2売り込みは失敗、エンブラエルのC

日本はアラブ首長国連邦にC-2を売り込み、防衛省や川崎重工業の関係者は「事前協議が実を結びつつある」と明かしていたが、エンブラエルは4日「アラブ首長国連邦空軍向けのC-390調達契約を締結した」と発表し、最終的に選ばれたのはC-2ではなくC-390だった。

参考:Mansour bin Zayed Witnesses Signing of Contract to Purchase C-390 Millennium Aircraft for UAE Air Force

川崎重工業が開発したC-2はC-17とC-130の中間に位置する戦術輸送機で、5類型撤廃前から輸出可能な国産装備品だったものの、海外市場で競合するA400MやC-390と比べて調達コストが高価で自衛隊以外の採用実績がなく、輸出を前提としたパッケージ化(整備権限、技術移転、サプライチェーンへの参加など)も行われていないため装備品調達に関連した産業面や投資回収に対するアプローチが欠落しており、海外の潜在的顧客にとっては調達候補として本当に魅力がない。

出典:航空自衛隊

それでも日本はアラブ首長国連邦にC-2を売り込み、2021年11月のドバイ航空ショーに参加した防衛省や川崎重工業の関係者はジェーンズの取材に「アラブ首長国連邦との事前協議が実を結びつつある」と明かしたが、海外のディフェンスメディアも現地メディアもC-2のアラブ首長国連邦輸出に関して何も報じず、韓国の尹大統領が2023年1月にアラブ首長国連邦を訪問して韓国防衛事業庁とタワズン評議会が「戦略的防衛産業協力」に関するMOUに署名した。

両国は韓国航空宇宙産業が開発を進めている戦術輸送機=MC-X(全長40.3m、全幅40.1m、全高13.5m、最大離陸重量92トン、最大積載量30トン、ターボファンエンジン×2基、最高速度M0.75、航続距離7,000km以上、空中給油対応、自動貨物搭載システムや自己防衛システムを搭載)を想定している可能性が高い「多目的輸送機の共同開発」に関する覚書にも署名し、アラブ首長国連邦がMC-X開発に参加する可能性も浮上していたが、最終的にアラブ首長国連邦の戦術輸送機需要を手に入れたのはエンブラエルのC-390だった。

出典:Embraer

エンブラエルとBAEシステムズは2022年7月「中東市場におけるC-390のマーケティングで協力することに合意した」と発表し、2023年11月「サウジアラビアのSAMIと航空宇宙産業における協力関係を確立することで合意した」「サウジアラビアにおけるエンブラエル製航空機の包括的なメンテナンス能力確立に取り組み、C-390の地域MRO、最終組立ライン、ミッションシステムの統合を検討する」と発表、そして今月4日「アラブ首長国連邦空軍向けのC-390調達契約を正式に締結した」と発表。

“エンブラエルとタワズン評議会が締結したC-390調達契約は確定10機+オプション10機で、アラブ首長国連邦企業と協力して整備、修理、オーバーホール(MRO)能力とアフターサービス能力を構築する予定だ。アラブ首長国連邦空軍は独自の運用環境における包括的な試験キャンペーンを含む徹底的な分析・評価プロセスを経て、C-390を「重要な任務要件を満たしつつ、運用効率とライフサイクルコストを最適化できる最適機」として選定した”

出典:Embraer

“今回の契約はC-390にとって単一国家からの最大規模の国際受注であり、中東地域における初の採用事例だ。C-390が現代の複雑な運用環境で求められる高い要求に強く適合していることを改めて示す結果となった。タワズン評議会のナッサー・フマイド・アル・ヌアイミ事務総長も「C-390を選定したのは技術的・運用的観点からの包括的な評価に基づくもので、高い性能、信頼性、現有システムとの統合性、そして長期的な多任務空輸能力の向上を保証するものだったからだ」と述べた”

エンブラエルはエンブラエル製航空機の包括的なメンテナンス能力(C-390の地域MROや最終組立ラインの設立)をサウジアラビアに立ち上げる予定だったが、これを中止してアラブ首長国連邦に同様の施設を建設する方針なので、おそらくサウジアラビアの戦術輸送機需要はC-130Jが獲得する可能性が高い。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Jayden Ford

中型軍用輸送機のシェア(1,500機前後)はC-130が独占しているものの平均機齢は30年を超えており、アフガニスタン撤退やウクライナ侵攻を経験した欧州諸国は「旧式輸送機によるロジスティクスシステムが時代遅れになっている」と再認識、多くの国で始まった中型軍用輸送機の更新で主役に躍り出ているのはC-130Jではなくブラジル空軍(19機)、ポルトガル空軍(6機)、ハンガリー空軍(2機)が採用したC-390/KC-390で、2022年以降にオランダ空軍(5機)、スウェーデン空軍(4機)、オーストリア空軍(4機)、チェコ空軍(2機)、ウズベキスタン空軍(不明)、韓国空軍(3機)、アラブ首長国連邦空軍(10機)での採用が確定。

リトアニア空軍(3機)とスロバキア空軍(3機)もC-390調達を表明して正式発注に向けた交渉を続けており、インドやコロンビアへの売り込みも進めている。C-130JではなくC-390が支持される理由は諸説あるものの、オランダ空軍の評価によればC-390は平均稼働率、運用性、メンテナンス性、技術要件の全てでC-130Jを上回り、基本設計が新しいにも関わらずC-390(5,000万ドル~6,000万ドル)はC-130J(約8,000万ドル)よりも調達コストが安価で、要求要件の2,400飛行時間をクリアするのにC-130Jなら5機必要だがC-390なら4機で済むらしい。

出典:Embraer

韓国メディアも「防衛事業庁が実施した5つの評価項目(性能、運用適性、価格、オフセット、国内企業との協力体制)でC-390は運用適性以外の項目でC-130Jを上回った」と報じ、防衛事業庁も「C-390とC-130Jでは契約条件、トレードオフ、国内企業の関与で大きな違いがあった」と証言、エンブラエルのゴメス・ネト最高経営責任者も「韓国との契約にはC-390の整備権限とMROに必要な技術移転が含まれていた」「欧米企業は武器を売っても整備権限を与えることに消極的で運用に支障をきたすことがある」と指摘したことがある。

整備権限とは武器システムのブラックボックスを指しており、導入国が手が出せないブラックボックスを整備するには開発元に送る必要があるが、C-390は整備権限を運用国に与えられるため「必要な整備作業を国内で完結できる=運用効率が高い」という意味で、韓国メディアは「C-390導入で韓国企業は同社のサプライチェーンに参加する機会が開かれた」「ブラジルとポルトガルに加えてオランダ、オーストリア、ハンガリー、チェコの導入が確定し、中東諸国やアジア諸国でもC-390が検討されているため、導入国が増えれば増えるほど韓国企業にもたらされる利益が大きくなる」と期待している。

出典:Embraer

ただし、エンブラエルにとって最大の狙いは米国市場への進出=米空軍採用で、ノースロップ・グラマンと共同で2026年2月「米国および同盟国向けに高度な空中給油能力を備えたKC-390を共同開発する」「KC-390改良型の主な特徴は先進的な自律型空中給油ブーム、強化された通信能力、状況認識および生存性へのオプション、適応性の高いミッションシステムなどが挙げられる」と発表。

米空軍の新型空中給油機構想は「脅威から遠く離れた空域に留まる大型空中給油機」が「生存性の高い小型空中給油機」に燃料を供給するハブ・アンド・スポーク方式になる可能性が高く、ここにKC-390改良型は当てはまるかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Embraer C-390

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