なぜ値上げでマクドナルドだけ叩かれるのか ネットやSNSで反応する少数派の声

バーガーキング外観イメージ(出典:ビーケージャパンHDのプレスリリース)

スピン経済の歩き方:日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。

「値上げ=客離れ」というのはもはや過去の話のようだ。「安くてうまい」の象徴だったハンバーガーが相次いで「高級化」しているにもかかわらず、客にそっぽを向かれるどころか手堅く成長を続けているからだ。

分かりやすいのは、急成長中のバーガーキングである。

3月5日に運営元のビーケージャパンホールディングス(HD、東京都千代田区)が行った記者発表の内容によると、2019年5月末時点で77店舗だった国内店舗数は、2026年3月末には348店舗となる見込みだという。

2024年に策定した5カ年計画では、2028年の目標が「売り上げ600億円・600店舗」だった。それが想定を上回るペースで成長しているため「売り上げ1200億円・600店舗」と目標を倍に引き上げた。

ここまで強気な理由の一つには「平均客単価の上昇」がある。これは値上げを着々と進めてきたからで、2026年2月にも3年ぶりの値上げを行った。発表会に登壇した野村一裕社長によると、2019年の平均客単価は約680円だったが、なんと今では約1300円になっているという。これは「餃子の王将」が2025年の値上げ時に、ネットニュースなどで「高級化で客離れは不可避」と騒がれた平均客単価1294円と、ほとんど変わらない水準だ。

ネットやSNS上の表現を借りれば、バーガーキングはもはや「高級バーガー」となってしまったのである。にもかかわらず、客離れどころか破竹の勢いで成長しているのだ。

このような傾向は、ハンバーガーチェーンBIG3の一角をなすモスバーガー(以下、モス)も同じだ。

モスの客単価が上がっている理由

モスはコロナ禍以降、店舗数がほとんど増えていないにもかかわらず、業績を伸ばしている。2025年4~9月の実績は、売上高507億円(前年同期比6.7%増)、営業利益40億円(同49.1%増)となった。

この背景の一つが、バーガーキングと同様に客単価が上昇していることだ。それを象徴するのが、高価格帯の「新とびきりシリーズ」である。

「新とびきりチーズ ~北海道チーズ~」(690円)と「ダブル新とびきりチーズ ~北海道チーズ~」(980円)はバーガーキングの「ワッパー」(640円)や「ダブルワッパーチーズ」(1140円)に匹敵する高価格帯ながら、客数増加にも貢献しているという。

「新とびきりチーズ ~北海道チーズ~」(出典:モスの公式Webサイト)

もちろん、客単価の向上は、このような高価格帯メニューだけによるものではなく、モスでは「年中行事」となっている「値上げ」の影響も大きい。

2021年4月、モスの代表的な商品「モスバーガー」が370円から390円に値上げされた。他の商品も20~30円の値上げとなった。

2021年4月の改定価格(出典:モスフードサービスのプレスリリース、以下同)

翌年の2022年7月、モスバーガーは390円から410円に値上げされた。他のメイン商品も20~40円上がっている。

2022年7月の改定価格

さらに翌年の2023年3月には、モスバーガーは410円から440円に値上げされた。78アイテムの中には、最大で50円値上げされたものもあった。

2023年3月の改定価格

2024年5月はハンバーガーなどの値上げはなかったが、一部ドリンク商品が値上げされた。ブレンドコーヒーが280円から290円になったほか、100%オレンジジュースに関しては40円も高くなった。

2024年5月の改定価格

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モスは、2025年3月にも大きな値上げに踏み切った。モスバーガーは440円から470円へ。「フレンチフライ(M)」や「オニオンフライ」も300円から330円に上がったのである。この調子でいけば、2026年も値上げする可能性が高い。5年間で100円値上げされたモスバーガーも、いよいよ500円の大台に突入しそうなのだ。

2025年3月の改定価格 モスバーガー(出典:公式Webサイト)

……という話を聞くと「いちいちうるせえなあ! 原料とか高騰しているし賃金も上げていかなきゃいけないんだから、それくらいはしょうがないだろ」とモスを擁護したくなる人もいらっしゃるだろうが、まったく同感である。

これまで本連載で繰り返し述べてきたように、日本経済低迷の理由の一つは「安すぎる外食」にある。

「安くてうまい店」が大繁盛することによって、日本では飲食店だけではなくコンビニ、スーパー、小売などあらゆるサービス産業が「安くて高品質」を過剰に求めるようになってしまった。日本近海のレアアースやら半導体産業で日本経済復活を唱える人もいるが、日本のGDPの7割は「内需」で、しかもその大半はサービス業が占めている。

