一体いくらかかるんだろう…娘一家が一気に帰省。〈年金月20万円〉で慎ましく暮らす「73歳ばあば」が最大9連休の年末年始に戦々恐々とするワケ(THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン))

12月の冷え込みが一段と強まる夕暮れ、小林美津子さん(73歳・仮名)は、茶の間の石油ストーブに灯油を足しながら、ふっと息をつきました。 「もうすぐ、あの子たちが来るのね……」 長野で、夫と2人、月20万円ほどの年金で慎ましく暮らしてきました。貯蓄は約2,000万円あるものの、運用しているわけではなく、この物価高のなかでは減っていく一方です。だからこそ、年末年始はうれしさと同時に、少しの不安も抱えます。 美津子さんには、東京で暮らす長女(43歳)と、埼玉に住む次女(39歳)の2人の娘がいます。孫は3人──小学5年生の男の子、小学3年生の女の子、そして小学2年生の女の子。 今年の年末年始は最大9連休。   12月28日と29日にそれぞれ娘家族が帰省することになっていました。 「娘たちが仲良しなのは、本当に嬉しいんですよ。でもね……」 そう言って、美津子さんは小さくため息をつきました。

築50年の平屋に夫婦で暮らす美津子さん。冬の長野は底冷えが厳しく、灯油代は決して安くありません。 「夫婦2人なら、茶の間に石油ストーブを置けば済むんです。でも孫たちが来るとなれば、そうはいきません。暖房を増やして、部屋も片付けて……。電気代も灯油代も、あっという間に跳ね上がります」 さらに気になるのは 食費 です。 「5日もいれば、食べ盛りのお孫ちゃんたちの食費は……正直、いくらかかるのか想像がつかないんです。こんなこと言いたくないんだけれど、特に長女の夫がよく食べるんですよね。お正月だからお年玉も必要でしょう? うれしい反面、一体いくらかかるのかしら? って」


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実際、家計の不安は全国的な傾向でもあります。 くふう生活者総合研究所が5,403人を対象にした調査では、約7割が「年末年始の過ごし方に物価高の影響がある」 と回答しています。 「物価高の影響がある」と回答した人に、どのような項目への出費に節約志向の影響があるかをたずねたところ、おせちや食材、飲み物などの「食料品」(76.6%)がもっとも多く、「外食費」(51.6%)が続きました。交際費(30.7%)、お年玉などのギフト費用(25.3%)も、節約対象になる人が多いのが実態です。 「お正月くらいは贅沢したいのに……」 そんな本音を抑えて財布の紐を固くするのが、今年の年末年始の“リアル”なのです。

不安を抱えながら準備を進めていたある日、長女から電話がありました。 「お母さん、今年は物価高で大変でしょう? 遥香(次女)と話したんだけど、お米を持っていくからね。それと、おせちも“大人数用”を予約したから、大晦日に届くようにしてあるよ」 さらに驚くひと言が続きました。 「お肉とか食材も持っていくつもり。みんなで食べようよ」 「今回は長くお世話になるから、実家の掃除や片付けも手伝うよ。確か洗面所の電気が調子悪かったよね? 夫に直させるから。お母さんたちには元気で長生きしてほしいけれど、終活のことも今のうちに話し合っておこうね。遥香とも今後の実家のことを話し合ってそう決めたの。せっかくいつもより長く滞在させてもらうから時間を有意義に使いたいの」 美津子さんはしばらく言葉が出なかったといいます。 「そんなことまで考えてくれていたなんて……。本当に、“子どもは親を見て育つ”って言うけれど、あの子たちはいつの間にこんなに立派になったんでしょう」 「私はこちらにかかる負担ばかり考えていました。でも、あの子たちのおかげで、私たちも支えられているんだなと思いました」 美津子さんはそう微笑みました。 あとから詳しく聞いたところ、娘たちも今の物価高で家計のやりくりに苦労しているようでした。共働きとは言ってもお米は相変わらず高いし、子供と夫はよく食べる。「お母さんたちも大変だろうな」と思っていたと明かしてくれました。 老後の生活不安は、必ずしも“お金だけ”ではありません。「頼っていいのか」「迷惑ではないか」という心理的な遠慮が、親世帯にとって大きな負担になることもあります。 今回、娘たちからの電話は、美津子さんにとって“これからの家族の関係をどうしていくか”を考えるきっかけにもなりました。 「終活もね、怖いものじゃなくて、 “家族の未来を一緒に準備していくこと”なのかもしれませんね」 孫の笑い声が響く5日間は、いつもより灯油も電気も使うだろうし、食費もかかる。 けれど、娘たちの温かい提案によって、その負担は“喜びの一部”に変わりました。 美津子さんはふと、こう漏らしました。 「今年のお正月は、いつもより少しあたたかくなりそうです」 [参考資料] くふう生活者総合研究所「年末年始の過ごし方に関する調査」

THE GOLD ONLINE編集部

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