【動画】5億年前の「ペニスワーム」の新種発見、無数の奇妙な歯
プリアプルス類の新種クレイトドラコ・スペクタトゥス(Kraytdraco spectatus)。名前の由来は『スター・ウォーズ』シリーズに登場するクレイト・ドラゴンだ。(ILLUSTRATION BY RHYDIAN EVANS)
2023年9月、古生物学者のジョバンニ・ムッシーニ氏は、米国最大級の峡谷グランドキャニオンへの探検に参加し、多くの複雑な動物が現れたとされる約5億年前のカンブリア紀の化石を探した。小さな甲殻類や軟体動物の残骸などが見つかるなか、最も興味深い発見は、2種類の小さな歯。一方の歯は鋭くとがり、もう一方は側面に羽毛のような突起があった。どちらも、ひわいな形のモンスターのものだと判明した。
そのモンスターとは、形から「ペニスワーム」と呼ばれているプリアプルス類の蠕虫(ぜんちゅう、ワーム)だ。この探検の成果を報告した論文は2025年7月23日付けで学術誌「Science Advances」に発表された。
「彼らは……独特な形をしています」と、英ケンブリッジ大学の博士課程に所属するムッシーニ氏は言う。(参考記事:「謎の深海生物「ブタ尻虫」、ピッグバットワームがSNSで話題に」)
ムッシーニ氏は『スター・ウォーズ』に夢中な同僚の提案を受け、同シリーズの配信ドラマ『マンダロリアン』に生きた姿で登場するクレイト・ドラゴンにちなんで「クレイトドラコ・スペクタトゥス(Kraytdraco spectatus)」と名付けた。クレイト・ドラゴンは巨大だが、氏によれば、K.スペクタトゥスの大きさは成体でも15〜20センチほどだ。
プリアプルス類の飛び出す喉
K.スペクタトゥスはその体内から、『エイリアン』のゼノモーフを思わせる伸縮自在な喉(のど、咽頭部)が飛び出した。この喉は、全体が歯で覆われていた。
しかし、K.スペクタトゥスはプリアプルス類のほかの種と異なっていた。喉の入り口は通常の尖った歯に覆われていたが、内部は「ほかのどこでも見たことがない」とムッシーニ氏が言う羽毛のような突起のある歯で埋め尽くされていたのだ。(参考記事:「5億年前の奇妙な新種化石を発見、全身トゲだらけ」)
【動画】グランドキャニオンで発見された5億年前の「ペニスワーム」
カンブリア紀のプリアプルス類が喉を伸縮させる様子を復元したアニメーション。(ANIMATION BY RHYDIAN EVANS)
古代ギリシャの生殖の神プリアポスにちなんで名付けられたプリアプルス類は、形が似ている脊椎動物の生殖器よりはるか昔に誕生した。
カンブリア紀以前の化石や体の残骸から、プリアプルス類は世界最古の捕食者で、穴を掘って環境を改変する生態系エンジニアでもあり、飲み込めるものは何でも食べていたことが示唆されている。ヤドカリのようにほかの動物の殻を拝借する種もいれば、小さなワームたちの宿主になる種もいた。