アングル:マスク氏嫌いでも車は買う、テスラがノルウェーで販売好調続く理由
しかし、リスホルムさんはテスラ車を愛している。
5月に中型SUV(スポーツタイプ多目的車)「モデルY」を購入したリスホルムさんは「正直に言えば、テスラ車を所有することに若干の葛藤はある」と打ち明けた。過去10年足らずでこれが3台目のテスラ車という。
昨年の米大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ氏を支持し、欧州の極右政党を応援しているマスク氏は消費者からの猛反発を浴びている。
世界各地でテスラ車や販売店を破壊する暴力行為が起き、特に欧州ではかつての忠実な顧客にも背を向けられたテスラのブランドは傷ついた。それでもノルウェーでは、少なくとも今のところ販売台数が好調なままだ。
リスホルムさんは、テスラおよびブランドを巡る昨今の状況に多少思いを巡らせたものの、結局は充電インフラと技術力で他社が足元にも及ばないことが購入の決め手になったと話す。
2025年上半期にテスラの販売台数はドイツ、スウェーデン、デンマーク、オランダで前年同期の半分以下に沈んだ。対照的にノルウェーでは24%増加し、テスラにとって欧州2位の市場になろうとしている。
ロイターがノルウェーのテスラ車オーナーやEV業界専門家に取材した結果、12年にわたって築かれたノルウェーとテスラの関係がブランドに対する忠誠心を培い、逆風とも無縁な構図を生み出したことが分かった。
ノルウェーEV協会のクリスティナ・ブー事務局長は「多くの面でノルウェーがテスラの成長に貢献したと言える。ノルウェーでは誰もが、テスラ車を所有している知人がいる」と述べた。
Norway's Tesla sales rise year-on-year<持ちつ持たれつ>
2025年上半期にテスラの欧州市場販売台数に占めるノルウェーの比率は12%弱で、ノルウェーが全世界売上高に占める比率も決して大きくない。だが、テスラにとってノルウェーは象徴的な部分で重要な存在になってきた。
13年に主力EV「モデルS」を北米以外で初めて納車したのがノルウェーで、同社はノルウェーを世界で最もEV普及率の高い国にする上で大きな役割を果たした。
また、テスラは北米以外ではノルウェーに最初の急速充電施設網を展開し、充電インフラに困らないことを新規顧客に売り込んだ。
そのお返しにノルウェーは、テスラの技術を世界に展示する場を提供した形だ。マスク氏はかつて定期的に同国を訪れ、政府のEV支援政策を称賛した。
ノルウェーでは現在、新車販売の94%をEVが占めており、モデルSはあっという間に最も売れ筋になった。21年にテスラ車はノルウェーで最も多く売れたブランドに浮上し、過去5年間の新車販売台数の11-20%を占めている。
Tesla sales rising in Norway, bucking the wider trend<忠誠心維持できるか>
テスラはこれまでのところ、台頭するライバルを抑えてノルウェー市場トップの地位を守り、マスク氏に対する人々の反感による負の影響を克服している。
昨年のテスラの新車販売は4%減少し、今年初めも低調な販売が続いた。だが、3月にモデルYの改良型が登場し、5月にはより低価格帯の製品が出現すると需要は回復した。
非営利団体(NPO)、ノルウェー道路連盟(OFV)を率いるオイビン・ソルベルグ・トールセン氏は、消費者にとっては「テスラ・シェーム(マスク氏の政治姿勢のせいでテスラ車を所有することを恥だと思うこと)」の問題よりも、運転が楽になり、ニーズが満たされ、手頃な価格である方がずっと大事だとの見方を示した。
5月にはテスラがローンのゼロ金利や急速充電無料というキャンペーンを打ち出したことも、新車販売が3.13倍に膨らむ要因になったとみられる。
リスホルムさんは「実質タダで、すぐに飛びついた」と打ち明ける。
もっともOFVによると、同じキャンペーンは隣国のスウェーデンとデンマークでは効果がなく、7月には売れ筋ベスト10にテスラ車は見当たらなかった。
重要な問題は、果たしてテスラが今後もノルウェーの消費者の忠誠心を維持していけるかになる。
2月に公表された世論調査を見ると、ノルウェーのテスラ車オーナーの40%は、マスク氏の政治活動がブランド力を毀損しているとの見方を示した半面、5割強は次もテスラ車を買うつもりだと答えた。
一方、2014年以来のテスラ車オーナーで、かつてはマスク氏の先見性を高く評価していたオッド・バッケンさんは、もうテスラの新車を買わないと決意している。
マスク氏がトランプ氏支持に動き、ドイツのための選択肢(AfD)などの極右政党を後押しするようになった以上、ノルウェー人も自分の財布を駆使して不満を表明し、テスラにマスク氏を追い出すよう説得するべきだという。
「テスラを救うには、テスラを買わないことが必要だ」と強調した。
とはいえ、バッケンさんにとっても中古のテスラ車は不買対象外だ。その理由を「われわれが中古を買ってもテスラの利益にはならないからだ」と説明している。
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Stockholm-based company news correspondent who mainly covers anything to do with retail and industrial companies in Sweden as well as other sectors with Swedish companies. She previously covered the general Nordic stock market from Gdansk, reporting on a range of subjects, from companies exiting Russia to M&As and supply chain concerns. Marie has degrees in journalism and international relations and is keen on finding stories that drive the market and that have unreported elements to it.