このような“コスパ至上主義社会”は「低賃金労働者」の犠牲なくして成立しない。それは、外国人観光客が称賛するコンビニグルメを製造している総菜工場で、主力となって働いているのが外国人労働者だという事実からも分かっていただけるだろう。

ただ、本当に恐ろしいのは、そのような「サービス産業の低賃金労働者」が日本経済を冷え込ませる負のスパイラルをつくってきたということである。

低賃金労働者というのは「低所得消費者」でもあるので、外食でもスーパーでも「安くて高品質」を執拗(しつよう)に求めて、ちょっとでも値上げすればボロカスに文句を言う。では、そういうプレッシャーを受けた企業側がどうするかというと、最も手を付けやすい「人件費の圧縮」で対応していく。

つまり、消費者は「もっと安く! もっとお得に!」と企業側に要求して悦に入っている。それは間接的に日本のサービス産業に従事する労働者に対して「もっと安く働け! ……というか仕事があるだけでもありがたく思え!」などと、ののしっているのと同じなのだ。

こういう「労働者軽視」を長年続けた結果、特定の分野では求人をかけても人が集まらない「雇用のミスマッチ」が深刻化した。そこで日本人の代わりに「もっと安く働け!」という負担を押し付けられているのが、外国人労働者というわけだ。

そんな「安さの無間地獄」から抜け出すには、サービス産業の象徴である外食業界が、「安くてうまい」ではなく「労働者が犠牲になることなく、適正な価格でうまい」を求めていかなければいけない。客単価を上げて売り上げを伸ばし、賃上げもしているバーガーキングやモスのやっていることは、日本経済のためにはしごくまっとうなことなのだ。

しかし、中にはその当たり前のことを許してもらえない会社もある。日本のファストフード界の雄、マクドナルド(以下、マック)だ。

マックの値上げに対するネット上の反応

マックは2月25日から、約6割の商品を値上げした。看板商品の「ビッグマック」(単品)は480円から500円に引き上げられ、ついに500円の大台に乗った。例えば「マックフライポテト」Sサイズは200円から220円に。「ダブルチーズバーガー」(単品)も450円から480円に上がった。

マクドナルド(提供:ゲッティイメージズ)

これに対してSNSでは「もはやマックは高級品」「安くなきゃマックじゃない」と悲鳴が上がっている。この衝撃を伝えるネットニュースの中には、消費者のあまりの批判の多さから「客離れ」の可能性を指摘している。

さて、このような話を聞いて、読者はどう思うだろうか。これまでバーガーキングやモスの値上げ、高級バーガーの話を聞いていると、「なんかずいぶんセコい話で大騒ぎしてんな」と思わないだろうか。

それこそが、先ほどモスの毎年値上げをネチネチと並べ立てた理由である。

これまでマックが値上げをするとネットやSNSでは「高い!」「庶民の切り捨てか!」とヒステリックともいえるほどの批判が出てきた。そのたびにメディアや外食コンサルタント的な専門家が「ここまで高くなると食べに行きたくても行けません。客離れの恐れがあります」なんてことを言うのがお約束だ。

しかし、先ほどから見てきたようにバーガーキングもモスも、しっかりと値上げしている。「ビッグマックが500円は衝撃!」「値上げで震えた」と大騒ぎになっているのなら、「モスの100円アップ」やバーガーキングの「客単価1300円」についても、ちょっとくらい衝撃を受ける人がいてもいいはずなのだが、こちらは「まあ、そんなもんでしょ」と受け止められている。

バーガーキングもモスも同じようなことをしているにもかかわらず、マックだけがSNSで叩かれ、ネットニュースでも「ヤバいよ、ヤバいよ」と不安をあおられているのだ。

なぜ値上げでマックだけ叩かれるのか

なぜこのような現象が起きるのか。「モスとバーガーキングに比べて品質が悪いのだ!」と攻撃している人もいるが、食事の好みなど十人十色で、マクドナルドの商品を「うまい、最高」と食べているファンもたくさんいる。

「ハッピーセット問題の対応が悪かった」「店員の態度が悪い」とかなんとか、もっともらしい理由を並べ立てる人もいるが、その程度の問題は他のチェーンでもいくらでもある。

現に今、モスはベトナム人スタッフを店長候補として育成する取り組みが炎上しているが、もしマックが同じことをしたらもっと話題になっていて、ネットリンチもさらにヒートアップしているはずだ。

