「もう一歩」を乗り越えて笑顔のフィナーレ 佐久間朱莉は必然の初優勝
◇国内女子◇KKT杯バンテリンレディスオープン 最終日(20日)◇熊本空港CC(熊本)◇6565yd(パー72)◇曇り(観衆3275人)
感激はあっても驚きはない。佐久間朱莉が涙の惜敗を重ねた末、待望のツアー初優勝を決めた瞬間を、ロープ外から見守った父・浩太郎さんは平然と見届けた。
「タイミングが合えば、いずれ勝てると思っていました」と静かに受け止めた。ノーボギーの「67」で回った娘の一日に対する評価も「前半(4バーディ)は良かったですけど(1バーディの)後半は耐えるゴルフでしたし」と渋い。「今年は上手い人がみんないなくなって、だから勝てたかもしれません」。竹田麗央、山下美夢有、岩井明愛・千怜姉妹という昨季のメルセデスランキング上位5人中4人が米ツアー参戦で国内不在となった現状を踏まえ、冷静に分析した。
激辛採点は、娘に対する信頼の裏返しだろう。
2017年、千葉・我孫子GC開催の「日本女子オープン」が、佐久間のゴルフ人生の転機だった。予選ラウンドは4学年上の原英莉花と同組に。原は尾崎将司によるジュニア育成の女子第1号だった。それが縁となり、埼玉・名細(なぐわし)中3年だった佐久間は、西郷真央らが合格した「ジャンボアカデミー」第1回セレクションを前に女子第2号として門下入りした。
「年頃になると親の言うことは聞かなくなるけど、ジャンボさんは娘をしかってくれる」と浩太郎さん。尾崎の指導に夢中になった佐久間は、今も教えの原点を大事にする。「ジャンボさんは『333』という数字を大事にしているんです。『何の意味があるんですか?』と聞いたら、最初の3ホールと最後の3ホールが重要なんだと教えてもらって」。最初から最後まで気を抜かない精神を胸に、埼玉県川越市の自宅から千葉のジャンボ邸まで月に数回のレッスンに通い続け、めきめき力をつけていった。
佐久間がプロ2年目だった2022年11月「TOTOジャパンクラシック」からコンビを組む後藤勝キャディも、驚きは見せなかった。過去4度の2位と、今大会の違いを問われても「全然。全然変わりませんよ」。あえて言うなら、最終日のノーボギーラウンドの肝となった長いパーパットを3度、決めたことを挙げて「今日はあれが入っただけです」。実際に同キャディは大会開幕前日に「もう一歩だけ。要所で『ここを絶対に決める』という気持ちだけの問題です」と話していた。
過去の惜敗で何度か悔し泣きをした佐久間は、優勝の瞬間を弾むようなバンザイポーズで迎えた。「ちょっとだけ泣いたのは、何度も2位を一緒に経験してくれたキャディさんとハグした時だけでした」と明かす。
やるべきことを全部やってきた、アマチュア出場を含むツアー通算130試合目。笑顔のフィナーレは必然だった。(熊本県菊陽町/加藤裕一)