韓国大統領選、戒厳令是非の陰「対日論争」低調…対トランプ関税で共闘関係・日本ブームで反日受けず

 【ソウル=仲川高志】韓国大統領選は、日本を巡る論戦が低調なまま6月3日の投開票日を迎えそうだ。 尹錫悦(ユンソンニョル) 前大統領の戒厳令宣布への評価が最大の争点となる一方、主要候補はいずれも日韓協力重視の政策を掲げ、対日政策に大差がないことが背景にある。

31日、ソウルで保守系団体が開いた集会に集まった市民ら=大原一郎撮影

 外交・安全保障などが議題となった5月27日のテレビ討論会には、左派系最大野党「共に民主党」の 李在明(イジェミョン) 前代表(60)、保守系与党「国民の力」の 金文洙(キムムンス) 前雇用労働相(73)、保守系野党「改革新党」の 李俊錫(イジュンソク) 議員(40)らが参加した。大半の時間は対米、対北朝鮮問題に費やされ、日本に関する発言はほとんどなかった。

 戦前の日本による植民地支配を背景に、過去の大統領選では主要候補の対日政策の違いが注目されていた。2017年の選挙では左派系の 文在寅(ムンジェイン) 元大統領だけでなく、保守系候補も慰安婦問題を巡る15年の日韓合意に否定的な立場を示した。22年の選挙では李在明氏が対日強硬発言を繰り返し、尹氏が改善に意欲を示すなど対日姿勢が割れた。

 対日関係を巡る議論が盛り上がらないのは、戒厳令を宣布した尹氏に対する評価という争点以外への注目度が低いためだ。政策論争自体が置き去りにされた選挙戦となっている。

 尹氏の 罷免(ひめん) を間違った判断だと主張する一部の保守勢力は31日、ソウルで集会を開き、 弾劾(だんがい) 政局で尹氏を擁護した金氏への投票を呼びかけた。一方、李在明氏が遊説で金氏を「内乱勢力」呼ばわりするシーンが連日メディアで取り上げられている。

 韓国国内でトランプ米政権の関税措置や東アジアの安保環境の悪化に日本と協力して対応すべきだとの機運が高まっているのも大きい。主要3候補全員が「日韓・日米韓協力の重視」を主張し、相手候補との明確な違いを訴えにくい。訪日韓国人の増加など「日本ブーム」が続き、反日的な主張が有権者に浸透しにくくなっている。

 李在明氏は中道層の支持を得ようと日韓関係の重要性を強調しているが、尹政権が推進した日韓関係改善を「対日屈辱外交」と批判した経緯がある。日本政府内には「選挙向けに抑制しているだけだ」(高官)と懸念する声が根強くある。

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