とんちんかんな「原発脳」 政府審議会元委員が説く“唯一の活用法”
生成AI(人工知能)やデータセンター向けの膨大な電力需要を賄うには原発しかない――。こうした主張を「極めてミスリーディングだ」と批判するのは、国のエネルギー基本計画(エネ基)を話し合う審議会の元委員で国際大学学長の橘川武郎さんだ。さまざまな政策を提言してきた立場から、原子力の平和利用に資する新たな活用法があると説く。詳しく聞いた。
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政府や電力業界の三段論法
――世界も日本も原発に回帰しています。
◆大局を見ると全然大した動きではない。
日本政府や電力業界の論法は非常に単純で、①AIとDX(デジタルトランスフォーメーション)でデータセンターが増える②だから電力需要がものすごく増える③だから原発を増やさないといけない――という三段論法だ。
このうち①→②については、国の電力広域的運営推進機関の見通しを見れば、2030年を過ぎたあたりから電力需要の伸びは止まる。ピークの高さも東京電力福島第1原発事故後の13年より低いくらいだ。
NTTが開発中の「IOWN(アイオン)」という技術が実用化されれば、データセンターの電力需要も劇的に減るとされる。ただ実際どうなるかは分からないので、半分あっていて、半分疑問が残っている。
②→③は全くとんちんかん。日本は18年の第5次エネ基から再生可能エネルギーの主力電源化を掲げている。電力が足りないならまず再エネを議論しなければならないが、政府も電力会社もそこを飛び越えて原子力の議論を先行させている。まさに「原発脳」だ。
日本で原発は地盤沈下
――米国ではIT大手が原発を脱炭素電源と位置づけて推進しています。
◆米IT大手やAI向け半導体大手が原発に向かっているのは事実だが、米国のデータセンターへの電力供給は天然ガス火力が圧倒的で、再エネもかなりの数が動いている。「それでも足りないから原発も」と言っているのであって、一部の動きを針小棒大に語るのは極めてミスリーディングだ。
また、2月に閣議決定した第7次エネ基で示された電源構成を見ても、再エネは「4~5割」と第6次の「36~38%」から拡大したのに対し、原子力は「2割程度」で従来の「20~22%」をほぼ据え置いた。
つまり原発は副次電源化が定着し、地盤沈下している。でもそれだけ言うと原発が「終わった」印象になるので、原発推しのリップサービスをしている。…