陸上・駅伝 - 出雲連覇の國學院大學、立役者の辻原輝が意気に感じた言葉「お前の区間で勝ちにいく」
第37回 出雲全日本大学選抜駅伝競走
10月13日@島根・出雲大社~出雲ドームの6区間45.1km
優勝 國學院大學 2時間09分12秒2位 早稲田大学 2時間09分50秒3位 創価大学 2時間10分05秒4位 アイビーリーグ選抜 2時間10分12秒5位 駒澤大学 2時間10分27秒6位 城西大学 2時間10分41秒7位 青山学院大学 2時間10分52秒
8位 帝京大学 2時間11分32秒
学生3大駅伝の幕開けとなる第37回出雲駅伝は、國學院大學が昨季以上の強さを見せた。アンカーを務めた主将の上原琉翔(4年、北山)が余裕を持ってフィニッシュテープを切り、前回王者の貫禄を示す2連覇。昨年度「二冠」を達成した出雲、全日本大学駅伝に続き、後半区間からの追い上げはお家芸になりつつある。3区の野中恒亨(3年、浜松工業)が流れを手繰り寄せると、4区の辻原輝(3年、藤沢翔陵)で勝負をほとんど決めた。
「昨年とは逆になりました」
辻原は4区のスタートラインに立つ前、中継所に設置された小さなモニターを食い入るように見ていた。画面の中では5位で襷(たすき)を受けた野中がハイペースでラップを刻み、2位集団の中で城西大学のヴィクター・キムタイ(4年、マウ)、創価大学のスティーブン・ムチーニ(3年、ミクユニ)らケニア人留学生と互角以上に渡り合っている。入学時からずっと切磋琢磨(せっさたくま)してきた同期の奮闘に刺激を受けないわけがない。
「とんでもない走りをしていましたから。僕自身、区間新の区間賞を狙っていましたが、3区の野中の姿を見て、100%で取る気持ちが『絶対に行くぞ』と150%になりました。負けないくらいの走りをしないとって」
3区の野中恒亨は、留学生や東京世界陸上出場ランナーと渡り合った(撮影・高野みや)ふと1年前の記憶もよみがえった。2024年の出雲路では、辻原がエースの集まる3区で出走していた。同じように5位からスタートし、もがきながら力走して区間4位。青山学院大学の黒田朝日(当時3年、玉野光南)、駒澤大学の山川拓馬(当時3年、上伊那農業)の背中が見える位置でつないだ。順位を3位まで押し上げると、思いを託した4区の野中が区間賞の快走。上位2チームとの秒差をぐっと詰め、5年ぶり2度目となる優勝の足がかりをつくった。勲章を手にした野中は走り終えた後、同期に触発されたことを明かし、「僕の中で影のMVPは辻原」と口にしていた。
「昨年とは逆になりました」
野中の走りを見て「100%が150%になりました」と辻原(撮影・藤井みさ)先頭を走るのは初めて「夢見てきた景色の中にいる」
あれから1年。2位で襷をもらった辻原は気合を入れながらも、頭は冷静だった。自分の特徴は、自らが一番よく理解している。入りの1kmから飛ばすタイプではない。すぐ後ろの早稲田大学・佐々木哲(1年、佐久長聖)に勢いよく前へ出られても、焦りはなかった。むしろ、序盤の展開は想定内。後ろについて様子をうかがった。少ししてから佐々木をとらえ、ペースを上げたのは2km付近。1kmを2分45秒ペースで淡々と刻んでいく。気づけば早稲田大と城西大が、どんどん離れていったという。
「抜きに行ったというよりも、僕は予定通りのペースで走っていたんです。後ろの選手に(風よけに)使われてもいいと思ったのですが、結果的に一人で走り続けることになりました」
走り終えた後、フィニッシュ地点に戻り、ともに笑顔の辻原(左)と野中(手前、撮影・藤井みさ)前に誰もいない出雲の景色は格別だった。1年時に箱根駅伝の4区で初めて3大駅伝に出走して以降、いずれの駅伝でも区間4位以内と好走してきたが、先頭を走るのは初体験。黒いサングラスの奥の目は、らんらんとしていた。
「めちゃくちゃ気持ち良かったです。こんな気分になるのかって」
ずっと1点を見つめながら、出雲路を独走していた。視界に入れていたのは、自分だけを映すテレビカメラである。頭に思い浮かべるだけで満面の笑みが漏れる。
「中継車の後ろを走るランナーは、僕の憧れだったので。幼い頃からテレビで見てきた箱根駅伝の光景なんです。いま自分が夢見てきた景色の中にいる、と思って頑張りました」
レース当日の気温は26度、湿度は65%。苦手な暑さに不安を覚えたが、ほおを伝う汗も気にならなかった。猛暑に見舞われた8月、9月の夏合宿で調子を落としていたのが、うそのようだ。粘りの走りを見せた1区の青木瑠郁(4年、健大高崎)、2区の尾熊迅斗(2年、東京実業)らの奮闘が脳裏をよぎり、レース前に前田康弘監督からかけられた言葉も思い出した。「お前の区間で勝ちにいく」。プレッシャーよりも意気に感じていた。当初、補員に入っていたが、予定通りの当日変更だった。
「誇らしい気持ちになりました。必要とされていることがうれしくて、何としても期待に応えたいと思っていたんです」
ミスが許されないスピード駅伝で奮闘した1区青木瑠郁(左)と2区尾熊迅斗(撮影・高野みや)箱根駅伝に大学3年目のピークを
一人旅になった後もペースをほとんど落とさず、国道431号をひたすら前へ突き進んだ。ラストは力を振り絞り、思いの詰まった襷を5区の高山豪起(4年、高川学園)へ。2位・早稲田と23秒差をつけた区間タイムは、驚きの17分20秒。2019年の第31回大会で青山学院大の神林勇太がマークした17分24秒より4秒速い、区間新記録だった。自身初となる3大駅伝の区間賞は、自信をより深めるものになった。
「僕はここからです。いま調子を少しずつ上げている途中。3週間後の全日本大学駅伝でもう1段階上げて、初の総合優勝を目標に掲げる箱根駅伝に大学3年目のピークを持っていきます。最終目標は箱根4区の区間賞なので」
