「移民・難民問題」で追い詰められる欧州…「強制送還の受け入れ」めぐり、タリバン政権と取引も(ニューズウィーク日本版)

[ロンドン発]英国の強硬右派政党「リフォームUK(改革英国)」のナイジェル・ファラージ党首がイスラム主義組織タリバン暫定政権を含む外国政府に対し、不法移民・難民60万人の強制送還を受け入れる見返りに20億ポンド(約4000億円)を拠出するとぶち上げた。 世界の移住したい国人気ランキング、日本は2位、1位は? 6月末までの1年間に英国への密航者は判明分だけでも4万9341人(前年同期比27%増)にのぼり、アフガニスタン人は6589人。このうち97%が小型ボートで英仏海峡を渡ってきた。密航者を送還しようにも英国はそもそもタリバンを正当な政府として認めていない。 スターマー英政権は小型ボートで不法に渡航してきた難民をフランスに強制送還する代わりに仏北部に滞在する難民申請者の中から手続きのため英国への渡航を許可した人を受け入れる「1人送還、1人受け入れ」送還制度を取り入れたものの、どれだけ効果があるのかは未知数だ。 ■移民・難民問題という欧州の泣き所 YouGovの世論調査では、改革英国党支持者でも半数が、難民申請を却下されたアフガン人を送還するためタリバンに資金援助することは「容認できない」と考えていた。「容認できる」との回答は35%。成人全体では「容認できない」が61%、「容認できる」はわずか17%だった。 反移民・難民を掲げる極右勢力が欧州で台頭する中、女性教育の禁止や人権侵害で孤立してきたタリバンが欧州の移民・難民問題という泣き所を利用して国際社会に復帰するための外交的なテコとして利用しようとする動きが目立つ。 ドイツ、スイス、オーストリアはすでにタリバン暫定政権との協力を始めている。英紙フィナンシャル・タイムズ(9月18日付)によると、ドイツ政府は7月、有罪判決を受け、難民申請を拒否されたアフガン人男性81人を送還した。 ■「重大な罪を犯した者に滞在の権利はない」 タリバンの要員2人を受け入れ、身元確認などの領事業務を行わせた。メルツ独政権は、正式な外交承認ではなく「領事業務のための技術的、運用上の措置」と説明した。アレクサンダー・ドブリント独内相は「重大な罪を犯した者に滞在の権利はない」との強硬姿勢を示す。 スイスは3月、難民申請を却下されたアフガン人単身男性について特定の状況下で送還を認める方針を示した。8月にジュネーブ空港の出入国制限区域でタリバン代表4人を受け入れ、アフガン人11人の身元確認を行わせた。スイス開発協力庁はカブールの人道オフィスを再開した。 オーストリアも今年に入って外国人難民庁の職員をカブールに派遣、タリバンと送還手続きについて協議した。9月にはタリバン代表団がウィーン入りし、拘置施設で対象者20人超の本人確認を行った。「承認ではなく技術的協力」とされるが、実務的には準国家間交渉と言える。 ■タリバンには既成事実を積み重ねる絶好の機会 こうした欧州の動きはタリバンにとって正当な政府としての既成事実を積み重ねる絶好の機会。タリバンは気候外交にも食い込む。昨年バクーで開かれた国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)では国家環境保護庁の高官が「技術代表団」として参加した。 7月、ロシアが世界で初めてタリバン暫定政権を正式承認した。中国やパキスタン、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)もタリバンの代表を受け入れたり、接触したりしている。ロシアの承認をきっかけにタリバン暫定政権が国際社会に復帰する扉が開くかもしれない。 人権を錦の御旗に掲げてきた欧州にとり最大のジレンマは国内政治の圧力と規範の乖離にある。極右台頭を前に「不法移民・難民の送還」を有権者に示す必要があり、タリバンとの協力が避けられない。しかし人権を軽視すれば自由と民主主義という欧州の建前が大きく揺らぐ。

ニューズウィーク日本版
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