劣等感とはきょうでサヨナラ 阿久津未来也の「超、長かった」初勝利への道

◇国内男子◇~全英への道~ミズノオープン 最終日(31日)◇JFE瀬戸内海GC (岡山)◇7461yd(パー72)◇晴れ(観衆2864人)

もう何度も、修羅場を潜り抜けてきたかのような強さが全身に宿った。リンクスで吹き荒れる暴風と、初優勝への重圧の猛威にさらされたサンデーバックナイン。12番で6m、15番で2.5m、16番(パー3)で2mとパーパットを立て続けにカップに沈めていく。ピンチに陥った時ほど、阿久津未来也はたくましかった。

後続に1打差をつけてスタートし、3番(パー3)で4mを沈めバーディを先行。すぐに4番でボギーが来る流れも、厳しいコンディションでなら受け入れられた。「後半はバーディパットが打つ機会が17番までなくてつらかった」と苦しみに耐え、4バーディ、3ボギーの「71」をマーク。通算13アンダーは何人もの優勝経験者に4打差以上を付ける圧勝で、「うれしさがこみ上げて…感情が忙しい。不思議な感覚です」と待望の初タイトルを喜んだ。

「超、長かった」18ホール。30歳でつかんだ初勝利までの道のりも同じだった。ジュニア時代に注目され、日大4年時の2016年には「日本学生」を制しながら、プロ入り直後は下部ツアー暮らしが続いた。初めてシード選手としてレギュラーツアーを戦ったのは2022年。「未来也さんは僕のお兄さん。パットの師匠」。まだ中学生だった頃にそう尊敬してくれた中島啓太をはじめとした後輩たちが、いつの間にかツアーを引っ張る存在になった。

彼らの後塵を拝す立場になっても、阿久津は腐らなかった。パワー不足を少しでも解消すべく、ドラコンプロの山崎泰宏に師事し技に磨きをかけた。ひたむきな姿勢を支持する仲間は多く、昨年からジャパンゴルフツアー選手会の副会長を石川遼堀川未来夢とともに務める。

「自分がいる業界で、できることがあればお手伝いをさせてもらいたかった」と望んだ役職だった。未勝利だったことが気にならなかったと言えばウソになる。「ほっとした気持ちは正直、あります」。小さなコンプレックスとはきょうでお別れだ。

この日の朝、数年前からオフの合宿で世話になっている片山晋呉からスマートフォンにメッセージが入ったという。『最後まで長く、つらい戦いになると思う。球ではなく、自分の気持ちをコントロールするんだ』。永久シード選手の言葉を、ここぞという時に体現。優勝会見で自ら「そういった経緯を(メディアの)記録に残していただけないでしょうか」と切り出して、あらゆる人々への感謝も忘れなかった。

「ここはゴールではなくて、スタートラインに立った気持ちのほうが強い」。初タイトルのおまけは大舞台へのチケット。7月の「全英オープン」(ロイヤルポートラッシュGC)でメジャーの地を初めて踏む。「選手として全英の舞台に立つ。周りには昔から見てきた選手ばかり。特にことしは北アイルランドなのでロリー・マキロイさんのホーム。絶対に雰囲気に圧倒されるんですけど、選手として行くからにはギャラリーになってはいけない。地に足をつけて頑張りたい」。プロゴルファーとしての自覚はいっそう深まった。(岡山県笠岡市/桂川洋一)

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