《業績急降下のホンダの苦境》EV戦略の加速が仇になり巨額損失、“三部社長の続投”に社内で渦巻く不満 「優良企業だっただけに危機に対する耐性が弱い」の指摘も

 昨年2月に経営統合が破談となったホンダと日産。だが、中国のBYDの台頭や自動運転の開発競争など、激変する外部環境が両社に再び決断を迫っている。日産自動車は4月27日、2026年3月期の営業利益が500億円の黒字になると発表し、2月時点での業績見通しから1100億円上振れた。対するホンダの状況は──。ジャーナリスト・井上久男氏がレポートする。【全3回の第2回】

 日産の業績が回復し始め、将来展望も見え始めた中で、国内大手3社の一角、ホンダの業績が急降下し、将来展望が見えづらい状況に陥っている。  ホンダは3月12日、2026年3月期決算の業績見通しで最大6900億円の最終赤字(前年同期は8358億円の黒字)になると発表した。上場以来初の赤字であり、赤字額は日産よりも大きい。ホンダは、世界でトップシェアを誇り、好調さを維持している二輪事業の利益を、不振の四輪事業が食い潰す形となった。  ホンダの三部敏宏社長は2021年の就任直後、2040年までに世界で販売する四輪車をすべてEVと燃料電池車にし、将来的にエンジン車は売らない考えを示した。  これに伴い、ホンダは四輪事業の収益源である米国市場でEV戦略を加速させ、韓国の電池大手、LGエナジーソリューションとオハイオ州に44億ドル投資してEV向け蓄電池の合弁生産工場を建設する計画などを打ち出していた。EV関連の累計投資額は3兆円を超えていた。  しかし、2025年1月に誕生した米トランプ政権がEVへの補助政策を打ち切ったことなどで流れが変わり、米国でEV市場が減速し始めた。このため、先行投資していた金型や生産設備の減損処理や、協力企業への補償などにより2025、2026年度の2年間で計2兆5000億円の巨額損失が発生する見通しとなった。

 今のホンダと日産の違いは、将来展望が明確になっているか否かだ。日産はエスピノーサ体制になって、経営のスピードが速まり、将来戦略も明確になりつつあるが、ホンダは進むべき方向性を見失っているかのようだ。  大赤字に陥った経営責任があるのに三部氏が社長を続投することに対し、社内には不満も渦巻き、社内が一枚岩になっていないように筆者の目には映る。「これまで優良企業だっただけに危機に対する耐性が弱く、あるべき姿を見失っている」(大手下請企業役員)との指摘もある。  5月14日には決算と同時に経営再建策も発表される見通しだが、その内容次第では危機の深刻度合いがさらに増す可能性すらある。昨年2月、日産とホンダの経営統合交渉が破談になった際に、日産の意思決定の遅さがホンダ側から問題視されたが、現状はそれが逆転したようにも見える。  それを象徴するのが次世代車で競争の中核となるAIと車の融合領域でのホンダの対応の遅さだ。ホンダは米ベンチャー企業のヘルムAIに出資し、共同開発を進めるものの、現時点では成果がほとんど出ていない。 ▼▼▼第3回記事▼▼▼ 【つづきを読む→】ホンダ、反転攻勢のカギは日産との連携強化か 鴻海・三菱との「日台4社連合」誕生なら自動車産業の新基軸に 【プロフィール】 井上久男(いのうえ・ひさお)/ジャーナリスト。1964年生まれ、福岡県出身。九州大学文学部卒業後、大手電機メーカーを経て朝日新聞社に入社。経済部で主に自動車や電機を担当し、2004年に独立。主な著書に『自動車会社が消える日』(文春新書)、『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)などがある。 ※週刊ポスト2026年5月22日号

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