異物混入騒動で叩かれたマック(画像はイメージ)

筆者はかなり以前から、「同じことをしてもマックだけボロカスにされる」という現象を指摘してきた。例えば2018年、モスで健康被害も出た食中毒があまり問題視されず、「不快」以外に健康被害が報告されていないマックの異物混入が、社会全体からバッシングを受けた件などについて考察しているので、興味のある方は読んでいただきたい。

そうやって長くこの現象を見てきた立場で言わせていただくと、マックの値上げだけがボロカスに叩かれるのは「ノイジーマイノリティー」が敏感に反応することが大きい。


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ノイジーマイノリティーとは「声だけ大きい少数派」のことである。SNSなどで特定の人物や企業をボロカスかつ執拗(しつよう)に叩くので、バズりやすく、その結果あたかも「世論の代表」のように捉えられてしまう人々である。

ノイジーマイノリティーはバーガーキングやモスの値上げを見ても「ふーん、ま、物価高騰だからね」と冷ややかだが、マックの値上げのニュースを見ると途端にスイッチが入る。

「マックなんて安くなきゃ行く価値がないだろ!」「完全に高級路線で、庶民切り捨てですね。もう行きません」「コスパを考えたらバーガーキング一択だ!」など、まるで親の恨みかのように執拗(しつよう)にディスる。

ノイジーマイノリティーがマックを標的にするワケ

なぜここまで「マック叩き」に執念を燃やすのかというと、SNSの投稿でもネットニュースのコメントでも、マック関連の話題はよく読まれるからだ。これはネットやSNSの世界ではもはや常識だが、悪口やネガティブな発信のほうがエンゲージメントを集めやすいことが、さまざまな調査で明らかになっている。

ノイジーマイノリティーは決して世論を代表してマックの値上げを叩いているわけではなく、「いいね!」目当てというか、多くの人たちから注目を集めたいという承認欲求的な目的の人もかなりいるのではないか。

「マック叩き」がノイジーマイノリティーによるものだというのは、マックの業績を見ても分かる。

近年、マックが値上げをするたびに「高い! もう行きません」と話題になり、そのたびにネットニュースや専門家が「客離れ」の可能性を指摘するが、日本マクドナルドホールディングスは、3年連続で最高益を更新するなど絶好調である。

マクドナルドの四半期動向 2025年度(前年比)出典:日本マクドナルド

マックは過去3年で7回にわたって値上げをしているが、IRリポートの客数や客単価を見る限り、まだまだ力強い成長を続けている。店舗の効率化はもちろんだが、バーガーキングやモスと同様に「高級化シフト」も成功しているのだ。

というデータをいくら示したところで、「値上げ=客離れ」というストーリーに固執する人たちは一定数いらっしゃる。

「私の行ったマックはガラガラだったぞ!」とか「知り合いのバイトに聞いたら、値上げ後に客がぜんぜん来なくなってヤバいと言っていた」とかさまざまな形で批判されるだろう。

叩かれる=国民的スター

断っておくが、マック叩きをしている人々を批判したり、揶揄(やゆ)したりという意図はまったくない。

むしろ、企業の危機管理担当者などは、このような人々の企業を攻撃するロジックや、どのような点を攻撃するのかということは「他山の石」として学ぶことが多いと思っている。

例えば、実際にはそれほど大きな問題ではないことを、少数のノイジーマイノリティーがSNSで「炎上」へと盛り上げていく「非実在型炎上」という現象があるが、これは「マックの値上げ」を顧客への深刻な裏切りかのように、大騒ぎしている人たちにも当てはまる。

そのあたりの非実在型炎上対応の難しさは「なぜミツカンは謝ったのか? 『女性蔑視』批判をスルーできなかった、オトナの事情」(ITmedia ビジネスオンライン 2025年08月27日)で詳しく述べているので、興味のある方はお読みいただきたい。

いずれにせよ、マックがここまでノイジーマイノリティーの目の敵にされるのは、やはりこの分野の「国民的スター」だからだ。誰もが知る有名人だからこそ、ネットやSNSの世界で爪痕を残したい無名の人たちがかみつくのである。

モスバーガー(出典:ゲッティイメージズ)

裏を返せば、値上げをしてもそれほど叩かれないモスバーガーやバーガーキングは、まだマックほどの確固たる地位を確立していないという見方もできる。

「憎まれっ子世にはばかる」ではないが、何をしても叩いてくるアンチができるくらいのほうが、一流チェーンの証なのかもしれない。

(ITmediaビジネスオンライン)

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