競馬界「最高峰への挑戦」から19年 凱旋門賞中継の思い出
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本稿が世に出る翌日の10月5日、フランス・パリロンシャン競馬場で第104回凱旋門賞(GⅠ・芝2400メートル)が行われます。日本からはクロワデュノール、アロヒアリイ、ビザンチンドリームの3頭が出走します。3頭ともフランスで前哨戦を勝って臨む今回の凱旋門賞。日本馬の初制覇なるか、今から楽しみです。
凱旋門賞には過去、延べ35頭の日本馬が挑戦してきました。中でも、競馬ファンのみならず、日本中の期待を背負って出走したのが、2006年のディープインパクトです。筆者は当日の凱旋門賞のテレビ中継を現地で担当しました。あれから19年、手元の資料とともに、当時を振り返ってみました。
中継担当に決まったのは、本番約3カ月前の6月中旬と記憶しています。当時は、前職のNHKに入局して10年目で、広島放送局に勤務していました。競馬中継には携わっていて、レース実況も何度か経験していましたが、まさか日本ダービーや有馬記念より前に凱旋門賞を担当するとは……。海外出張も2度目で、経験豊富な先輩アナウンサーが数多い中、果たして自分に務まるのか、と不安な気持ちになったものです。
まずは日常業務と並行して、海外競馬の情報収集を始めました。既にネットで海外のレースを見たり、海外馬の動向を把握したりできる時代で、関連サイトをチェックしながら情報を集めていきました(英語やフランス語には難儀しましたが)。前年の05年から公開が始まったGoogle Earthでパリの街並みやロンシャン競馬場(当時の呼称)の衛星写真を見て、イメージも膨らませました。
栗東に赴き、ディープインパクトを管理する池江泰郎調教師(当時)を直接取材しました。取材ノートには「折り合いをつけて行けるかどうか。スタート前の落ち着きがポイント。当日の帽子の色は黄色で」と書いたメモが残っています。
レースが近づくとともに、スポーツ紙や競馬雑誌で、ディープインパクトの記事がどんどん増えていきました。かつてない盛り上がりを感じながら、とにかく無事にレースを迎えてほしいと願っていました。
パリに入ったのはレース3日前の9月28日(木)の夜。翌29日はロンシャン競馬場の下見に行きました。コースの管理責任者に馬場について取材した後、ダメ元でコースを歩かせてもらえないか聞いたところ、なんとOKが。
ロンシャンの特徴は3コーナーを頂点とする高低差約10メートルの坂。京都競馬場の3コーナーにも坂がありますが、高低差は2倍以上。スタート地点からゴールまで2400メートルを歩き、スケールを実感できただけでなく、コーナーを曲がりながら下りていく感じも直接、見ることができ、とても貴重な経験でした。
前日からは競馬場で中継の打ち合わせやリハーサルをしながら、合間に実況練習。英語やフランス語で書かれた馬名の読み方がわからず、コーディネーターさんが優しく教えてくださったのもいい思い出です。
当日の10月1日、ロンシャンは日本のGⅠデーのようなにぎわいでした。日本からも大勢のファンが訪れ、競馬場側も日本語の場内マップを配布し、「馬券購入申込用紙」を用意したほどです。
放送は約1時間。筆者は番組の司会進行とレース実況を兼ねていて、解説の岡部幸雄・元騎手、海外競馬評論家の合田直弘さんと発走に向け、パドックでの気配やライバルの状況、当日の天候や馬場状態、レース展開などを伝えていきました。8頭立てと凱旋門賞にしては珍しい少頭数で、スローペースが予想される中、お二方からは、道中の位置取りや折り合いが鍵を握るとの話がありました。
迎えた発走。ディープインパクトは好スタートを切り、押し出されるような形で先行しましたが、坂の頂上付近では3番手。コーナーを曲がりながらの急な下りもスムーズで、手応え十分に最後の直線に入ります。
先頭に並びかけ、世界一が見えたか、と思ったところで、解説の岡部さんから「まだまだ!」の声。勝負どころはまだ先だと判断されたのでしょう。一度は先頭に立ったディープインパクトでしたが、ゴール前でレイルリンクとプライドの2頭にかわされ3位入線。後ろの馬に追い抜かれたのは初めてでした。
無事に出走し、歴史的偉業まであと一歩と迫ったことをたたえたい一方、凱旋門賞の厳しさ、勝つ難しさを目の前で見せつけられた――。そんな思いを抱いて、翌日パリを後にしました。空港に向かう車に、折りたたみ傘を忘れていました。
後日、禁止薬物が検出され、凱旋門賞は失格となったディープインパクトですが、帰国後はジャパンカップと引退レースの有馬記念を連勝。引退後は種牡馬として国内外で多くのGⅠ馬を輩出、現在は孫の世代が国内外で活躍しています。
当時、国内馬券発売はありませんでしたが、競馬ファンだけでなく、競馬に関心のない人も、ディープインパクトに注目していました。「凱旋門賞」という名前を世に知らしめた、歴史的な一日だったと思います。あれから19年。欧州の強豪に何度も阻まれてきた日本馬が今回、頂点に立つのでしょうか。ラジオNIKKEIでは当日の模様を生中継します。日曜の夜はラジオで、最高峰に挑む人と馬を応援しましょう!
(ラジオNIKKEIアナウンサー 三浦拓実)
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