地下鉄の駅から100メートル ヒグマ強襲からの生還

毎日新聞 2025/11/2 09:00(最終更新 11/2 09:31) 有料記事 2307文字
ヒグマが走ってきた方角を指し、襲われた場所に立つ安藤伸一郎さん。恐怖心から「夜道は歩けません」と言う=札幌市東区で2025年10月26日午後7時10分、谷口拓未撮影

 背中に深く刻まれた爪痕、腕に色濃く残るかまれた傷。後遺症が残る左脚や右脇腹をかばうように歩く姿からは、ヒグマの猛威を容易に想像できる。

 人口190万超の札幌市の市街地でクマの襲撃を受けた男性は、社会生活に復帰できたものの、人生は一変した。

 身体的にも経済的にも取り返しのつかない痛手を被ったと感じている。

 「雨が降ったり、寒くなったりすると傷が痛みます。接客中に笑顔を見せられないこともある。夜道は歩けません。出てくるかもしれないから……」

 <関連記事> クマによる人的被害が後を絶ちません。 ツキノワグマの生態に詳しい専門家に話を聞きました。

 「人食いグマ」化は本当か 専門家が注目するクマと人の「心理的距離」

痛みと恐怖の記憶

 2021年6月18日午前7時ごろ、出勤のため駅に向かっていた札幌市の会社員、安藤伸一郎さん(47)は、同市東区北33東16の住宅街を歩いていた。

 JR札幌駅から北東に約4・2キロと中心部に近い場所だ。

 市営地下鉄の新道東駅まで残り100メートルほどとなった曲がり角付近で、後方から車にはねられたかと思うほどの力で押されて倒れ込み、両手をついた。

 だが、違った。

 体が左右に揺さぶられ、暴漢が頭をよぎる。

 左腕を見るとかまれたような傷があり、出血していた。

 「痛い」

 状況はのみ込めなかったが、あまりの痛…

関連記事: