ガザの状況は「この世の地獄よりひどい」 赤十字国際委トップがBBCに語る
ガザはこの世の地獄よりもひどい状況になっている――。赤十字国際委員会(ICRC)のトップが、BBCの単独取材でこう語り、イスラエルとイスラム組織ハマスの紛争が続くパレスチナ・ガザ地区における人道危機の深刻さを訴えた。
スイス・ジュネーヴのICRC本部で行われたインタビューでミリアナ・スポリアリッチ総裁は、「人類は失敗している」と指摘。ガザで続く戦争の恐怖を目の当たりにしながら、ただ見ているだけだと語った。
この取材は、ICRCが受賞した三つのノーベル平和賞の展示ケースの近くの部屋で行われた。スポリアリッチ氏が4月に「ガザはこの世の地獄だ」と発言していたのを踏まえ、その見解が変わったか尋ねた。
スポリアリッチ氏は、「状況はさらに悪化している」と述べた。
「私たちは、今起きていることをこれ以上見過ごすことはできない。これは、法的にも倫理的にも人道的にも、あらゆる許容範囲を超えている。破壊の規模も、苦しみの深さも」
「さらに重要なのは、私たちが、ある人々が完全に、人間としての尊厳を奪われていく様子をただ見ているという事実だ。これは、私たち全体の良心を深く揺さぶるべきことだ」
スポリアリッチ氏はまた、各国政府に対し、戦争を終結させ、パレスチナ人の苦しみを終わらせ、イスラエル人の人質を解放するために、より多くの行動を取るよう求めた。
国際赤十字は、150年以上にわたり、戦争による苦しみの軽減に取り組んできた世界的な人道支援組織だ。
また、戦時下における行動を規制し、民間人や非戦闘員の保護を目的とした国際人道法「ジュネーヴ条約」の「守護者」でもある。現行の「ジュネーヴ四条約」は、第2次世界大戦後の1949年に採択され、大規模な民間人殺害の再発防止を目的としている。
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イスラエルがガザでの行動を「自衛」と正当化していることについては、スポリアリッチ氏は「すべての国家には自衛の権利がある」と述べた。
その上で、「すべての母親には、自分の子どもが帰ってくるのを見る権利がある。人質を取ることに正当な理由はない。子どもたちから食料、医療、安全へのアクセスを奪うことにも、正当な理由はない。戦闘行為にはルールがあり、すべての当事者がそれを守らなければならない」と語った。
それは、2023年10月7日にハマスおよび他の武装パレスチナ勢力が約1200人を殺害し、250人以上を人質に取った行為が、イスラエルによるガザ地区の破壊や5万人以上のパレスチナ人殺害を正当化することにはならないということだろうか?
その質問にスポリアリッチ氏は、「ジュネーヴ条約を軽視したり骨抜きにしたりすることの正当化にはならない」と、答えた。
「どんな理由があっても、どちらの当事者にもルールを破ることは許されない。これは非常に重要な点だ。なぜなら、ジュネーヴ条約の下では、すべての人間に同じルールが適用されるからだ。ガザの子どもも、イスラエルの子どもも、まったく同じ保護を受ける権利がある」
さらにスポリアリッチ氏は、「自分の子どもがいつか弱い立場に置かれ、こうした保護を必要とするかもしれないということを、誰もが忘れてはならない」と付け加えた。
ICRCは、ガザで何が起きているのかを把握する上で信頼できる情報源とされている。イスラエルは、BBCを含む国際報道機関の記者によるガザ入りを認めておらず、現地にいるICRCの職員300人超の報告が、戦争の実態を記録する上で極めて重要な役割を果たしている。そのICRC現地職員の約90%はパレスチナ人だ。
国連と同様、ICRCはGHFによる新たな支援活動には参加していない。この新システムは、何万人もの飢えた市民を戦闘地域に誘導するという、根本的な欠陥を抱えている。
スポリアリッチ氏は、「機能していた仕組みを壊してまで、機能していないように見えるものに置き換える正当な理由はない」と述べた。
ここ数日、ラファにあるICRCの野戦病院では、GHFでの食料配布中に発生した混乱により、搬送されてくる負傷者が急増。外科チームが少なくとも2度にわたり、対応能力を超える事態に直面したという。
「ガザには安全な場所など存在しない。どこにもだ。民間人にとっても、人質にとっても」とスポリアリッチ氏は語った。
「これは事実だ。そして、私たちの病院も安全ではない。私がこれまで見てきた中で、戦闘の真っただ中で活動している状況は他に思い当たらない」
数日前には、治療を受けていた少年が、テントの布を貫通した銃弾に当たるという事案も発生した。
「ICRCの職員に対してさえ、安全は確保されていない。(中略)職員たちは1日20時間働いている。自分たちを限界まで追い込んでいる。過酷な状況だ。人間の能力を超えている」
ICRCによると、ラファの野戦病院では3日午前、わずか数時間のうちに184人が搬送された。そのうち19人は到着時にすでに死亡しており、さらに8人が治療のかいなく、まもなく亡くなったという。これは、同病院が1年以上前に設立されて以来、単一の事案としては最多の死傷者数となった。
この事案は、3日未明に発生した。パレスチナ人の目撃者やICRCの医療スタッフによると、ガザ南部の新たな援助物資配布地点に集まったパレスチナ人にイスラエル軍が発砲し、多数の死傷者が出たという。現場を目撃した外国人は、「完全な虐殺だった」と証言している。
この事案についてイスラエル軍が発表した公式声明は、まったく異なる内容だった。声明では、「複数の容疑者が指定された通行ルートを外れてイスラエル軍に接近した」とし、「警告射撃を行い、その後、数人の容疑者に向けて追加の射撃を実施した」と説明している。
イスラエル軍の報道官は、この事案について調査中だと述べた。また、1日に発生した類似の事案についても、パレスチナ人を銃撃した事実はないとしている。
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スポリアリッチ氏は、勝利のためには手段を問わない姿勢、全面戦争、非人間化といった言説が広がっていることに対し、ICRCとして深い懸念を示した。
「私たちは地域を超え、イスラエル人とパレスチナ人を超えて、世界全体をより不幸にするような事態を目の当たりにしている。なぜなら、すべての人間の基本的権利を守るためのルールそのものが空洞化しているからだ」
停戦が実現しなければ、地域の将来に深刻な影響が及ぶと同氏は警告する。
「これは極めて重要なことだ。この地域が平和を取り戻すための道筋を守らなければならない。その道を完全に破壊してしまえば、この地域は二度と安全と安定を得ることはできない。しかし、今ならまだ止めることができる。手遅れではない」
「国家の指導者たちには行動する義務がある。私は彼らに、何かをしてほしい、もっとしてほしい、できる限りのことをしてほしいと呼びかけている。なぜなら、この事態は必ず他の地域にも広がり、彼ら自身をも苦しめ、やがて彼らの足元にも及ぶことになるからだ」
イスラエルは、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによる越境攻撃への報復としてガザで軍事作戦を開始した。ハマスによる攻撃では約1200人が殺害され、251人が人質として連れ去られた。
ハマスが運営するガザの保健省によると、それ以降、少なくとも5万4607人が殺されている。そのうち4335人は、イスラエルが今年3月18日に攻勢を再開して以降に死亡したとされている。
スポリアリッチ氏は、戦闘の即時停止を当事者に呼びかけ、「私たちは、今起きていることをこれ以上見過ごすことはできない」と訴えた。
「これは人間性に反している。私たちを長く苦しめることになるだろう」
また、国際社会に対しても、より積極的な対応を求めた。
「すべての国家には、現在ガザで起きている事態を食い止めるために、自国の平和的手段を用いる義務がある」