風邪っぽさが2〜3週間治らない…“謎風邪”の正体「ヒトメタニューモウイルス」とは? 感染経路や予防について医師が解説

 今、SNS上で「謎風邪」なるものが話題になっています。投稿などを見ると、“何となく風邪っぽい症状が、2〜3週間治らない”というのが共通しているようです。  この「謎風邪」の原因として挙がっているのが、「ヒトメタニューモウイルス(以下、hMPV)」による呼吸器感染症。確かに横浜市などの疫学調査では、このhMPV感染症が流行していることが確認されています。  日本などの温帯地域では、hMPVはインフルエンザの流行ピークから1〜2カ月遅れて流行する傾向があります。ですので、この流行は6月頃まで続く可能性が高いです。

 一般的にはまだ知名度の低いウイルスなので、これを機に正しい知識を身につけて、予防や対策に役立てていただけたらと思います。 ■ヒトメタニューモウイルスとは?   hMPVは2001年にオランダのファン・デン・フーゲン教授らのグループによって初めて特定された、ウイルスです。  原因不明の呼吸器の症状がある、幼い子どもたちの検体から見つかりました。それまでの検査技術では捉えられなかったことから、長らく「正体不明の風邪」として見過ごされてきたウイルスが、21世紀の初めに見つかったのです。

 なぜ今、流行を見せているかというと、3つの理由が考えられます。  1つは、新型コロナウイルスの影響です。  コロナ禍での感染対策により、hMPVをはじめとする呼吸器ウイルスの流行サイクルが大きく乱れました。その間ウイルスに曝露されなかったことで人々の免疫が低下し、活動再開とともに再流行(リバウンド)が起きやすくなっているのです。  2つめは、新しい変異株の出現です。最近、hMPVの遺伝子に変異株が出現しました。この変異は人間の免疫システムをすり抜ける能力が高く、これが感染急増の一因と考えられています。

 そして3つめは、診断技術の普及です。PCR検査などの診断技術が普及・進化したため、これまでは「原因不明の風邪」とされていたものが、hMPVだと診断される機会が増えたのです。 ■感染力が強く・症状はほぼ風邪  続いて、hMPVについてこれまでにわかっていることをお伝えします。  ■感染経路  主な感染経路はインフルエンザや新型コロナウイルスと同じで、咳やくしゃみ、会話などで飛ばす唾液を吸い込む飛沫感染と、ウイルスが付着したドアノブなどに触れた手で自分の目や鼻、口を触る接触感染です。


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 換気の悪い空間や混雑した空間では、空気中を漂う微小な粒子(エアロゾル)を吸い込むことで感染する可能性もあります。そのため、保育園や高齢者施設、家庭内での集団感染がよく見られます。  ■感染力の強さ  hMPVの大きな特徴は、幼少期にほぼ全員が感染するという高い感染率です。  5〜10歳までにほぼ100%の子どもが、少なくとも一度はhMPVに感染し、抗体を持ちます。ただ、hMPVに感染しても長期的な免疫記憶が作られないので、何度も感染を繰り返すことになります。

 また、症状が治まってからも数日はウイルスが体内から排出されるため、人に感染させてしまうリスクが残っていることもわかっています。  ■症状  初期症状は、咳や発熱(38〜39℃ぐらい)、鼻水、喉の痛みなどで、風邪やインフルエンザとほぼ同じです。感染してから1週間前後で症状のピークを迎えます。加えて、ウイルスが気道の粘膜にダメージをもたらすため、咳や痰といった症状が長引きやすいのも、hMPVの特徴です。

 高齢者や免疫力が低下している人では、ウイルスが喉や鼻などの上気道から、気管支や肺などの下気道にまで広がることがあり、その場合には重症化することもあります。  重症化すると、激しい咳や呼吸困難、喘鳴(ぜんめい・呼吸のたびに「ゼーゼー、ヒューヒュー」という音がする)などが現れます。重症化しやすい人は次の通りです。 【子ども】 1歳未満の乳幼児 早産児や低出生体重児 心疾患や慢性肺疾患を持つ子ども 【高齢者】 全介助または大部分で介助が必要な状態

COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、糖尿病、慢性腎臓病(透析)患者 持病を複数持っている人 ■65歳以上には危険なウイルス  予後についてですが、先に挙げたリスク因子のない子どもや成人では亡くなることはほぼありませんが、高齢者にとっては致命的となりうる感染症です。  国際感染症学会に投稿された最新の研究報告によれば、hMPV感染で入院した65歳以上の高齢者の12カ月後死亡率は、34.8%に達していました。 これは呼吸器症状が直接の死因になっているだけでなく、ウイルスが引き金となって全身の持病を悪化させる「負の連鎖」を引き起こしたものと考えられています。


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 ■診断・検査  クリニックなどではインフルエンザや新型コロナでも使われている「迅速抗原検査(イムノクロマト法)」が行われています。ただ、キットやウイルスの型によって検出力に差があるほか、後述するPCR法より感度が低いため、陰性でも感染を完全に否定することはできません。  しばしば筆者のクリニックにも、福祉施設や保育園で働く方が、勤務先から「ウイルスがいないか検査してきて」と指示されて受診することがありますが、その都度、「ウイルスがいないことを確認する検査ではない」ことをお伝えしています。

 なお、hMPVの迅速抗原検査の保険適用は、「肺炎が強く疑われる6歳未満」に限定されており、それ以外の人には使えません。  保険外(自費)で検査を行うことは可能ですが、4000円程度の費用がかかります。症状的には普通の風邪ですので、症状が軽症〜中等症の成人は必ずしもウイルスを特定する必要はなく、症状に応じた薬を処方してもらい休養するのが最善の方法です。  肺炎などで入院が必要な場合は、病院でhMPVを含む複数の呼吸器ウイルスや細菌を一度に検出できる「マルチプレックスPCR検査」が実施されています。

■抗菌薬は「使わない」理由  ■治療法  hMPVにはインフルエンザのような抗ウイルス薬がなく、治療は水分補給、解熱鎮痛薬、咳止めなどの対症療法(症状を和らげる治療)が基本となります。  風邪というと、抗菌薬が効くと思われている方は多いでしょう。しかし、ウイルス感染に抗菌薬は何の効果もないどころか、薬剤耐性菌ができるなどデメリットのほうが多いです。  残念ながら、先の医学雑誌に載った別の調査によると、調査対象となった患者の47%は、経験的に抗菌薬が投与されていたことが明らかになっています。基本的にhMPVには抗菌薬は不要ですので、もし受診した先の医師が「念のために、抗菌薬を処方しましょう」と言ってきたら、「まだいらない」と断るのが賢明でしょう。


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 ■予防  インフルエンザや新型コロナなど、一般的な風邪と同じ対策が有効です。  石けんと流水で20秒以上手を洗う、60%以上のアルコール消毒液を使う、洗っていない手で顔を触らない、咳エチケットを守る、換気の悪い場所ではマスクを着用する、よく触れるものの表面は消毒する、といったことが勧められます。  現在のところhMPVに対する有効なワクチンは実用化されていないため、睡眠や食事で免疫力を保つことも重要です。

■想像以上に身近なウイルス  hMPVは、私たちが想像する以上に身近なウイルスです。そしてこのウイルスがもたらす感染症は、子どもの成長過程で避けて通れない関門です。一方で、高齢者にとっては「静かなる殺人者」として見ておかなければなりません。  ワクチンが実用化されるまでは、特に流行時期には手洗いや手指消毒を徹底し、そして「症状があるときは無理をせず、周囲に広げない」という基本的な感染対策が必要です。  特に自立度が低下している高齢者が身近にいる場合は、周囲の人がウイルスを持ち込まないよう、細心の注意を払うことが大切です。

久住 英二 :立川パークスクリニック院長

東洋経済オンライン
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