「成長している部分は褒めます。でも…」鹿島アントラーズは何が変わったのか? 鬼木達監督が植え付ける最優先事項【コラム】

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 明治安田J1リーグ第15節、アビスパ福岡対鹿島アントラーズがベスト電器スタジアムで行われ、鹿島が0-1で完封勝利を挙げた。4試合連続の無失点を記録した鹿島は、連勝を5に伸ばして首位を走っている。鬼木達監督率いるチームはかつての常勝・鹿島を思わせる強さを感じさせるが、それにはある改革があった。(取材・文:加藤健一)

「意識の問題なので」鹿島アントラーズを改革

【写真:Getty Images】

 9シーズンぶりのリーグ優勝を目指す鹿島アントラーズが首位に立っている。序盤に連勝を記録したかと思えば、主力に怪我が相次ぎ、連敗も経験した。それでも再び波を乗り越え、連勝を5に伸ばしている。順風満帆ではない。それでもチームは課題に向き合いながら成長を続けている。

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 4月26日の練習後。守備への意識が高まっていることについて問われた鬼木監督はこう語った。

「全員でやるべきことをやるんだっていう話はしています。それぞれの特徴を守備でも出す。守備はやればやれるはず。意識の問題なので」

 7年間指揮を執った川崎フロンターレは攻撃的なチームで、今季から指揮を執る鹿島でも、技術的な部分にフォーカスが当てられることが多い。しかし、内容と結果の両方を追い求める監督は、攻撃だけではなく守備に対する意識を改革していた。

 FWであろうとエースであろうと、守備が免除されることはない。センターバックやGKにビルドアップで貢献を求めるように、前線の選手にもディフェンス面でのハードワークを課した。

 例外はない。特別扱いもしない。常に最優先されるのは勝利だ。

 印象的だった試合がある。


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 開幕節で湘南ベルマーレに敗れた鹿島は、続く東京ヴェルディ戦から3連勝を記録した。続く柏レイソル戦も2点を先行する良い展開だったが、57分に1点を返されてしまう。

 リカルド・ロドリゲス監督は2枚替えを行い、柏は[3-1-4-2]から[3-4-2-1]にスイッチ。渡井理己と小泉佳穂の2シャドーで打開しようという意図が透けて見えたが、間髪入れずに鬼木監督が動く。

「憎い采配だな」

 そう思わず呟きたくなる。鹿島は柴崎岳を下げて知念慶を投入し、柏の狙いを封じた。柴崎ほどの実績があっても、鹿島というチームの中では勝利のために戦う選手の1人だということを強く認識させたワンシーンだった。

 柴崎だけではなく、レオ・セアラも鈴木優磨も足が止まれば躊躇せずに交代カードを切る。監督自身の勝利への執念は、確実に選手にも伝わっている。

「守備=面倒くさい、辛いではない。守備は勝利に貢献できる手段だと選手に理解してもらうことが重要なので」

 派手なハイプレスや数字に残るタックルもそれに含まれるが、注目すべきは姿勢と意図。チャヴリッチが体を張り、荒木遼太郎はボールホルダーに寄せる。すべての選手が守備を自分ごととして捉えている。

「守備でもリズムを作れるっていうところを少しずつ理解していってくれている」

 守備への意識を浸透させるために、鬼木監督は「ちゃんと見ている」。ピッチ外では映像を活用し、指摘すべきプレーにははっきり「できていない」と言う。その一方で、見逃されそうな地味な貢献には「よく見ているぞ」と伝える。「褒める」こともそうだが、「ちゃんと見ている」ことで、その重要性が選手に伝わり、選手たちのモチベーションになっている。

 たとえば荒木遼太郎は、FC町田ゼルビア戦後にこう話している。


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「今日はボールがあまり足につかなかったので、守備で頑張ろうと思った。守備で何かしら貢献できたらいいと思っていた。目立たないかもしれないけど、攻撃でもスペースを空けるとか、他の選手の良さを引き出すとか、そういったところでもチームに貢献できる」

 守備強度の高さが売りの町田に対し、荒木は何度も敵陣でボールを奪っていた。「守備は意識の問題」という指揮官の言葉を体現しているようなパフォーマンスだった。

 それが、今のチーム全体の雰囲気とも言える。数字に残らないプレーも評価される。役割の違いはあっても、全員が“チームの勝利”という大目標に忠実に行動している。

 鬼木監督のこの考え方に、選手たちは高い信頼を寄せている。三竿健斗はこう語る。

「鬼さんは川崎でタイトルをたくさん取った監督なので、説得力が違う。求められていることをやれれば、より勝利に近づくんじゃないかとみんな思っている」

 かつての“常勝・鹿島”を思わせるような、勝負への執着心。だが、植え付けているのは単なる根性論ではない。選手たちが納得し、信じ、挑み続けられる指導の積み重ねがある。日々の練習で「なぜこれをやるのか」「どういう意図でこれが求められているのか」を明確に伝える。

「基準に達しなければ簡単には試合に出られない。それを(選手が)感じてくれている」

 そこに若手の台頭が加わり、チーム全体の底上げにもつながっている。


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 津久井佳祐や舩橋佑はまさにその象徴であり、練習試合で18歳の松本遥翔を抜擢したこともある。横浜FC戦では16歳の吉田湊海がクラブ史上最年少出場を果たした。年齢や実績は、ピッチでは関係ない。同じ評価軸で競わせる姿勢も今季の鹿島の強みだ。

「もっとやれる」「もっと成長できる」

 鬼木監督は勝敗に関係なく、試合後にそう話すことが多い。今の順位に浮かれることなく、常に成長を求める視線がある。ピッチに立てば、ベテランも若手も鹿島の一員として勝利する責任を背負う。

「急にうまくなったり、強くなったりはしない」と鬼木監督は言う。勝利を積み上げられている理由は「意識のところ」にあるという。その意識を鬼木監督はチーム全体に植え付けている。

「成長している部分は褒めます。でも、まだまだ足りない部分もある。言われる側はいい気分ではないと思いますけど、そこは指摘する」

 今の鹿島は強い。だがそれは、個人能力に頼った強さではない。全員が勝利という成果に向けて役割を全うする組織としての強さがある。

(取材・文:加藤健一)

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【了】

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