アングル:米政権の120億ドル農家支援、「一時しのぎ」 根本解決にならず

オハイオ州ディアフィールドの大豆畑で2021年10月撮影。 REUTERS/Dane Rhys

[ワシントン 10日 ロイター] - トランプ米大統領は8日、国内農家に対する総額120億ドル(約1兆8600億円)の支援パッケージを発表した。米農業は今年、農産物価格の低迷や貿易戦争による輸出機会の喪失で深刻な損失に直面している。農家からは歓迎の声とともに、損失の穴埋めをするにはもっと高額な支援が必要との主張が聞かれる。

5人の農家と農業団体関係者、4人の農業経済学者、3人の銀行関係者がいずれも、新たな支援策は農家が次の作付けシーズンに向けた準備をする上で支えになるが、農家が被った損失の一部を埋めるだけで、低迷する農業経済の救済にはつながらないとの見方を示した。

全国農業者組合(NFU)のマイク・ストランツ副会長(アドボカシー担当)は新たな支援策について「来年までなんとか持ちこたえようとする人々にとって命綱になる。しかし、あくまで命綱であって、長期的な解決策ではない」と述べた。

農家は農産物価格の低迷に加えて、労働力や肥料、種子など投入コストの上昇に苦しんでいる。一方、トランプ氏が仕掛けた貿易戦争の影響で、大豆など農産物の輸出は落ち込んだ。

ノースダコタ州立大学農業リスク政策センターのショーン・アリタ副所長によると、農家の今年の損失額は、トウモロコシ、大豆、小麦、ピーナッツなど9つの主要農産物で総額350億―440億ドルに上る見通しだ。

トランプ政権は、新たな支援パッケージはトランプ氏の大型減税・歳出法に盛り込まれた農家支援プログラムが発効するまでの「つなぎ」であり、このプログラムが発動すれば農家への公的支援額は増えるはずだとしている。

ロリンズ農務長官は8日にホワイトハウスで、政権の最終目標は「政府からお金を得るための農業」ではなく、農家が強い市場を持つことだと述べた上で「今の状況を踏まえれば、このつなぎ策は絶対に必要だ」と力説した。

米銀行協会と連邦農業抵当公社(ファーマー・マック)による11月の農家向け融資調査によると、農業金融機関は農家の借り手のうち来年に黒字を確保できるのは半分未満にとどまると予想。流動性、所得、インフレを最大の懸念事項に挙げた。

<不十分な救済>

新たな支援パッケージが発表される前からトランプ政権は農家に対して年内に、臨時の災害支援や経済支援によって過去最高に近い総額400億ドルを供給する見通しだった。

トランプ氏の大型の減税・歳出法は、トウモロコシや大豆などの農産物について安全網プログラムが発動される基準となる参考価格の引き上げが盛り込まれており、一部の農業向け支援が来年は膨らむ可能性がある。

米農務省のリチャード・フォーダイス次官(農産生産・保全担当)は8日の電話会見で、新たな支援パッケージについて、「生産者がなんとか持ちこたえられるようにすることを目的としており、参考価格の10―21%の引き上げなど大型減税・歳出法に伴う大幅な改善策が来年10月に発効するまでの経過措置だ」と説明した。

一方、独立系農業経済学者のウェスリー・デイビス氏は、参考価格の調整は農家に歓迎されるだろうし重要だが、債務の増大やコスト上昇に見舞われている農家の状況を改善するには不十分だと指摘した。

パデュー大学/CEMグループによる10月調査によると、農家の半数以上が連邦政府からの支援金を機械や運転資金に回すのではなく、借金返済に充てると見込んでいる。

カンザス州立大学のジェニファー・イフト教授(農業経済学)も、120億ドルの支援は「かなり広い範囲に分散される。もし経済的に厳しい状況にあるなら、単なる一時しのぎでしかない」と話した。

<出血を遅らせるだけ>

中国が5月から11月にかけて米国産大豆の輸入を全面的に停止したことで、米国の大豆農家は特に大きな打撃を受けた。農家はピークとなる輸出シーズンの初めに数十億ドル規模の販売先を失い、消失した需要は回復しないだろうと、トレーダーやアナリストは見ている。

全米大豆協会のケイレブ・ラグランド会長は、政府支援は大豆で生じた損失の4分の1程度にしか対応できないと指摘。「経済的なつなぎ策を評価している」としつつ、その資金は単に「穴を埋め、出血を遅らせるだけだ」と厳しい見方を示した。

また120億ドル支援のうち果物や野菜を手がける農家が申請できるのは10億ドルに過ぎず、損失を補うには全く不十分だと、米国ポテト協会のカム・クォールズCEOは苦言を呈した。ジャガイモはラセット種だけでも今年の損失が約5億ドルに達する見通しで「もっと大きな支援が欠かせない」と訴えた。

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Washington-based award-winning journalist covering agriculture and energy including competition, regulation, federal agencies, corporate consolidation, environment and climate, racial discrimination and labour, previously at the Food and Environment Reporting Network.

P.J. is a Midwest-based reporter covering U.S. agriculture, the farm economy, commodity markets, farmland use, food production and global supply chains. Huffstutter graduated from the University of California, San Diego, and previously worked as a national correspondent and Midwest bureau chief for the Los Angeles Times. She was a 2020 fellow of the Watchdog Writers Group, a nonprofit investigative journalism program at the Donald W. Reynolds National Center for Business Journalism at the University of Missouri.

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