アングル:夏枯れ下の円金利上昇、政局や金融政策に不透明感 広がる需給不安
[東京 21日 ロイター] - 円債市場では、夏枯れ相場の中で金利がじわりと上昇する局面が続いている。日銀の金融政策、国内政局、財政政策などが不確実な状況で市場参加者の買いの手が引いているほか、一部投資家の動きも需給面の不安を誘っている。海外投資家の買いも鈍く、当面は金利高止まりが続くとの見方が出ている。
<10年債利回り17年ぶり、20年債は26年ぶり高水準>
21日の円債市場では、新発10年債利回りが一時1.610%と、2008年10月以来、17年ぶりの高水準を更新した。8月5日に一時1.465%付近まで低下した後、2週間で14.5ベーシスポイント(bp)と急ピッチな上昇となった。新発20年債利回りも一時2.655%と、1999年11月以来の高水準を更新した。
きっかけは13日のベセント米財務長官による日銀の金融政策への言及だ。「日銀に利上げを迫る発言がでたことで、中短期ゾーンを中心に金利上昇圧力がかかった」(国内証券債券セールス担当)という。7月後半の日米関税交渉の合意を経て、日本経済の腰折れリスク後退の見方が広がる中、米財務長官の発言でオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場が織り込む年内の利上げ確率は5割程度から7割程度に上昇した。
ただ、その後は利上げの織り込みに大きな変化はみられない。ターミナルレート(政策金利の最終到達点)についても、2年後に1%に達するような織り込みにとどまっている。それでも円金利の緩やかな上昇基調は続いている。
足元の相場について、ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は、ファンダメンタルズで動いているわけではないとみる。日本の政局や金融政策の不確実性を背景に、市場場参加者の慎重姿勢が強まる中でリスク許容度が上がらず、買いに動けない状況だという。
<日銀オペで目立つ一部の投資家の売り>
こうした中、需給面の地合いの悪さも重しになっている。
8月14日と20日に実施された残存5年超10年以下対象の日銀の国債買い入れオペは、応札した金融機関からの入札額すべてが落札された(全取り)レートと平均落札レートが一致する「1本値」となった。これは一部の大口の投資家が応札したことを意味し、市場では大手銀行が動いたとの憶測が出ている。
「年内の利上げをみている市場参加者は、現行の利回り水準は適正でないとみていてもおかしくない」(国内証券ストラテジスト)という。日銀オペで売れなかった証券会社による処分売りが現物債や国債先物などの流通市場で生じ、金利上昇圧力が一段と強まったとの見方も出ている。
8月に入ってからの入札は、いずれも波乱なく通過している。株高を背景としたリバランス目的での年金勢の買いに支えられたとみられ、「裏を返せば、ほかの投資家は追随していないことも示されている」(アセマネのファンドマネージャー)との見方もあり、需給面の不安が広がっている。
<海外勢の買いも減退>
円債の買い主体として存在感が増していた海外勢の動きにも変化がみられる。海外勢の超長期債の買い越し額は今年2月以降、1兆円を超える規模で続いていたものの、7月の公社債店頭売買高では4795億円にとどまった。買いの勢いは大きく減退した格好となり「安定的な買い手ではないという印象だ」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、大塚崇広氏)との見方が聞かれる。
今後、財政絡みの話題がでてくれば、再びボラティリティーが高まりかねず「一気に買いの手が引いてしまう」(前出の国内証券債券セールス担当)リスクも警戒されている。国債格下げのリスクが再び意識されれば、海外勢がポジションを落とす動きも強まりかねない。そうなれば超長期ゾーンを発端とした金利上昇が進み、長期ゾーンに波及するおそれもあると警戒されている。
<金利高止まり継続か>
足元の新発10年債利回りは1.6%超えでは押し目買いに支えられ、相場はひとまず下げ渋っている。ただ「金利が低下するような材料が相対的に少なく、円金利は全年限で高止まりでの推移が続く」と、ニッセイ基礎研の福本氏は見通す。
市場の関心は、8月28日の中川順子日銀審議委員や9月2日の氷見野良三日銀副総裁の講演での発言内容に集まっており、明治安田アセットマネジメントの債券運用部シニア・ポートフォリオ・マネジャー、大崎秀一氏は「日銀の利上げの確度が高まれば、足元の利回り水準は(上)抜けていくだろう」と話している。
(坂口茉莉子 編集:平田紀之 石田仁志)
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