホンで受けて「ストライク、ボール」とコールするだけになった。

そんなことをすれば「審判技術」そのものが劣化すると思うが、こうした極端な「針の振れ」も韓国らしいといえる。

「火病」という言葉がある。怒りやストレスを長期間抑圧することで引き起こされる、精神や身体の疾患だが、韓国文化圏特有の「文化関連症候群」だとされる。少し前まで、そんなものがあると私は知らなかったが、中華思想の帝国、中国と陸続きで、しかも近世以降は海の向こうの日本の圧力にもさいなまれた国のストレスは相当のものだったのだと思う。

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