習近平による軍部粛清は「自傷行為」...最高幹部解任で揺らぐ指揮系統、人民解放軍は弱体化した?(ニューズウィーク日本版)

人民解放軍では粛清の嵐が吹き荒れている。習近平(シー・チンピン)国家主席はすでに数十人の最高位の将軍に加え、数百人の下級将校を解任した。 【動画】元CIA高官が語る、習近平による人民解放軍最高幹部粛清の「真相」 これにより、人民解放軍の指揮系統は弱体化した。このまま人民解放軍は弱体化していくのだろうか。 その答えはノーだ。ロンドンに拠点を置くシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が発出する、世界の軍事力を評価する報告書『ミリタリー・バランス2026』によると、弱体化は長続きしないとみられ、人民解放軍はむしろ急速に拡大しているという。 同書は今回の粛清について「2025年、人民解放軍は反腐敗粛清の一環として大規模な人事変更を経験した」と記述、「組織の観点から見ると、欠員が補充されるまでの間、人民解放軍は指揮系統において深刻な欠陥を抱えた状態で運用される」とした。 しかし、指揮系統の欠陥による混乱は「一時的なものにとどまる可能性が高い」と指摘した上で、中国の軍備は今後も急速に拡大していくとの見通しを示した。 さらに、人民解放軍は、国家戦略実現の手段として、インド太平洋地域全体で積極的かつ強硬な姿勢を示していることを指摘。特に、中国は台湾に対する軍事的脅威を引き続き強めているとした。 「実際、2025年に粛清による不安定さがあったにもかかわらず、人民解放軍は4年連続で台湾の防空識別圏への侵入回数を増加させている」 2025年9月3日に開催された大規模な軍事パレードでは、中国の拡大する核戦力が披露された。報告書は、「展示された核兵器は、米国に対して抑止のメッセージを送ることを意図したものだ」と分析しているほか、陸上、海上、空中に核兵器を配備するいわゆる「核の三本柱」を初めて示したことを指摘した。 本誌は在米中国大使館にコメントを求めている。

報告書は2025年時点の人民解放軍の状況を評価したものだ。したがって、中国の最高位の将軍である張又侠(チャン・ヨウシア)と劉振立(リュウ・チェンリー)が、腐敗や政治的不忠誠の容疑で中央軍事委員会を解任されたという1月の粛清劇は、評価の対象に含まれていない。 軍事アナリストらは、習が中央軍事委員会の欠員となっている将軍たちをどのように補充するのか注視している。しかし、未だ人事は発表されていない。 シンガポール南洋理工大学S.ラジャラトナム国際学院(RSIS)のリサーチフェローであるズー・ヤンは、ワシントンD.C.に拠点を置く研究機関ジャムズタウン財団のオンライン誌『チャイナ・ブリーフ』において、一連の粛清を「人民解放軍上層部における自傷行為」と形容したうえで、「エリート将校による集団的な判断を一人の判断に置き換える形となり、その結果、指導部の意思決定能力が損なわれた」と評価した。 ヤンはこの状況を「いかなる現代軍にとっても異常である」としつつも、その状態は2026年も続く可能性があると予測した。 「習が中央軍事委員会の再編に着手する際には、脅威とならない政治的に忠実な将校を昇格させる可能性が高い」

報告書によると、3月に全容が明らかになる見通しの中国の第15次五カ年計画が、軍内部の不安定さにもかかわらず、急速な軍事近代化を継続する可能性が高いと指摘している。 「米中両国の国防当局者は引き続き戦争は不可避ではないと述べている。しかし、将来起こり得る紛争に備え、それを抑止する必要があるとの認識は、米国やその同盟国、台湾において一段と強まっている」 その理由の1つは、中国の国防支出が引き続き増加していることだ。2025年の支出は3400億ドルに達した。約7%の増加を3年連続で記録したこととなる。

ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)

関連記事: