なぜ企業って文系事務職を切り捨て始めたの? と思った時に読む話
数年前からしばしば指摘していたことですが、ここにきてさらに企業の黒字リストラが加速しています。
【参考リンク】三菱ケミカルが「黒字リストラ」 50歳以上対象で募集人数定めず、製造従事の社員は除外
【参考リンク】パナソニックHD、1万人削減 構造改革費用1300億円
従来は目立たなかった特徴として、明らかに事務職がターゲットとなっている点が挙げられます。
またリストラではないですが、メガバンクの新卒採用枠が減り、とりわけ私立文系枠が激減しているという分析もあります。これも同じトレンドの一端とみていいでしょう。
【参考リンク】学歴もスキルもない「私文」に年収1000万円は無理…メガバンクの新卒採用に「MARCH卒」激減で起きたこと
なぜ企業は黒字にもかかわらず従業員をリストラするのか。また事務職がターゲットとして選ばれる理由とは何か。
重要なテーマなので今回は正面から論じておきたいと思います。
相次ぐ文系事務職狩り
「企業が黒字にもかかわらずリストラする理由」はこれまでも何度か言及してきましたが、年功賃金のせいで高コストなベテラン(しかも多くが消化試合中)が多すぎるという構造的課題にくわえ、(繰り返される定年の引き上げや社会保険料負担増といった)雇用コスト自体の増加が理由です。
黒字なのに、ではなく、黒字の今だからこそ身軽になっておこうという判断でしょう。
個人的には2025年法改正による「70歳までの雇用努力義務」が一番大きいと感じています。要は「従業員を70歳まで雇用する努力をしろよ」ということですね。
これまでリストラに及び腰で先送りし続けていた企業もアレで腹をくくったように見えます。老人ホームやってるわけじゃないんだから当然でしょう。
ちなみに、形はどうあれこれまで組織のために年功を積んできたベテランを放逐するわけですから、これは組織内への「もう時代は年功序列ではない、ジョブの時代だ」という強烈なメッセージになります。
黒字リストラを実施した企業が例外なくジョブ型に移行済みなのは当然と言えるでしょう。
年功序列制度を維持しつつ年功者を追い出すリストラをやる会社は、経営陣も人事もただのアホですね(苦笑)
ではなぜ事務職がターゲットとされているのか。筆者は2点あると見ています。
まず、既に大手の製造業は2000年代に製造ラインのリストラを含む見直しをあらかた行っており、さらにしぼる余地が少ないこと。
そして、AIによる置き換えがとりあえずは間接部門で先行していることでしょう。
言い方を変えるなら、これまで氷河期世代や製造ラインを犠牲にすることで本社をはじめとするホワイトカラーの年功序列を維持してきたものの、AIの台頭でいよいろ本丸の既得権に手を付けざるを得なくなったということでしょう。
最後に、恐らく想定される質問とそれへの回答も。
「アメリカではAI氷河期がZ世代の新卒者を直撃しているのに、なぜ日本は逆に中高年の事務職狩りが行われているのか」
【参考リンク】米国の大卒、「就職氷河期」 AIが新人の仕事代替
理由はシンプルに、もともとジョブ型の米国の場合は中高年に専門性を磨いたプロが多く、日本の場合はそうでなかったということでしょう。
出世競争を終えて消化試合中の人間を「ジョブで評価する」なんて無理な話ですから。
筆者は常々「これからはキャリアデザインしてプロにならないと生き残れない」と口を酸っぱくして言っていますが、図らずもそれが実現してしまった形です。
「でも早期退職募集しても辞めて欲しい人ほどしがみつくのでは?」という疑問を持つ人もいるでしょう。
それについてはインフレが強烈な援護射撃をしてくれています。
各社とも「辞めてもらってOKな人」の賃金はこの数年間極力据え置いて既に兵糧攻めしているはずなので、少なからぬ数の“そういう人達”が手を上げることになるでしょう。
「なにがあっても定年までしがみつけ」は、デフレ期限定のセオリーで、インフレ期にはもはや通用しないということです。
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以降、 ・中高年は転職が難しいという人が勘違いしていること ・ポスト年功序列で若者は苦労する?
Q:「1年未満での転職は悪印象でしょうか?」 →A:「従来は悪印象でしたが……」
Q:「日本に外国人労働者は必要?」 →A:「自分の生活を犠牲にしてでも外国人労働者は入れるな、と言ってる人はいませんね」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年10月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。