長野県の公立病院医師2人、収賄容疑で書類送検…手術機器使う見返りに「1ポイント1万円」
長野県内の公立病院の医療機器選定・使用を巡り、業者に便宜を図った見返りに現金を受け取ったとして、警視庁が、佐久市立国保浅間総合病院整形外科部長の男(46)、同科医長の男(45)を収賄容疑で東京地検に書類送検していたことがわかった。製品を使うと業者から独自の「ポイント」が付与され、ポイント分の現金を得ていたという。
佐久市立国保浅間総合病院(2024年)同庁は、東証プライム上場の医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」(東京都新宿区)の営業担当社員(47)と元社員2人も贈賄容疑で書類送検した。
捜査関係者によると、整形外科部長は同病院、整形外科医長は同病院と非常勤の国保軽井沢病院(長野県軽井沢町)で行った整形外科手術で、脊柱管の処置などに用いる同社製品を優先的に使う見返りとして、2021年11月~昨年5月、営業担当社員ら3人から現金計約58万円を受け取った疑い。
5人はいずれも任意の調べに金銭の授受を認めている。書類送検は先月25日。
整形外科部長、整形外科医長は手術で使う機器を選定できる立場だった。2人は同社製品を使うたびに販売価格や手術の症例に応じた「ポイント」(1ポイント=1万円)を付与され、私的な飲食代や土産代などの領収書の金額と交換する形で、ポイント分の現金を受け取っていた。
社員らは、領収書の画像を事前にLINEでもらい、現金入りの封筒を自社製品のパンフレットに挟んで手渡したこともあったという。贈賄資金は、別の病院の医師らを飲食接待したとする架空の領収書を作成した上で、会社側に経費請求して用意していた。
国保病院は市町村が保健事業の一環として設立した医療機関で、職員は公務員として収賄罪の対象となる。昨年春以降、同庁に情報提供があり、事件が発覚した。
ホームページによると、同社は1973年に設立。2001年に旧東証1部に上場し、人工関節や人工骨、脊椎固定器具などの製造や販売を手がけている。今年3月期の連結売上高は約251億円だった。
国保浅間総合病院は取材に対し、「現時点ではコメントを差し控える」としている。
医療汚職「チェック不十分」
医療機器の選定を巡る汚職事件は後を絶たない。
【一覧】医療機器選定などを巡る主な汚職事件警視庁は2023年9月、「ステント(金網状の筒)」と呼ばれる医療機器を使用した見返りに現金を受け取ったとして、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の元医長を収賄容疑で逮捕。昨年4月には、金属製インプラントを使った見返りに現金を得ていたとして、東京労災病院(東京都大田区)の整形外科副部長を同容疑で逮捕した。
労災病院の事件を受け、業界団体「医療機器業公正取引協議会」(中央区)が贈賄側の医療機器メーカーに行った調査では、2018~23年に全国の43病院の医師ら132人に対し、自社製品を使用した見返りに現金計約1227万円を提供していたことが判明している。
同協議会は自主規制の規約を定め、医師や医療機関への資金提供を禁じている。悪質な業者には「厳重警告」を行っているが、同協議会関係者は、「警告に強制力はなく、企業の活動を制限できない。現状の措置が限界だ」と打ち明ける。
医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は「医療機器の選定は現場の医師の裁量が大きく、業者との癒着の温床になっている。病院のチェックが十分に機能していないケースが多く、贈収賄が発覚した際には、国が病院側に第三者委員会の設置を求め、検証させる必要がある」と指摘している。