大林組が見せた地元の意地 万博大屋根リング前倒し完成
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2025年4月13日に開幕した大阪・関西万博。だが数カ月前まで会場建設工事の遅れが指摘され、「本当に予定通りに開催できるのか?」といぶかしがる声も絶えなかった。そんな状況下で主要施設の建設工事を先頭に立って率いてきたのが、大林組だ。
大阪で創業した同社にとって地元開催となる今回の万博に懸ける思いは並々ならぬものだった。新技術や人員など経営資源を惜しまずに投入し、開幕に間に合わせた。今後は万博会場となった夢洲(ゆめしま)の再開発にも携わっていきたい考えだ。
「(入社後)何かあるたびに、過去の(万博開催時の)成功体験を聞いてきた。大阪で再び万博が開催されるなら、会社として力を入れて取り組むのは当然だ」。万博関係の営業活動に長年携わってきた大林組の門重学・夢洲まちづくり推進室長はこう力を込める。
永井靖二副社長が関西経済同友会の代表幹事を務めるなど、財界の中でも万博を主導する立場にある大林組。目玉である世界最大の木造建築物「大屋根リング」や主要パビリオンの施工に加え、会場全体の建設工事の進行・管理を担う統括施工者として、万博工事をリードした。
大林組が今回の万博にこだわったのは、単に創業の地であるという理由だけではない。これまでも地元・大阪で開催された巨大イベントの建設に携わることで、自社の飛躍につなげてきた歴史があるからだ。
例えば、1903年に大阪で国内産業発展のために開催された「第5回内国勧業博覧会」。万博に匹敵する大規模イベントで、同社はそのほとんどの工事を手掛けたという。エレベーターを備える、高さ45メートルの木造建造物「大林高塔」の展示によって「大林」の名は日本中に広まり、全国区の企業へと成長する足がかりになった。
70年の大阪万博の開催に当たっては、多数のパビリオンの建設に加え、工事の全体調整をつかさどる「万博建設協力会」の結成も呼び掛けた。同協会に対しては日本建築学会が日本万国博特別賞を授与。「会社の格を上げられた」と大林組の門重室長は語る。
こうした歴史的な経緯もあったからこそ、大阪で再び開催されることになった万博において、会場の目玉となる大屋根リングの工事は絶対に受注する必要があった。しかし、大屋根リングは高さ約20メートル、1周約2キロメートルという巨大な建造物を木造で造るという前代未聞の試みだ。当然、難工事となった。
大林組が代表企業を務める共同企業体(JV)は、リングを建設する3つの工区のうち北東部を担当した。リングの施工に当たっては、柱をくりぬいた開口部と梁(はり)の接合部を木栓で補強するという伝統的な木造建築の工法を改良し、前もって工場で金物を埋め込んだ梁を活用することで強度を確保した。
さらに、柱に梁を差し込んだユニット部材を地上で組み立ててから、据え付けるという工法も採用。高所作業の時間をかなり少なくすることができた。
効率的な施工技術の検証に当たっては、実物大のサンプルを組み立ててから再び解体するなど、手間暇を惜しまず取り組んだ。さらに、デジタル技術の活用も進め、サイバー空間上で工事全体の進捗状況と、形状や寸法といった出来形を管理した。こうした取り組みが奏功し、リングの基本構造物は計画よりも1カ月半早く完成できた。
万博会場の工事では、前述のような新技術に加え、人員の投入も惜しまなかった。門重室長は、「万博という言葉がマジックワードになり、それに関わる取り組みは会社全体で応援してもらえた」と振り返る。
一例が万博会場を含む夢洲の建設現場にデジタル技術を集中導入する「夢洲スマートシティプロジェクト・チーム」だ。2021年4月に立ち上げたが、その際、他部署でも快く人員を出したり、新たな提案をしたりするなど、とても前向きに協力してくれたという。
同チームでは、万博工事全体の統括施工管理者としての役割を果たすべく、他社工区を含めた現場の生産性向上を手掛けた。自社開発の工事車両管理支援システムを使い、複数の現場への搬出入車両の管理や調整を一手に担った。このシステムにより、1日当たり1000台超の工事車両が会場内に出入りしても、出入り口での渋滞発生を避けられたという。さらに現場では様々な協力会社の工事関係者が複数工区にまたがって作業をしていたが、世界最高水準の顔認証システムの導入により、セキュリティーの確保と迅速な入退場を両立させた。
だが、技術による効率化だけではない。最後に生きたのは大阪を地盤としてきた強みだった。門重氏によると、万博工事などの影響を受け、大阪の建設会社ではどこも作業員が逼迫していたが、そんな中でも何とか必要な人材を確保できた。
大林組にはこれまで大阪で数多くの建築物を手掛けた名物所長も多数、在籍している。その人脈で地元建設会社に無理を聞いてもらえたという事情もありそうだ。
万博工事は終わったが、それで終わりではない。門重氏は「今回の万博で造られた(大阪メトロ夢洲)駅などのインフラを活用し、大阪湾ベイエリア一帯を刷新できるようなプロジェクトを描いていく」と万博後の展望を語る。
夢洲には30年にカジノを含む統合型リゾート(IR)が開業する計画だ。それと並んで世界中の人が訪れたい、と思うような目玉施設を整備していきたいという。そのため、会場跡地「夢洲2期」の再開発事業の受注を目指す方針だ。大阪府・市が公表した基本計画案には、大林組が提案していたサーキット整備も盛り込まれている。
(日経ビジネス 佐藤斗夢)
[日経ビジネス電子版 2025年4月14日の記事を再構成]
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