義手とロボットの手を共通化するPSYONICのバイオニックハンド「Ability Hand」

触覚フィードバックを備えたバイオニックハンド「Ability Hand」を開発する米国スタートアップのPSYONIC。同社は、人間用とロボット用で同一のハンドを用いる設計思想の下、義肢とロボティクスの双方で製品展開を進めている。「3DEXPERIENCE World 2026」では、その開発背景に加え、設計/解析プロセスやダッソー・システムズのソリューションをどのように活用しているのかが示された。

 ダッソー・システムズ主催の「3DEXPERIENCE World 2026」(会期:2026年2月1~4日[現地時間]/会場:ジョージ R.ブラウン コンベンションセンター)のゼネラルセッションおよび展示会場(Playground)では、さまざまなユーザー事例が紹介されていた。

 その一つが、触覚フィードバックを備えたバイオニックハンド「Ability Hand」を手掛けるPSYONICだ。同社は、2015年創業の米国拠点のハードウェアスタートアップだ。

写真左から、PSYONIC 創業者 兼 CEOのアディール・アクタル氏と、同社 クリエイティブマーケティング担当で、Ability Handのユーザーでもあるデール・ディマシ氏

 同社の創業者 兼 CEO(最高経営責任者)であるAadeel Akhtar(アディール・アクタル)氏は、7歳のころに両親とともにパキスタンを訪れ、義肢を装着した同年代の子どもと出会った経験をきっかけに、義肢の必要性に強い関心を抱いたという。そして、同じ文化を共有しながらも医療サービスを十分に受けられない現実に衝撃を受け、世界や米国内に存在する格差を認識するようになった。

 こうした問題意識を背景に、アクタル氏は米イリノイ大学在学中にPSYONICを立ち上げ、“誰もが手ごろな価格で利用できる高度な義肢”の開発に着手した。同社は大学に所属するエンジニアによる小規模なグループから活動を開始し、その後、公衆衛生の専門家、ソーシャルワーカー、デザイナー、発展途上国で活躍する医師や臨床医、非営利団体などのメンバーを新たに加えていった。

 同社の代表プロダクトであるAbility Handは、人間と同じ5本指を備え、内部に6基のモーターを内蔵する。筋電センサーを用い、筋肉の動きに応じて各指を動かせる(親指は回転も可能)。また、各指に6個ずつ、計30個のタッチセンサーを内蔵し、物体を握った際の圧力などを検知する。ユーザーは、振動モーターを通じて触覚に相当するフィードバックを得ることができる。最大の把持/持ち上げ重量は「片手で約63kgで、条件によっては75kg程度まで対応可能だ」(アクタル氏)という。

PSYONICの展示ブースの様子[クリックで拡大]
ディマシ氏が実際に装着しているAbility Handは、スケルトン仕様で各種センシングの様子がLEDにより可視化されている[クリックで拡大]

 モーターやセンサーは全てハンド内部に収められており、重量は平均的な成人の手の重さ(約520g)よりも軽い490gを実現している。防塵(じん)/防水性能のIP64に準拠する。32種類のグリップパターン(手指の動き)に対応しており、そのうち19種類があらかじめ設定されているという。バッテリーを内蔵しており、1回の充電(USB-Cで約60分)で約6~8時間使用可能だ。腕に装着した状態で、スマートフォンなどを充電することもできる。

 また、EMG(筋電図)パターン認識、EMG直接制御システム、線形トランスデューサー、力感応抵抗器など、ほとんどのサードパーティーシステムで動作するとしている。

 現時点で、Ability Handを義手として使用しているユーザー数は300人以上。米国ではFDA(米食品医薬品局)認証を取得しており、メディケア(米国の医療保険制度)の適用対象になっている。今後、日本および米国外での認証取得も進める計画だという。

 Ability Handがユニークな点は、「人間(義手)用」と「ロボット用」の双方に対応している点だ。同社の設計思想の中核には、人間とロボットのハンドを同一に設計するという考えがある。

ハンド内部にモーターやセンサー類が収められている[クリックで拡大]

 ハンドが5本指である必要性について、アクタル氏は「生活空間や工場などの環境の多くが、人間の手を前提に設計されているためだ」と説明する。また、ロボットにおける大きな課題の1つとして“操作(マニピュレーション)”を挙げ、「それを解決する方法はデータであり、人間(ユーザー)のデータでロボットを訓練することが鍵になる」(アクタル氏)という。

 Ability Handは、6基のモーターのトルク/速度/位置制御に加え、エンコーダー値と計30個のタッチセンサー値をBLE(Bluetooth Low Energy)、I2C、UART、RS485経由でストリーミングできる。さらに、オープン化にも取り組み、API(Application Programming Interface)をGitHubで公開しているという。ヒューマノイドロボットのハンドとしてだけでなく、「KUKA、ABB、Universal Robots、ファナックなどの産業用ロボットアームに取り付けて使用することも可能だ」(アクタル氏)。

 同社のWebサイトでは、NASA、Meta、Google、Amazon、メルセデス・ベンツ、トヨタ自動車など、世界50社以上の企業でAbility Handが採用されていることを紹介している。

グループインタビューに応じるアクタル氏

 同社は、Ability Handの設計開発にダッソー・システムズの「SOLIDWORKS」を活用し、指のモールドや内部のケース、3Dプリント製の骨格など、ハンドを構成するあらゆる要素や部品を設計している。また、部位ごとにカーボンファイバーやナイロンをはじめとする複数の素材を採用しているため、「どれだけの荷重に耐えられるのか」「応力/ひずみがどこに発生するのか」といったことを「SOLIDWORKS Simulation」を使って把握しているという。

 さらに、現在開発を進めている次世代モデルでは、アクチュエーター数の増加に伴う熱の問題に対処するため、今後「3DEXPERIENCE Works Simulation」の活用も視野に入れているとのことだ。また、アクタル氏は今回のイベントで発表された新しいバーチャルコンパニオンの「LEO」を活用したAI駆動の製品開発にも高い関心を示している。

 パートナー企業との協業としては、ロボットが人間と同様のタスクを実行できるよう、現在NVIDIAと連携し、人間(ユーザー)のデータを活用してAIモデルのトレーニングを進めている。また、ダッソー・システムズとも協業を進めており、Ability Handのバーチャルツインを構築し、「キネマティクスだけでなく、モーターを含めたさまざまな要素の検証などにバーチャルツインを活用し、次世代モデルの開発に役立てている」(アクタル氏)。

(取材協力:ダッソー・システムズ)

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