前兵庫県議を追い詰めたデマと中傷 「黒幕は竹内」に遺族の思いは

島脇健史 新屋絵理 中塚久美子

竹内英明・前兵庫県議の遺影の前で、取材に応じる妻=2025年4月23日午後1時31分、兵庫県姫路市、有元愛美子撮影

 兵庫県の内部告発文書問題を調べた県議会調査特別委員会(百条委員会)の元委員で、1月に死去した竹内英明・前県議(当時50)の妻(49)が、朝日新聞の取材に応じた。SNSで「知事を貶(おとし)めた主犯格」「黒幕は竹内」といった誹謗(ひぼう)中傷が拡散された。妻は「何の根拠もない話が広まり、恐怖だった」と語った。

 昨年秋の知事選の期間中、斎藤元彦氏を応援する「2馬力選挙」を展開していた政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、文書問題について「黒幕(主犯格)は竹内」とするメモをSNSに投稿した。メモは岸口実県議=兵庫維新の会から除名処分=が提供したものだった。

「ターゲットにされる」身動きとれず

 竹内氏の妻によると、このころから「極刑に値する」といったメールや郵便が事務所に届くようになった。「悪意を向けられたことが初めてだった。反応することで『またターゲットにされるのでは』という恐怖で、身動きがとれなかった」

 知事選の投開票日翌日の昨年11月18日、竹内氏は議員を辞職した。妻によると、「家族を巻き込むことがあったときは仕事は続けられない」と話していたという。SNSは見ないようにしていたが、「漏れ聞こえてくる情報もあり、見ずに聞かずにというわけにもいかなかった」。

兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)に臨む斎藤元彦知事。右手前が竹内英明県議(当時)=2024年8月30日午後3時、神戸市中央区の県庁、白井伸洋撮影

 昨年12月25日、百条委のネット中継を夫婦で見た。「そのころ、そういう話はしないでと言われていて、普段はしていなかった。でもさすがに委員だったから見ないとと言って」。その中で竹内氏の名前が出た。増山誠県議=兵庫維新から離党勧告処分=が、竹内氏が過去の百条委で「デマに基づく尋問」をしたと発言した。「事実ではないが、いつまでも追い打ちをかけられると思ったようだった」と妻は言う。

夫が最後に投げかけた問い

 竹内氏は「こんな状態になってごめん」と話すようになり、1月18日に死去した。自死とみられる。その翌日、立花氏が「竹内氏は逮捕される予定だった」といった動画をSNSに投稿し、拡散され、県警本部長が県議会で否定する異例の事態になった。

 「一度出た言説は消えない」。四十九日の後、妻は「覚悟を決めて」竹内氏に関するSNSの投稿に目を通すようになった。「否定された言説もいまだにみられる。傷をえぐられるような感覚」になる。それでも、「なぜこうなったのか、毎日考えている」という。

 「夫は追い詰められ、孤立していった。二度と繰り返してはいけない、そういう社会であってはいけない、という大きな問いを最後に投げかけていったように思います」

 取材は4月23日に兵庫県内の自宅で行った。

竹内英明・前兵庫県議の遺影のそばに、たくさんの花が飾られていた=2025年4月23日午後4時5分、兵庫県姫路市、有元愛美子撮影

 昨年12月25日の百条委で「事実誤認」の発言があったとして、県議会事務局は4月16日、注記を付した会議録を公開した。注記が付されたのは、竹内氏について、増山県議が発言した3カ所。「増山委員本人に事実誤認であることを確認」したと明記された。

 たとえば、増山氏はこう発言していた。「竹内元県議は、姫路ゆかたまつりではパワハラの事実があったとして(百条委で)質問しましたが、地元の方が声を上げてデマであったことが判明しております」。だが、竹内氏は姫路ゆかたまつりに関する質問をしていたが、パワハラについての質問ではなかった。他にも2カ所で「事実誤認」との注記がなされた。

 県議会事務局によると、他の委員らから指摘があり、事実関係を調べた。増山氏は取材に対し「議事録に正確性を期すため訂正に応じた。経緯などは注記に盛り込んでいる通りだ」と話した。

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この記事を書いた人

島脇健史
神戸総局|選挙・震災担当
専門・関心分野
地方行政・選挙、気象・災害、地域医療
新屋絵理
神戸総局
専門・関心分野
裁判、人権、国際情勢、フランス

2024年3月、兵庫県の斎藤元彦知事らがパワハラ疑惑などを内部告発されました。告発への知事の対応をめぐって県議会と対立しましたが、出直し選挙では斎藤知事が再選を果たしました。最新ニュースをお伝えします。[もっと見る]

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