参政党と「親和性高い」英政党 白人9割超の町で支持広まる背景
欧州でポピュリズム(大衆迎合・反エリート主義)を前面に打ち出す右派政党が政界を席巻している。反移民感情や既存政党への不信感に訴えかける手法は、7月の参院選で躍進した参政党にも通じ、一部は「極右」と評されることすらある。過激な印象もある右派ポピュリスト政党が、なぜ支持を集めるのか。英国とドイツで実相を探った。
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かつての目抜き通りでは、店舗のシャッターが下りたままでさび付き、看板は崩れ落ちている。出入り口がベニヤ板で覆われ、ひびが入った建物も目立つ。
Advertisement英中部ランコーンは、リバプールとマンチェスターのほぼ中間に位置し、1970年代ごろまで化学工業で栄えた運河沿いの町だ。工場労働者が多く、長年、中道左派の労働党の牙城だった。
「この辺りにはコーヒーショップと美容院くらいしかなく、パブはほとんどなくなった。多くの人は列車でリバプールに行ってしまう」。9月上旬、中心部でワインバーを営む元労働党員のグリン・レディカンさん(76)は町の空洞化を嘆いた。
80年代ごろから業界再編などの影響で工場の閉鎖や縮小が相次いだ。レディカンさんが25年間勤めた工場も閉鎖され、中心街は次第に寂れた。英政府によると、ランコーンの空き店舗率(6月)は12%で、イングランド全体の平均値(10%)より高い。
レディカンさんは2002~03年にランコーンのあるハルトン地区で労働党トップを務めた経験もあるが、「労働党は廃れた町を立て直すと約束したのに、何も起きなかった。(中道右派の)保守党政権時代も変わらなかった。彼らはうそをついた」と憤る。
労働党に代わって、レディカンさんが支持するのは、右派ポピュリスト政党「リフォームUK(英国改革党)」だ。参政党の神谷宗幣代表が「親和性が高い他国の政党」の一つに挙げた党でもある。
5月の下院補選では、ランコーンを含む選挙区で、改革党候補が労働党候補にわずか6票差で勝利。労働党は42年ぶりにこの選挙区の議席を奪われた。
波乱の原動力となったのは、不法移民問題を焦点化する選挙戦術だった。
英国では近年、小型ボートで英仏海峡を渡ってくる不法移民が後を絶たず、1000人を超える日もある。多くは中東やアフリカから欧州に逃れた人々だ。英政府は密航対策を講じる一方、難民申請審査中は宿舎や週49ポンド(約1万円)の生活費を提供している。
ランコーンは約6万人の人口の97%を白人が占め、移民の存在感は希薄だ。だが、改革党のファラージ党首(61)らは補選の選挙戦で「移民がこの国を破産させる」と徹底的に訴えた。「全国的な争点を地方に持ち込んだ」(英紙タイムズ)とも言われる。
「(20年の)ブレグジット(英国の欧州連合離脱)で移民が減ると期待したのに、むしろ増えた。移民たちは支援制度も目当てなのだろう。その資金は私たちの税金から出ている」
レディカンさんはそうまくし立てた。介護や建設業など負担の割に低賃金の職種は、英国人が就きたがらず、移民に依存しているのが実情だ。だが低成長にあえぐ英国の失業率は4・7%(5~7月)と高く、レディカンさんは「仕事は余っていない」と主張した。
「貧しさを感じている人々の不安と弱さにつけ込んだように見える」。労働党支持者で自転車店経営のジョー・ロブソンさん(34)は改革党の手法についてこう話す。「ファラージ氏らは『移民があなたたちを貧しくして、仕事を奪う』とあおった。移民はランコーンに直接影響していないのに、スケープゴートにされたんだ」【ランコーンで福永方人】