ニューヨーク“異色”市長の当選はトランプ政権に大打撃?11月4日の選挙結果を読み解く(Wedge(ウェッジ))

高橋和夫さんが推薦中

 アメリカでは11月4日に州や地方でいくつもの注目すべき選挙が行われた。  ニューヨーク市長選挙では、民主党候補のゾーラン・マムダニが勝利した。マムダニは現在34歳のイスラム教徒、ウガンダ生まれで両親がインド人、2018年に米国籍を取得し、25年にシリア系アメリカ人のイラストレーター/アーティストと結婚している。 【写真】複雑なアメリカでのユダヤ系を取り巻く状況  大学卒業後は、ニューヨーク市のクイーンズで低所得のマイノリティの居住者たちが住居差し押さえに伴う立ち退きを回避できるよう支援活動し、20年のニューヨーク州議会議員選挙で初当選し、22年、24年と当選を果たしている。  市長選挙への出馬表明時にはほぼ無名だったが、自らを「民主社会主義者」と位置付け、家賃の値上げ凍結、保育料や市営バスの無料化、最低賃金の引き上げなど、労働者層の生活費負担軽減を主張するとともに、財源確保のために富裕層への増税や法人税の引き上げも訴えている。パレスチナ人の権利支持を貫き、イスラエルのガザ紛争における行動を「ジェノサイド」と繰り返し批判してもいる。  マムダニは、数年前ならば、選挙に勝てる要素が一つもない候補だとみなされていただろう。このような人物が勝利したことは、多くの人に衝撃を与えた。  他の選挙でも民主党が勝利した。バージニア州知事選では元米中央情報局(CIA)職員のアビゲイル・スパンバーガー前下院議員、ニュージャージー州知事選では元海軍パイロットのマイキー・シェリル下院議員と、ともに女性が勝利した。  また、カリフォルニア州では、連邦議会下院の選挙区の区割り変更の是非を問う住民投票が行われ、賛成多数で承認された。30年まで暫定的に採用される区割りであるが、民主党の議席を5程度増やす可能性があると指摘されている。  本稿では、これらの選挙結果から米国の現状を読み解いてみたい。

 これら選挙結果はトランプ政権に「No」を突き付けたもので、政権に「大打撃」と論評する向きもある。部分的には正しいが、部分的にはやや微妙な評価である。  まず、連邦制を採用する米国の州や地方政府は、日本の都道府県・市区町村と比べて自律性が高い。連邦の選挙は原則として偶数年に実施されることになっているが、地方政府の多く、そしていくつかの州政府は、自地域の選挙結果が連邦政界の動向に連動することがないように、あえて選挙年を奇数年に設定している。  州や地方政府の選挙を大統領との関連でのみ論じるのは適切ではなく、むしろ、それぞれの地域の現状を見るために選挙を分析する方が良さそうだ。しかも、ニューヨーク市、バージニア州、ニュージャージー州、カリフォルニア州は、いずれも民主党が優位とする地域であるため、予想通りだった。トランプ政権にとっては想定内と言うべきだろう。  とはいえ、今回の選挙がトランプ大統領の政権運営に対して「No」を突き付けたものだということは言えそうだ。ニューヨーク市、バージニアとニュージャージーの首長選挙で最大の争点となったのは経済問題だった。物価高が進み、貧困者が増えて格差が拡大していることは、多くの人にとって明らかだった。  にもかかわらず、連邦では予算が成立せず政府が一時閉鎖している。大統領職も連邦議会の上下両院も全て共和党が押さえている状況であるため、多くの人は共和党に責任があると考えている(実際には上院で予算法案を通過させるためには過半数の51票ではなく60票が必要で、共和党の議席はそれを下回っている)。  これに対し、トランプ大統領は予算通過に向けて歩み寄る姿勢を示していないし、アジアに外遊していた。そして、公金は使われていないとはいえ、ホワイトハウスの東棟を取り壊して宴会場を建設しようとしている。この状態に対する反発から、反共和党という投票行動があったことは間違いないだろう。  興味深いのはニュージャージー州知事選だ。同州は民主党優位とはいえ、トランプ大統領の盟友ともいわれた時期もあった共和党のクリス・クリスティ元知事が強い人気を誇っていた。  実は選挙戦が始まった当初、二大政党の候補の支持率は競っており、共和党候補は大統領寄りの姿勢を鮮明にしていた。だが、大統領の支持率が低迷し、連邦政府閉鎖の影響が徐々に及んでいく中で、徐々にトランプと距離をとらざるを得なくなっていった。  この過程は、トランプの影響力が低下したことを明らかにしている。来年の中間選挙に向けて、共和党候補はトランプ大統領に対してどのような態度をとるべきか、真剣に検討せねばならなくなっているといえよう。  最後にカリフォルニア州の連邦議会下院の選挙区割りの見直しは、州知事のギャビン・ニューサム主導のもと州議会が提案したものである。これは、テキサス州で今年8月、トランプ大統領の求めに応じて州議会が下院選挙の区割りを共和党が有利になるよう変更したのに対抗して実施されたもので、テキサス州で得た共和党の議席増加分を相殺する狙いがあった。  この前提として知っておく必要があるのは、連邦議会下院の選挙区割りは、州内での一票の格差が生じないように国勢調査の結果を踏まえて各州が行うことになっていることである。通例は国勢調査が行われるのに合わせて、10年に一度しか行われない。その際には、州議会で優位する政党の候補に有利になるように区割りがなされることが多いが(ゲリマンダリングと呼ばれる)、カリフォルニア州ではあまりに党派的な区割りは好ましくないとの観点から、独立機関が区割りを決定することになっている。だが、その原則を乗り越えてまで住民投票で再区割りを行ったことは、テキサス州での試みへの反発が強かったと言えるだろう。  今回の選挙結果はいずれも結果自体は想定通りであり、政権にとって大打撃ではない。だが、その過程で政権に対する反発の強さとその脆弱性が明らかになったといえるだろう。

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