優勝の立役者となった3年生の言葉に力がこもった。高校時代は個人でインターハイの出場経験もなければ、ひのき舞台である全国高校駅伝も夢見るだけだった。自ら進学を希望した國學院で強くなったと自負する。無名の存在から大学長距離界のトップレベルまで上り詰めた土方英和(現・旭化成)に憧れを抱いた男は、いまや同じような進化を遂げている。
箱根駅伝総合優勝をめざす中で、まずは一冠。残り二つも当然狙う(撮影・藤井みさ)「入学当初に想定していた通り、右肩上がりで成長できています。僕はもともと素質があるタイプではないので。自分では大器晩成型だと思っています。出雲の区間新をスタートにして、どんどん上げていきたいです」
出雲ドームを後にする身長180cmの背中は、今まで以上にたくましく見えた。今春に大黒柱の平林清澄(現・ロジスティード)が卒業し、絶対的なエース不在と言われていたが、その不安を払拭(ふっしょく)するような3年生の快走リレーだった。「大器」はどこまで大きくなっていくのか――。大ブレイクの予感が漂う。
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2025年度の関西学生アメリカンフットボールリーグDiv.1が8月28日に開幕します。甲子園ボウル進出をかけた秋シーズンを前に、4years.からDiv.1所属チームの主将に意気込みを聞きました。
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前年にシード権を獲得した8チームに加え、全国8地区で開催される選考会を経て、日本一を決める全日本大学駅伝。昨年は國學院大學が初優勝を果たしました。今年は11月2日に開催。25の代表校と日本学連選抜、東海学連選抜の計27チームが出場します。4years.では地区選考会から本戦までを取材。熱戦の模様や選手の思いなどをお伝えしていきます。
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10月13日、今年度の学生3大駅伝幕開けとなる出雲駅伝(6区間、45.1km)が開催されます。前回大会はアンカー勝負を制した國學院大學が、2度目の優勝を果たしました。今回はその國學院大に加えて、駒澤大学、青山学院大学、創価大学、早稲田大学、中央大学も有力!駅伝シーズンの始まりを告げる熱戦をお伝えします。
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2025年6月5~8日、岡山市のJFE晴れの国スタジアムで、学生日本一を決める第94回日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)が開催されます。今年は9月に世界選手権が東京で開催されることもあっての6月開催。こちらの特集では出場選手たちのストーリーをお届けします。
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全国各地のリーグ戦を勝ち抜いたチームが神宮球場と東京ドームに集まる「第74回全日本大学野球選手権」が6月9日に開幕。決勝は15日の予定で、連覇がかかる青山学院大学や前回準優勝の早稲田大学などが頂点を争います。こちらの特集では試合レポートとは一線を画した選手たちのストーリーを中心にお届けします。
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2024年のプロ野球ドラフト会議では全12球団が1度目の入札で大学生を指名し、大学球界のドラフト候補たちは年々注目度が高まっています。2025年に4年生となる選手たちの中で、4years.が注目している選手を紹介します。
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8月5日、第107回全国高校野球選手権大会が阪神甲子園球場で開幕しました。4years.では高校時代に夏の甲子園を経験し、大学野球の世界に進んだ選手たちへインタビュー。当時のことや今の野球生活につながっていることなどを聞きました。大会期間中に随時お届けします。
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第100回箱根駅伝は青山学院大学が2年ぶり7度目となる総合優勝を果たしました。史上初の「2季連続での三冠」を逃し準優勝だった駒澤大学は王座奪還を狙います。戦力が充実している國學院大学や城西大学がトップ争いにどう絡んでくるか注目が集まります。9年ぶりとなるシード権を獲得した大東文化大学の躍進も見逃せません。10月の予選会を勝ち抜いた10校、シード校の計20校とオープン参加の関東学生連合が、2025年1月2、3日の箱根路に臨みます。
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大学スポーツ応援プログラム『シャカカチ BOON BOON PROJECT』。SMBCグループの三井住友銀行が提供する総額1億円規模の資金援助に加え、アンバサダー・パートナー企業によるサポートを通じて、大学生の「学業」と「スポーツ」を両立できる環境の整備や挑戦の機会の拡大を目指すものです。「シャカカチ」はSMBCグループにおける「社会的価値の創造」のあいことば。学生時代の努力、挑戦を通じて心身ともに健やかに成長した人材 が社会で活躍することが、社会的価値創造における重点課題の一つ「日本の再成長」にも繋(つな)がると考えています。