中国系のTOEICカンニング業者乱立か、同一住所から70人申し込みも…「高得点に勉強は不要」
今月上旬に実施された英語能力試験「TOEIC」に、東京都内の同一住所から中国系とみられる約70人の申し込みがあったことが、捜査関係者への取材でわかった。一部の受験生は、イヤホンを通じて解答を聞く予定だったと話しているという。日本で大学院進学や就職を希望する中国人留学生らに、電子機器を使ったカンニングを有料で提供する業者が乱立しているとみられる。(林麟太郎、柏木万里)
試験会場に捜査員
今月7日、東京都練馬区のTOEIC試験会場。「不正受験が行われる可能性がある」との情報を得ていた警視庁の捜査員は、リストを基に受付を訪れた受験生に声をかけていった。
TOEIC不正受験の構図捜査関係者によると、当日の試験には都内の同じビルを住所とする約70人から申し込みがあった。会場は居住地と本人の希望を基に振り分けられる。捜査幹部は「同じ会場に集めるため、業者が指示したのだろう」とみる。
警視庁は、会場に来た中国籍の男女10人から事情聴取。一部は不正受験しようとしたと認め「業者にイヤホンを渡され、カンニング方法を伝えられた」「大学院進学のため、高得点が必要だった」などと話した。
小型マイクやスマートグラス
警視庁は5月、TOEIC試験の会場に替え玉受験目的で入ったとして、京都大大学院生の容疑者(27)を現行犯逮捕した。調べに、「アルバイトを探していたら、中国語で『試験を受けたら報酬を払う』とメッセージが届いた」などと供述した。
解答の伝達役だったとみられ、マスクの内側に小型マイクを隠していたほか、眼鏡型の電子機器「スマートグラス」やスマートフォン3台を所持していた。容疑者は大学院でAI(人工知能)を研究しており、偽名で受験した今年3月の試験では990点満点中945点だったという。
警視庁には5月に入り、TOEICを運営する「国際ビジネスコミュニケーション協会」(東京)から、中国人受験者の不自然な高得点や「試験中に中国語をつぶやく人物がいる」といった相談が寄せられていた。
今月7日の警視庁の事情聴取では、「SNSで見つけた業者に、5万円でカンニングを依頼したが、『解答役がいなくなったので全額返金する』と連絡があった。仕方なく、自力で受験しにきた」と語った受験生もいた。容疑者に依頼していたとみられ、中には新たに別の業者に頼んだと話す受験者もいたという。
「来日する中国人の競争激化」
試験での不正を請け負うとする中国のSNS。「TOEIC945点 怠け者の秘策」などと記されている「TOEIC900点超えの専門の替え玉集団がいます」。中国のSNSやウェブサイトには、日本でのカンニング行為を有料で手伝うとうたう業者の投稿が多数ある。「高得点に勉強は不要です」と呼びかける書き込みも確認された。
なぜ中国人留学生は、TOEICの得点を必要とするのか。3年前まで中国の大学で客員教授を務めた東京都立大の星周一郎教授(刑法)によると、中国では経済の減速に伴う就職事情の悪化などを背景に、日本への留学や日本企業への就職を目指す若者が増えている。TOEICの高スコアは就職で有利になるほか、英語の試験が免除になる大学院もあるため、不正が横行している可能性がある。
今回の事態を受け、運営側は記載された住所などが疑わしい場合、本人確認書類の提出を求める運用に改めた。受験者のスマホの電源が切れているかや眼鏡の機能の確認も始めた。
都内の日本語学校に通う中国籍の20歳代女性は、「来日する中国人同士の競争は年々激化している。業者に頼る人がいても不思議ではない」と話した。
電子機器の悪用、後絶たず
過去の主な不正受験電子機器を悪用した受験不正は相次いでいる。2022年には大学入学共通テストや一橋大の試験で、スマートフォンや小型カメラで問題が撮影され、流出した。24年の早稲田大入試では問題がスマートグラスで撮影され、スマホを通じて外部に送信されていた。
カンニング問題に詳しいITジャーナリストの三上洋氏は「中国では10年以上前から、試験会場に通信を妨害する電波を飛ばすなど厳格な対応が取られている。今後はAIの悪用なども考えられ、日本でも技術の進歩に合わせた対策の更新が求められる」と指摘する。