なぜ今、「デジタルルームミラー」が売れているのか? 8400億円市場、年率13%超成長の裏側――死角解消、ADAS連携で安全・便利の新常識へ

 デジタルルームミラーの普及を後押ししているもうひとつの要因が、技術革新とADAS(先進運転支援システム)との連携強化である。  近年、カメラやディスプレイの技術は飛躍的に進化した。高画質・低遅延・広視野角の映像表示が可能となり、初期モデルに見られた不自然な描写や視線移動時の違和感は大きく改善されている。こうした進化によって、より自然な感覚で使える製品が市場に増えている。  同時に、ADASの搭載拡大も市場の成長を後押しする。衝突被害軽減ブレーキや車線維持支援といった先進機能が、新型車への標準装備として定着しつつある。一部のデジタルルームミラーには、後側方接近警告や駐車支援ガイドラインといった機能も統合されており、安全性向上に直結する。前述のGlobal Market Insightsも、自動車産業におけるADASの採用拡大が、 「スマートリアビューミラー市場の成長を促進する重要な要因である」 と指摘している。こうした技術動向とニーズの高まりを受けて、自動車部品メーカーに加え、電子機器メーカーもこの領域に参入。開発と販売に力を注いでいる。  実際、JVCケンウッド、京セラ、パイオニアなど大手メーカーは、デジタルルームミラー型ドライブレコーダーの新製品を相次いで投入している。製品ラインナップの拡充と企業間競争が進み、性能向上と価格競争のサイクルが生まれつつある。  特に高級車や、トラック・バンといった商用車ではデジタルルームミラーのメリットが理解されやすく、標準装備やオプションとしての採用が広がっている。

 デジタルルームミラー市場は世界的に拡大しているが、地域ごとにその様相は異なる。Global Market Insightsの調査によれば、2023年時点で最大の市場シェアを握るのは北米で、全体の約35%を占める。この背景には、 ・北米でのピックアップトラックやSUVの人気 ・安全技術に対する規制や消費者意識の高さ がある。一方、最も急速な成長が見込まれているのはアジア太平洋地域である。とりわけ中国では、自動車のスマート化を後押しする政府政策や、国内メーカーによる積極的な技術導入が市場拡大を牽引している。  日本市場でも、安全性への関心の高さが普及を支える。JVCケンウッドのような電子機器メーカーだけでなく、トヨタなど大手自動車メーカーもデジタルインナーミラーの標準装備やオプション化を進めている。  日本の道路事情は特殊だ。狭い路地や限られた駐車スペースでは、後方視界の確保が重要な課題となる。こうした環境も、デジタルルームミラーへの関心を高める要因となっている。ただし、普及にはなお課題も残る。現在の製品価格は従来型ミラーより高く、アフターマーケットでは ・取付工賃 ・専門知識 が必要とされる。また、カメラ映像ならではの距離感の違いや、夜間のヘッドライトの眩しさに慣れが必要と感じるユーザーも一定数存在する。  それでも、技術革新が進めばこうした障壁は解消に向かう。量産効果によるコスト低下や、操作性の向上が課題解決に寄与するとみられる。  安全性と利便性。このふたつの普遍的な価値を提供するデジタルルームミラーは、今後も進化を続けていくだろう。自動車における標準機能として定着し、カーライフをより安全で快適なものへと変えていく可能性を秘めている。

木村義孝(フリーライター)

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