自宅に眠る古いスマホやスマートウォッチの価値が爆上がり中
「いつか使うかも」と放置しているガジェットが、いま突然、市場で引っ張りだこになっています。
引き出しの奥で眠っている古いスマホや、捨てられずにいるスマートウォッチが「壊れていてもいいから売ってくれ!」と奪い合いになっている。
これは世界規模の「半導体危機」が、あなたの家の引き出しにまで影響しはじめた、という話です。
AIが火をつけた、チップ争奪戦
きっかけはAIブームでした。
ChatGPTをはじめとするAIサービスは「データセンター」と呼ばれる巨大なコンピュータ施設で動いています。このAIを動かすには、膨大な量のメモリチップが必要です。でも、メモリチップは世界に数社しか製造できません。
サムスン、SK Hynix、Micronといった大手メーカーが、いま競って「AIデータセンター向け」の高性能・高単価チップの生産にリソースを集中させています。まぁ、需要が爆上がりで儲かり時ですしね。気持ちはわかります。
さてその結果、私たちが使うスマホやパソコン向けの一般的なメモリチップの生産が後回しになり、供給不足が深刻化しまっているのです。
2025年秋には在庫不足が一気に表面化し、急激な価格高騰。 市場調査会社「Counterpoint Research」によると、2026年第1四半期のDRAM価格は前四半期比で90〜100%上昇しており、四半期ベースで過去最高水準の急騰となっています。
わかりやすくいうと、去年まで1,000円で買えたものが今年は2,000円になった、みたいなことが半導体の世界で起きているわけです。そのせいで、スマホやPC本体の価格も上がってきています。
そこで「古いスマホ」の出番が来た
image: generated at whisk新品スマホやPCが高くなるなかで、注目が集まっているのが「中古スマホ」。ここまでは消費者的にも何となくわかるところですが、現在はさらに「廃棄スマホの中に入っているチップ」にも手が伸びているわけです。
中国メディアの「IT之家」が伝えたところによると、メモリ価格の上昇を受け、古いスマホの回収価格が急騰。以前は数十元(日本円で数百円程度)だったスマホが、現在は100元超(約2,000円超)で買い取られるケースも出ているといいます。
さらに、画面が割れて起動もできない「完全に壊れたスマホ」が、以前の10元(約200円)から現在は500元(約1万円)で引き取られるケースも出ており、「是手机就收(スマホなら何でも買う)」という業者まで現れているそう。
スマホにとどまらず、古いMP4プレーヤー、使われなくなったスマートウォッチ、古いパソコンのメモリモジュール、いわゆる「ガラケー」までもが買取対象になっているのだとか。こうした廃棄デバイスを専門に収集する業者が増加し、現金を手にしながら家々を訪ね歩いているとも報じられています。
彼らの目的は「中のチップ」です。廃棄デバイスをバラして内部のメモリチップを取り出し、再生・再利用するために買っているのですね。画面が割れていても、水没していても、基板の上に載っているDRAMやNANDは、専門の業者が適切に取り出せば再び使えることが多いのです。
再生チップの用途は多岐にわたります。専門的な検査・洗浄・修復・テストを経た合格品は、スマートロック、監視カメラ、車載システム、工業用マザーボードといった組み込み機器や、廉価なタブレット、学習向けデバイスなどで活用。こうした機器は最先端の性能を必要としませんから、再生チップでも十分に機能するわけです。
つまり、「スマホ」として価値がなくても「素材」としては十分に価値があると。こうして生まれた「リサイクルチップ市場」が急拡大しているようです。
日本でも「おねむりスマホ」が見直される?
image: generated at whisk前述の「IT之家」によれば、中国では年間4億台以上の廃棄スマホが生まれており、その累積在庫は20億台を超えるとされています。しかし、そのうちスマホ廃棄後に専門の回収ルートに入るのは約5%にすぎず、残りの約54.2%は消費者の手元で眠ったままだといいます。
中国に眠る20億台!と言われると途方もないように見えますが……日本も他人事ではありません。
CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)と電気通信事業者協会が毎年公表しているリサイクル実態調査によると、令和5年度(2023年度)の携帯電話回収率は目標20%に対して実績9.4%にとどまっています。
MM総研の調査によると、2024年度(2024年4月〜2025年3月)の国内スマートフォン出荷台数は約3004万台、2025年度はさらに3335万台(同11.0%増)と予測されています。スマートフォンが本格的に普及した2012年以降だけでも、累計数億台が日本の家庭に渡ったことになります。
で、そのうち正規ルートで回収されているのは1割にも満たないとなれば……きっと億近いスマホが、今この瞬間も「どこか」に眠っているかもしれません。日本でも「なんでか知らないけど古いスマホも買い取ると言う業者」が現れるのは想像できる展開です。
最近だと内部の金属を再利用する、いわゆる「都市鉱山」の文脈で話されることのあった古い電子機器の価値ですが、AIという新しい波でさらに注目が上がりそうですね。
一方で、売却前に必ず意識してほしいことがあります。日本の国家安全保障局にあたる中国の機関も注意を呼びかけているように、古いスマホを処分する際のデータ消去は重要課題です。
通常の「初期化」だけでは、専門ソフトを使えばデータが復元できる状態にあることも多く、個人情報の流出リスクが残ります。となると、実はリサイクルチップのために買い取っていると思いきや、こういう情報も目当てにしている闇業者もいるかも…ということ。
売却や廃棄の前には専門的なデータ消去ソフトを使ったり、メーカーや携帯キャリアの正規ルート、信頼できるリサイクル業者を通じた処分も考えてみてください。
引き出しの奥で眠るスマホが、世界のAI開発競争の余波で「お宝」に変わる。テクノロジーと私たちの日常がこんな形でつながっていくんですね。
Source: IT之家, Yahoo!ニュース, ITmedia Mobile, semiconportal, CIAJ, MM総研