中国メディアがトランプ訪中を「軽く扱った」理由…「気づかなかったとしても無理はない」(ニューズウィーク日本版)
先週の中国メディアを見たり聞いたりしていたら、トランプ米大統領が中国を訪問したことに気付かなかったとしても無理はない。 【動画】米中首脳会談で注目すべき「5つのポイント」 トランプが北京入りした5月13日、中国政府系の日刊英字紙チャイナ・デイリーの1面を飾ったのは、習近平(シー・チンピン)国家主席がタジキスタン大統領と握手する写真。共産党機関紙・人民日報も、トランプ訪中に関する論評を3面に追いやった。 結局、中国側の地味で控えめな扱いは妥当だった。トランプ訪中は拍子抜けするほど退屈だったからだ。 トランプと習が合意した内容に実質的な意味はほとんどない。例外はアメリカの食肉処理施設の対中輸出許可の更新など、貿易上のささやかな譲歩だけだった。 中国による米ボーイング製航空機の購入は事前予想を下回る規模にとどまり、市場を失望させた。イラン、台湾、日本などの地政学的な対立案件については、状況打開に向けた進展どころか本格的な議論が行われた形跡すらない。 トランプは、習がイランに武器供与しないと「力強く」約束したと語ったが、それに大きな意味はない。中国の軍事支援は、もともと水面下で行われてきたからだ。 過去の米大統領の訪中では、厳しく統制された中国のメディアはたとえ実質的成果が乏しくても、はるかに大々的に報じてきた。なぜ今回はここまで抑制的だったのか。 理由の1つは予測可能性の低さだ。過去に訪中した他の米大統領は事前合意どおりに行動し、発言も慎重に管理されていた。だがトランプには、そのような対応は到底期待できない。 過去の訪中では、中国メディアは事前準備が可能だった。何か問題が起きて面目を失うことを心配せずに予定稿を書くことができた。
だが今回は違う。訪中を前向きに扱ったら、いきなりトランプの爆弾発言が飛び出し、「重大な政治的ミス」を犯したと非難される──そんなリスクを取るメディア関係者や検閲担当者はいなかった。 過去の米大統領訪中では、中国指導部にもアメリカの「承認」を得たい思いがあった。超大国アメリカの指導者を対等の立場で迎え、寛大なホスト役を演じることで、自国民に政権の権威をアピールする効果が期待できた。 だが、中国はもはやアメリカの承認を必要としていない。今では製造業大国であることに加え、世界的な技術・科学大国としての地位も十分に確立したからだ。 一方、世界におけるアメリカの指導力はかつてなく揺らいでいる。現政権は孤立主義的で同盟国に敵対的、軍事面でも苦戦中だ。長年のパートナー国でさえアメリカとのバランスを取るため、中国に接近している。 実際、今回の訪中で承認を求めているように見えたのはトランプのほうだった。ただし国家レベルではなく、個人レベルで、だ。トランプはFOXニュースで習を大げさに称賛し、「もしハリウッドで中国の指導者役を探したとしても、彼のような男は見つからない」と語った。 トランプのおもねるような態度は、米中間の力関係と互いの認識が大きく変化したことの反映なのかもしれない。ただし、それは地政学というより心理的な変化に見える。 つまり、支持率低下とイラン戦争への批判の高まりで守勢に立たされるトランプ自身の不安の反映だ。 From Foreign Policy Magazine
ジェームズ・パーマー (フォーリン・ポリシー誌副編集長)