インドネシア型の民主主義が勝利した日、全政党の“与党化”に市民がSNS通じて反旗、プラボウォ政治の実像(Wedge(ウェッジ))

 9月4日付Economist誌は「インドネシアで惨いことが起きるかもしれない」との社説を掲げ、現在進行中の国内暴動の背景とプラボウォの失政について論じている。概要は次の通り。  発端は若者の死だった。8月28日、国会外の抗議デモの傍を通り過ぎていたバイク便ドライバーに警察車両が衝突した。  ビデオは拡散し平和的抗議活動が全土にわたる暴動に変わった。デモ隊は財務大臣を含む5人の高官の自宅から略奪した。  元々の抗議対象は国会議員がお手盛りで決めたジャカルタの最低賃金の10倍近い住宅手当だった。今や国民は多くのことに憤慨している。強硬な警察の取り締まりから昨年大統領に選出されたプラボウォによる間違った統治まで。同国は、今や深刻な混乱に至る瀬戸際で、その原因のほとんどは大統領の統治スタイルだ。  彼は、野党との対立を嫌い、全政党を与党にしてきた。下院8政党の内7政党は完全に与党連合に参加。残る一つの政党も与党に誘っている。  内閣の大臣数は過去の50人程度から100人以上に肥大した。彼は巨大連立が常態化すべきだと示唆したことがある。それは悲惨な考えで汚職に扉を開くようなものだ。連立関係者を満足させるためプラボウォは既に今回の住宅手当のように注力してきた。議会に反対勢力はおらず、不満な国民は不平を言う機会がないので抗議行動で示すしかない。  野党不在はプラボウォの統治改善への圧力を減じるが、その圧力こそ緊急に必要だ。プラボウォの経済運営は間違っている。本年第二四半期の成長率は年率5.1%と悪くないが、水面下で問題は深刻化している。

 工業化は停滞し、国内総生産(GDP)中の製造業比率は過去20年間で半減。天然資源の活用にも失敗し、石油とガスの巨大な埋蔵量を有するのに、過去20年間、原油純輸入国だ。太陽光と風力発電の潜在力はほとんど利用されていない。  多くの国民の生活は厳しい。生活必需品価格は高騰し3年前に比べ米価は34%上昇。解雇は常態化し、大卒就職の可能性はどんどん減っている。家庭は借金に苦しんでおり、銀行住宅ローン焦げ付きは、史上最高に達している。  このような病状に対応するには、賢明な構造改革が必要だ。プラボウォはその代わり、学校給食計画と新ソブリン・ウエルス基金創設のため、政府予算の9%削減を指示した。新基金は国営企業を引き継ぎ今やその配当を得ているが、結果、既にニッケルといった商品価格低落で減少している政府歳入は急速に落ち込んだ。  ソブリン・ウエルス基金は、プラボウォにのみ説明責任を負う。これ以上縁故主義に繋がるものはない。義父の轍を踏むのか? 大統領が議会の住宅手当中止に合意したのは賢明だったが、暴力的な抗議行動を一層の弾圧の言い訳にするリスクがある。  現在のインドネシアは1998年の抗議行動で追放された独裁者スハルト統治下の警察国家とは全く異なる。しかし、スハルトの娘と結婚したプラボウォは、明らかに過去の権威主義時代の慣行を懐かしんでいるようだ。それでは、1万7000の島々からなる多民族国家を良く統治できないし、統一を維持することさえも難しい。 *   *   *

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