エース張本智和が世界王者撃破の『秘策』を明かす「武器のチキータ」を封印し歴史的V【卓球 WTT横浜】
張本智和 PHOTO:World Table Tennis
<2025年8月7日(木)~11日(月・祝)WTTチャンピオンズ横浜 @神奈川県・横浜BUNTAI>
『WTTチャンピオンズ横浜2025』結果速報・トーナメント表
8月7日(木)の開幕から熱戦が続いた卓球の国際ツアー「WTTチャンピオンズ横浜」。
その最終日の11日(月・祝)、超満員に膨れ上がった横浜BUNTAI(横浜市・関内)に激震が走った。
今年5月の世界卓球2025ドーハを制し世界王者に君臨した王楚欽(中国/世界ランク2位)が、これまで12勝2敗の張本智和(トヨタ自動車/世界ランク4位)に3ゲームを献上。
張本が優勝に王手をかけるまさかの展開に、観客席の大半を埋め尽くした中国の大応援団から悲鳴のような声が上がった。
勝負の流れを引き寄せたのは、張本の思い切った「戦術転換」だった。
中でも最大の決断は「チキータ」を封印したことだ。
台上の短いボールに横回転をかけて攻めるチキータは張本の代名詞といえる武器で、これまで数多の勝利を支えてきた得点源だ。
だが王楚欽は1カ月前のWTT USスマッシュ決勝(ラスベガス)でも、このチキータを徹底的に狙い打ち。張本はラリーに持ち込めず、反撃の糸口すらつかめないままストレート負けを喫していた。
「ラスベガスで負けた日に決めていました。明らかにチキータは通用しないと分かったので、もし次(王楚欽と)当たるなら自分の一番の武器を捨てようと。以前から分かっていましたけど、どうしてもまだフォアでのレシーブ練習が足りないと感じていたので踏み切れませんでした」
自国開催の横浜の舞台で、この英断が実を結ぶ。
張本はネット際へ短く落とすストップと、王楚欽のバック側深くへ送る長いツッツキを多用。
第1ゲームはストップ、第2ゲームは長いツッツキ、第3ゲームは再びストップを中心に変化をつけ、王楚欽の予測をことごとく外した。
そして王楚欽に持ち上げさせたボールをカウンターで仕留め、3ゲーム先取に成功した。
もちろんストップやツッツキはこれまでも使ってきたが、「試合の頭から徹底して使うのは初めて」と張本。
「得意な戦術を捨てる不安はあって、『この戦術で合っているのかな?』と思う瞬間はありましたけど、それ以上に、今までたくさん(王楚欽に)負けてきた分、新たな戦術を試せたし、捨て身のプレーと気持ちで向かっていくことができました」
しかし、第4ゲームからは王楚欽が反撃。ロングサーブで張本のストップやツッツキを封じ、彼には珍しいバックハンドのミスも減少。
長いツッツキも強烈な回り込みフォアドライブで打ち抜き、第4、5ゲームを連取した。
狂喜乱舞の中国応援団。それでも張本は動じることなく第6ゲームはペースを奪い返す。
膝の痛みでメディカルタイムアウトを取る場面もあったが、再開後は逆にギアを上げ得意のチキータも解禁。11-4でこのゲームを締めくくり、王楚欽戦8連敗中の流れに歯止めをかけて優勝した。
ゲームカウントは4-2。長く立ちはだかってきた壁を破った瞬間であり、戦術の幅を広げたエース張本の真骨頂を見た一戦だった。
「1回勝ったことで、次はやりづらいという印象付けができたのではないか」と本人。
ただし、相手は2024年3月から今年2月まで約1年2カ月にわたって世界ランク1位をキープしてきた王楚欽だ。
「1回負けたぐらいじゃ、彼の地位は揺るがない。それをいつか脅かせるよう今日の1勝を2勝、3勝にしてこの風穴をもっと大きくしていきたい」とも。
張本のWTT優勝は今季3度目。チャンピオンズに関しては初開催の2022年ヨーロピアン サマーシリーズ(ブダペスト)を制して以来、2つ目のタイトルを獲得した。
次戦は14日(木)開幕のWTTヨーロッパスマッシュ スウェーデン。24日(日)まで11日間の長丁場が控える。なお、王楚欽はこの大会にエントリーしていない。
(文=高樹ミナ)
◾️張本智和 優勝までの勝ち上がり1回戦:3-0 フィン・ルー(オーストラリア)2回戦:3-0 シェルベリ(スウェーデン)準々決勝:4-2 向鵬(中国)準決勝:4-1 ジャー(アメリカ)
決勝:4-2 王楚欽(中国)