「真犯人は別にいる」なぜ懲役100年から『無罪』に? ホームレス殺害の罪を着せられた18歳女性を救った“決定的証拠”が示したもの(海外の冤罪事件・平成13年)

 2006年10月6日、控訴審判決公判が開かれ、第一級殺人罪については無罪が言い渡されたものの、新たに過失致死罪に問われ、13〜45年の懲役刑が宣告される。ロバトはこの判決にも納得せず、「自分は完全に無罪である」と強く主張、その後何度も上訴を試みる。が、訴えはそのたびに退けられた一方、メディアがこの裁判を否定的に報道し続けたことで、世論はロバト無罪に傾き、再審を求める署名活動が積極的に行われるようになる。  しかし、裁判所は世間の声に耳を傾けなかった。最大の理由は、ロバトが被害者の死亡推定時刻に現場にいなかったことを証明する決定的な証拠がなかったからだ。  実は、法医学者は当初、被害者の死亡時刻は「遺体発見の1〜12時間前」、つまり7月8日の午前10時15分〜21時15分と推定していた。これが正しければロバトのアリバイは、家族や近隣住民の証言から確実に証明できる。しかし、前述のとおり、検察は死亡時刻を「遺体発見の1〜24時間前」に変更し、具体的には午前4時ごろと指摘。  ロバトが7月7日の深夜に自宅から車で3時間近くをかけてラスベガスに向かい殺害を実行した後、午前8時までには自宅に戻り何事もなかったかのように1日を過ごしたものと主張していた。

 死亡時刻変更の根拠は検察側が依頼した法医学者の鑑定結果によるものとされ、それが正しいかどうか大いに疑問だったが、いずれにしろ午前4時のアリバイを立証しない限り、ロバトの無罪は証明できない。彼女の弁護人は死亡時刻の再検証に注力し、2009年、有力な情報を得る。  きっかけは、冤罪事件を専門に扱う雑誌『ジャスティス・ディナイド』の発行人が、事件発生時に撮影された被害者ベイリーの遺体の写真を入手したことだった。発行人は何かしらの手がかりを得るべく、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バーナビーにあるサイモンフレーザー大学の犯罪学教授で昆虫学の権威でもあるゲイル・アンダーソンに写真を見せ協力を仰ぐ。  すると、彼女は即座に写真に違和感を覚える。もし検察の主張どおり7月8日午前4時が死亡時刻なら、発見された同日22時15分には遺体にハエがたかっているはずなのに、どの写真にもその痕跡が映っていなかったのだ。  通常、ハエは殺害遺体を確認すれば、ほんの数分でそこに群がり、傷口や口、鼻などに産卵し、その痕跡を明確に残す。それが無いのはなぜか。  調べるうち、アンダーソン教授は大きな矛盾に気づく。事件が発覚した7月はハエが最も積極的に活動する時期。ただし、その活動時間は日がのぼって気温が上昇してからだ。逆に言えば、気温が下がるとハエは動かない。これが意味するところは、ただ一つ。ベイリーが殺害されたのは日がのぼる直前で気温が上昇しつつある午前4時ごろではなく、日没後から22時ごろまでの間である可能性が高いという事実だ。


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 この結論を得た後、アンダーソン教授は2009年12月、ネバダ州警察に対して正式に声明を提出。遺体の写真にハエの産卵痕がなかったことから、死亡推定時刻は発見前の7月8日20〜22時の可能性が最も高く、その時間帯はロバトに明確なアリバイが存在するため、真犯人は別にいると主張した。  弁護側はこれを新たな証拠として2010年に再審を請求するが、裁判所はこれを却下。訴えては退けられるといったやり取りが何年にもわたり繰り返され、2017年12月19日にようやく再審開始の判決が下る。裁判所がついにアンダーソン教授の科学的証拠を認めたのだ。  同年12月29日、ネバダ州最高裁判所は再審の判決公判で、ロバトに対する全ての有罪判決を取り消す決定を下す。彼女がクラーク郡拘置所から正式に釈放されたのは5日後の2018年1月3日。このとき、ロバトは記者団に対して「買い物に行ってコーヒーが飲みたい」と口にしたそうだ。

鉄人ノンフィクション編集部/Webオリジナル(外部転載)

文春オンライン
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