上空わずか230kmを通過 直径1m未満の小惑星「2025 UC11」を発見
小惑星は毎日のように、地球の近くをかすめるように通過しています。今まではそのような接近遭遇を観測することは困難でしたが、観測技術の向上により、年々観測数が増えています。
2025年10月30日(※1)、「2025 UC11」という直径1mにも満たない小惑星が地球の近くを通過しました。最接近時には上空わずか230kmの場所を通過しており、衝突したものを除けば、観測史上最も地球に接近した小惑星となります。衝突の約7時間前に発見されたことや、個別に識別された最小級の天体であるなど、2025 UC11はいくつかの点で記録的な天体となっています。
※1…本記事では日時を世界時で記述します。日本標準時に直すには時間を9時間進めてください。
【▲ 図1: 地球に最接近した時の2025 UC11の軌道(黄色)。(Credit: Tony Dunn)】小惑星「2025 UC11」の概要
2025年10月30日5時10分、ジェット推進研究所(JPL)の「SynTrackロボット望遠鏡」(アメリカ、カリフォルニア州、オーベリー)が地球に接近する天体を観測しました。欧州宇宙機関(ESA)の衝突天体警報システム「Meerkat」によって、暫定的に「ST25J47」という識別符号が振られたこの天体は、当初は衝突確率が約47%と算出されました。
2024年には、衝突前に発見できた小惑星が4個あったのに対し、今年はまだ1個も発見されていなかったため、天文台はすぐさまこの天体に注目し、合計で9箇所もの観測所がST25J47を観測しました。
数時間の間に行われた追加観測により、ST25J47は衝突しないことが判明しました。しかし一時的とはいえ衝突確率が半々だったのは、最接近距離が極めて近いことが理由でした。実際、初観測から約7時間後の同日12時11分、ST25J47は南大西洋上空約230kmの距離を、相対速度約11km/sで通過しました。
そして同日20時57分、小惑星センターが発行する電子回報により、この天体に「2025 UC11」の仮符号が割り当てられたことが公表されました。
2025 UC11の軌道は、地球に接近したために大きく変更されました。接近前は地球軌道より外側を公転するアポロ群に属していましたが、接近後は地球軌道と交差する公転軌道のアテン群に変わっています。
いくつもの記録を持つ小惑星に
【▲ 図2: 今回発見された2025 UC11は、観測史上1位か、それに匹敵する値を持っています。(Credit: 彩恵りり)】2025 UC11そのものは、太陽系に無数にある小惑星の1つに過ぎません。また、仮に衝突していたとしても、せいぜい小さな欠片が隕石として落下する程度であり、脅威とはなりません。しかし2025 UC11は、いくつかの記録を持つという点で注目されます。
最も分かりやすいのは、上空わずか230kmの距離を通過したことでしょう。地球の大気圏と宇宙空間との境界である高度100kmのカーマン・ラインのわずか2.3倍の距離であり、高度400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)よりも地球に接近しています。
衝突したものを除いた、これまでの小惑星の最接近記録は、2020年11月13日に約370kmまで接近した「2020 VT4」でした。このため2025 UC11は、観測史上最も地球に接近した小惑星となります(※2)。
また、2025 UC11の絶対等級は34.06であると推定されています。この数値は、特定の条件での小惑星の明るさを示しているため、数値が大きい=暗い天体であるほど、大きさが小さいという目安になります(※3)。2025 UC11の絶対等級は最小級の値となっています(※4)。そしてこの絶対等級の値から単純に計算すると、2025 UC11の推定直径はわずか41~93cmとなります。この大きさは小惑星のみならず、1個の天体として識別・命名された天体としても最小級の天体となります(※5)。
【▲ 図3: 地表から5000km以内に接近した小惑星の一覧。挙げられた13個全てが過去6年以内に発見されています。(Credit: 彩恵りり)】2025 UC11は1m未満という小ささにも関わらず、最接近の約7時間前に発見されました。上空1000km未満まで接近した小惑星は2025 UC11を含め3例ありますが、最接近前に発見されたのはこれが初めてです。
地球の半径よりも小さい、上空5000km未満を通過した小惑星は過去に13個発見されていますが、その全てが過去6年以内の発見です。このような観測が難しい天体を見逃さないことは、もっと大きくて災害になり得る小惑星を見逃さないことに繋がるため、とても重要です。ESAは、2025 UC11のような発見事例は、世界中の惑星防衛(プラネタリー・ディフェンス)の能力の向上が示されているとコメントしています。
※2…名目上は最接近距離が0kmとなる、地球に衝突する前に発見された11例の小惑星を除きます。また、大気圏に突入した後離脱した火球は、小惑星としての名前が付けられていないため、これも除外しています。
※3…小惑星などの絶対等級は、恒星などの絶対等級とは異なることに注意が必要です。小惑星などの絶対等級に31.57を足せば、恒星などの絶対等級になります。
※4…小惑星センターのデータベースでは、絶対等級34.37の「2015 FF415」が最も暗い絶対等級級の値を持つ小惑星として掲載されています。しかしESAのニュースレターでは、2025 UC11を指して「衝突しなかった既知の天体としては記録上最も暗い絶対等級」と表現しており、2015 FF415については触れていません。取り上げない理由がはっきりと分からないため、本文ではこのような表現としました。
※5…絶対等級はあくまで明るさを表す値であるため、絶対等級が同じ値の天体でも、色が白に近いほど、実際の大きさは小さくなります。このため、2025 UC11が真に最も小さな天体であるかどうかは不明のままです。例えば、絶対等級32.84と2025 UC11より明るい小惑星「2024 BX1」は、落下前の大きさは直径44cmであったと推定されています。地球に落下して隕石が回収されたことで、白っぽい色をしていることが判明し、より正確な直径が算出されています。
ひとことコメント
これほどの小惑星のニアミスも驚きだけど、1mに満たない小惑星を発見したという点でもスゴいよね!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部