アングル:メキシコ「麻薬王」拘束作戦の立役者、家族と離れて要塞暮らし

メキシコ市で記者会見に臨むオマル・ガルシア・アルフシュ治安・市民保護相。1月11日撮影。REUTERS/Quetzalli Nicte-Ha/File Photo

[メキシコ市 5日 ロイター] - メキシコの「麻薬王」が死亡した作戦を率いた治安部門トップは、昼夜を問わず要塞化されたオフィスビルで生活している。治安・市民保護省の施設内には彼のために造られた1ベッドルームの住居があり、そこには寝室、ジム、キッチン、25人が座れる会議室が備わっている。幹線道路沿いに建つこの近代的複合施設を訪れたことのある政府高官によれば、居間にいると施設内の射撃場から銃声が響くこと​もあるという。そして机の上には大統領との直通電話が置かれている。

オマル・ガルシア・アルフシュ治安・市民保護相(44)は2020年以降ずっとこうした生活を送っている。この年にア‌ルフシュ氏は装甲仕様の車で通勤する途中でトラックに進路を塞がれ、道路作業員を装った武装集団から400発以上の銃弾を浴びせられた。アルフシュ氏自身も応戦し、3発の銃弾を浴びながらも生還したが、護衛2人と通行人1人が死亡した。

アルフシュ氏は、この事件はメキシコ最大級で最も残虐とされる犯罪組織「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」のリーダー、ネメシオ・オセゲラ(通称エルメンチョ、59)の犯行だと非難していた。それだけに、事件から6年後にオセゲラ容疑者を追い詰めたことは、護衛を失ったアルフシュ氏にとって非​常に個人的な意味を持つ出来事だったと友人らは話す。

アルフシュ氏本人は取材へのコメントを拒否しており、本記事の内容は、友人や同僚、治安専門家ら十数人への取材に基づいている。

アルフ​シュ氏に近い関係者によると、エルメンチョが死亡したからといってアルフシュ氏が警戒を緩めることはまずないという。一方、「麻薬王」が死亡したこと⁠でアルフシュ氏の存在感は一気に高まった。対カルテル強硬路線を主導した功績が評価され、30年に任期が終わるシェインバウム大統領の最有力後継候補に早くも浮上している。

シンクタンク「メヒコ・エバルア」の治安専​門家アルマンド・バルガス氏は「今最も有力な大統領候補はアルフシュ氏だ。彼こそが新しい治安戦略の最も存在感のあるリーダーだ」と述べた。

しかしオセゲラ容疑者殺害という強硬路線はリスクも伴う。容疑者の死後、​国内各地で暴力が急拡大し、国家警備隊の隊員25人が死亡した。今後、カルテル同士の抗争激化がさらなる流血を招く恐れもある。

<大統領からの厚い信頼>

アルフシュ氏が頭角を現したのは、シェインバウム大統領がメキシコ市長を務めていた時期にさかのぼる。当時シェインバウム氏の治安戦略を助言していたロドリゴ・カナレス氏によると、シェインバウム氏が市長に就任した当初、警察幹部に汚職疑惑が持ち上がる難しい局面で、アルフシュ氏はシェインバウム氏を支えたという。

シェインバウム​氏は2019年にメキシコ市警トップを資金洗浄疑惑で更迭し、後任としてアルフシュ氏を抜擢した。

アルフシュ氏は市警トップ就任から1年も経たないうちにハリスコカルテルの構成員から襲撃され、その後は自宅を出て市警本​部に移り住んだ。元々限られていた側近へのアクセスはさらに厳しくなり、子どもたちとも短い時間しか会えないという。「以前はレストランに行ったり、友人と会ったり、同僚の誕生日に顔を出すこともできたが、今ではほぼ生活の90%を警察施‌設内で過ごし⁠ている」と、20年来の友人は話す。

<治安の血筋>

アルフシュ氏はメキシコの有力な治安一家の出身だ。祖父は1960年代に国防相を務めた。父は1970年代に連邦治安機関のトップを務めた元上院議員で、大統領候補にも名が挙がったことがある。

警察と軍の両方を背景に持つ経歴はメキシコでは珍しく、高度に軍事化されたメキシコの治安体制を率いる上でアルフシュ氏は特異な立場にあると、元同僚は証言した。

しかしその血筋ゆえに、与党・国家再生運動(MORENA)の一部左派から警戒の目も向けられている。祖父も父も、社会運動への弾圧を伴う軍・治安部隊を率いた過去があるからだ。

アルフシュ氏自身も14年にアヨツィナパ教員学校の学生43人が失踪した事件との関わりを指摘されている。22年の真相究明委員会報​告書によると、当時はまだ中堅だったアルフシュ​氏は、当局が治安部隊の関与を覆い隠す説明をま⁠とめた会合に出席していた。アルフシュ氏は不正を否定し、「失踪した学生の捜索の調整のために出席した」と説明している。

また米国にとってアルフシュ氏は、麻薬カルテル対策でメキシコと前例のない協力体制を築く上で中心的存在でもある。米麻薬取締局(DEA)元幹部デレク・マルツ氏は、メキシコから米国へのカルテル幹部引き​渡しが進み、さらにはオセゲラ容疑者が殺害されたことに、「本当に驚いている」と話した。

<作戦の詳細>

オセゲラ容疑者拘束作戦が急展開したのは昨年11月。ハリ​スコカルテルが、アルフシュ氏⁠の捜査官2人をザポパンで拉致したことがきっかけだと、メキシコ高官は明かす。軍は容疑者の自宅を急襲。取り調べから得た情報がエルメンチョ包囲網を狭める手がかりとなった。

突破口となったのは、当局がオセゲラ容疑者の複数の恋人の1人の動きを追い、女性が向かった別荘に辿り着いたことだったと、リカルド・トレビジャ・トレホ国防相は語った。ロイターによると、米軍主導の新設の特殊部隊がその正確な位置を特定した。

しかし政府高官によると、容疑者⁠の致命的な失​策は恋愛関係ではなく、彼がその女性との間の子どもたちに会いたがったことだった。女性と子どもたちが外出した直後、メキシ​コ軍が突入。銃撃戦の末、オセゲラ容疑者は負傷し、病院に搬送されるヘリコプターの中で死亡した。容疑者の護衛8人も死亡し、治安側は兵士2人が作戦中に命を落としたほか、2人が負傷後に死亡した。

アルフシュ氏のもとには、防弾ベストを着たまま撮られたオセゲラ容疑者の​遺体の画像が、確認として送られたという。アルフシュ氏の友人で保健省高官のエドゥアルド・クラーク氏によると、容疑者が死亡した翌朝の電話でアルフシュ氏は「これでようやく肩の荷が下りた」と語ったという。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

Emily is the chief correspondent for Mexico and Central America. She won the inaugural Pulitzer Prize for audio reporting for her coverage of migrant kidnappings in Mexico. Emily covers the economy, trade, tariffs and macroeconomics.

関連記事: