天皇杯1回戦SC相模原戦「チャンスを決めきれず、ワンチャンスを決められて1回戦敗退。序列をひっくり返す存在も出ず、チームは三分化しつつある」【レビュー】

どんなメンバーで挑むのかは天皇杯1回戦の注目ポイントの一つであった。森直樹監督が先発として選んだのは、「リーグ戦に絡んでいるメンバーで、出場時間が短い選手」たち。完全なるターンオーバーではなく、継続的にベンチ入りを果たして途中出場を続けてきた選手たちがスターティングメンバ―としてピッチに立った。第16節熊本戦から先発8人を入れ替えて挑んだ。

期待されたのは、勝利。そして、新たな選力の台頭。しかし、試合は0対1の敗戦。多くのチャンスを作りながら決めきることができず、終盤に一瞬の隙を突かれて失点を喫す、昨年までのチームを見るような勝負弱さを露呈して、J3チームに屈すという悔しい現実を突き付けられた。残念ながら、主力組を脅かすほどのアピールを見せた選手もいなかった。「トーナメント戦ということで、絶対に勝たないといけないゲームで、0対1で負けたことが、内容とか関係なく、残念だった」と森監督は唇を噛んだ。 風上で迎えた前半を無得点で終えたことが結果を大きく左右したと言えるだろう。序盤から水戸がボールを支配して、相模原陣内に押し込む展開を作った。そして、前節今季リーグ戦初出場を果たし、劇的な決勝ゴールを挙げた杉浦文哉が相手のアンカー脇で起点となって攻撃を展開してチャンスを作り出した。24分には右サイドの齋藤俊輔と沖田空のコンビで守備を崩して、沖田からの折り返しを杉浦が合わせる。さらに33分には左サイドでの細かなパスワークで相模原プレスをかいくぐり、中央でボールを受けた齋藤が強烈なシュートを放つ。さらに34分にはタイトなプレスでボールを奪い、素早く前線にボールを送り、寺沼星文がミドルシュートでゴールを狙った。しかし、いずれも相模原GKバウマンの好セーブに阻まれて、ゴールを決めきることができなかった。その後もCKからチャンスを作ったが、ゴールネットを揺らせないまま、前半を終えた。

「1パス1コントロール」へのこだわり

「決定力不足」の一言で済ませるわけにはいかない。その原因をしっかり見つめ直さなければならない。一つはセットプレーを活かせなかったことにある。前半だけで8本あったCKを1つもゴールにつなげることができなかった。新たなトライもあったが、得点につなげることができなかった。セットプレーでの得点の少なさはリーグ戦での課題でもある。ここから夏場を迎えるにあたり、セットプレーはより一層勝負のカギを握ることとなるだけに、チームとしてあらためて見つめ直さなければならない。

そして、前半ワンサイドゲームの様相で攻め込んだからには、もっと多くの決定機を作り出さなければならなかった。何気ないトラップやコントロールでズレを起こして、自分たちでブレーキをかけてしまう場面が何度も見られたことはその原因の一つ。「1パス1コントロール」は林雅人コーチが就任してから選手たちに強調しているキーワード。そのこだわりが、主力組と比べて低かったと言わざるを得ない。攻撃面だけではない。守備面でも空中戦の競り合いや1対1の対応などで後手に回るシーンがいくつもあった。チームとして、狙いとしていた形でボールの前進をさせることはできていただけに、そうした一つひとつの局面で相手を圧倒することができなかったツケが後半に回ってくることとなった。

風下に立たされた後半、相模原は前半の内容を受けて、ハイプレスの強度を高めて立ち向かってきた。それに対して、水戸はプレス回避しようとするものの、ボールが風で戻されてしまい、前線の寺沼までボールが届かず。相模原の圧力を受けてしまう状況が続いた。それでも、相手にチャンスを与えることなく、試合を展開することができていた。60分過ぎから、リーグ戦の主力組を次々とピッチに送り出し、勝利に向けてギアを上げていった。

だが、86分、勝ちに出ようとしてできた隙を突かれてしまった。前がかりになった局面で、セカンドボールを相手に奪われ、そこからテンポよくゴール前に運ばれてゴールネットを揺らされた。まさに「ワンチャンス」をモノにされて喫した失点。リードさえしていれば、こうした失点をすることはなかっただろう。だからこそ、前半の戦いが悔やまれる。

栃木CとのTRMで1対5の大敗

現在リーグ戦では4連勝中で、順位は暫定5位。2019年以来となる好スタートを切ることができている。ただ、この一戦であらためて突き付けられたのは、チームは急には強くならないということだ。昨季、水戸は15位と下位に低迷したチーム。主力を欠き、少しでも緩さが出たら、J3チーム相手にも負けてしまう。それが現状のチーム力だという現実を再認識させられた。

「全体的にすごく悪い試合かといったらそんなことはなかった」と森監督は言う。ただ、「もっとできるんじゃないかという部分を感じられる選手はいました」と続けたように、チームとしての狙いはある程度体現できていたものの、先発で起用されたどの選手も自分の殻を破り切れなかった感が強い。

翌日に行われた栃木シティの練習試合には最近の試合においてメンバーに入れていない選手たちが多く出場したが、1対5の大敗を喫した。この2試合を見て、チームは「主力組」「控え組」「メンバー外組」の3つのグループに分かれつつあることが感じられた。「主力組」が力強くチームを引っ張ってくれていることは、昨季までのチームとの大きな変化と言える。「主力」が「主力」たる所以をピッチで証明してくれているからこそ、リーグ戦で今の立ち位置で戦うことができている。

また、「控え組」も熊本戦で結果を残したように、ゲームチェンジャーとしての働きを見せられるようになっている。ただ、この試合で「主力組」を脅かすような活躍を見せる選手は現れなかった。さらに、栃木C戦でも、序列をひっくり返すような選手の存在は見られなかった。

序列を変える選手の台頭

チームは急激に強くはならない。この三分化もチームとしての成長の過程だと捉えるべきだろう。大事なのは、チーム全体として歩みをやめないこと。1人1人がこの敗戦をしっかり受け止めて、糧にしていくことが求められる。このまま「主力組」だけでシーズンを戦い抜くことはできないだけに、夏に向けて、どれだけ序列を変えていく選手が出てくるかが水戸の今後を左右することだろう。

「今、リーグ戦で主力で出ている選手も苦しんでいる時期がありました。今日先発した選手たちは苦しみながら、自分たちを信じてトレーニングして、夏場に花が開けばいいと思っています。日ごろから目の色を変えてチャレンジしてほしい」 森監督は選手たちにメッセージを発した。

それこそが、水戸の伸びしろであり、他の上位争いをしているチームとの違いである。水戸は戦力で圧倒するチームではなく、組織的にもチーム的も日々進化していくチーム。勝っても、負けても、すべてを糧に、日々やるべきことを突き詰めていく。それを繰り返しながら、高みを目指していく。足元を見つめ直し、次の長崎戦で勝つための準備をしていくことだけが求められている。この敗戦をもっともっと強くなる糧にせよ。

(佐藤拓也)

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