[地政学ウォッチ]ロシアほころぶ「勢力圏」…欧州総局長 工藤武人

 ロシアのプーチン大統領は1991年に崩壊した旧ソ連の構成国を自国の「勢力圏」とみなし、その確保に躍起になってきた。ロシアのウクライナ侵略が象徴的だ。侵略で、旧ソ連圏へのロシアの求心力は低下し、「対等」をうたう中国への依存が強まった。プーチン氏は現状を打開できるのか。

ウクライナ侵略 裏目

 「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的悲劇だ」

 2005年の年次教書演説での一言は、約26年にわたって、ロシアの実権を握り続けるプーチン氏の最も有名な発言だろう。旧ソ連への郷愁というよりは、米国と並ぶ超大国が消滅したことへの悔しさをあらわにしたものだ。

 その後、ロシアは08年のジョージア(当時グルジア)侵攻、14年のウクライナ南部クリミア半島の併合、22年のウクライナ全面侵略へと進んだ。この演説でプーチン氏が訴えた旧ソ連圏に残されたロシア系住民の保護は、軍事行動を正当化する口実に使われた。

 プーチン氏はロシアでは特異な指導者なのかというと、そうではない。100年以上前の地政学でもロシアのような「大陸国家」(ランドパワー)は、領土拡大を図る特性が指摘されている。

 ロシアの膨張主義には、モンゴルの支配下に入った「タタールのくびき」などの経験を通じた侵略への恐怖心が背景にあるとも指摘される。旧ソ連は敵対する北大西洋条約機構(NATO)諸国とじかに接しないように、東欧諸国を「衛星国」として従属させ、緩衝地帯にする手法を使った。

 ロシアのウクライナ侵略は力による現状変更で、明確な国際法違反だ。侵略は時代錯誤的なロシアの伝統に根ざし、プーチン氏の主権観とも関連がある。

 プーチン氏は侵略開始前年の21年、ウクライナとロシアとの「歴史的一体性」を主張した論文を発表し、ウクライナは真の主権を持っていないとの一方的な持論を展開した。ロシアの影響下にある旧ソ連構成国は主権が制限されているという主張だ。

圧力と偽情報

 ただ、ロシアの影響力は低下が目立っている。ウクライナ侵略が5年目に入って国力をそがれ、勢力圏へのにらみが利かなくなっているためだ。

 軍事面でロシアに依存してきたアルメニアでは今月実施された議会選で、欧州連合(EU)や米国への接近を図っているニコル・パシニャン首相の与党が勝利した。

 アルメニアは23年にアゼルバイジャンと軍事紛争に陥った際、ロシアに事実上、見捨てられて敗北した。翌年、露主導の軍事同盟からの脱退を表明した。5月にはEU首脳、米国のルビオ国務長官が相次いでアルメニアを訪問した。

 議会選に向け、ロシアはアルメニア産品の輸入制限などの圧力や、SNSでの偽情報拡散も駆使して親露派政権への交代を画策したが及ばなかった。旧ソ連構成国を影響下にとどめておくため、ロシアが頼りにしてきた圧力や選挙介入は切れ味が落ちている。

響く制裁 中国頼みの経済

 ロシアの締め付けが緩み、中央アジアは中国の影が色濃くなっている。中国は25年6月、カザフスタンで中央アジア5か国首脳と、恒久的な善隣友好を確認する条約に署名した。中国は中東情勢の不安定化を受けて、石油や天然ガス資源に恵まれている中央アジアからの輸入拡大を急いでいる。

 中国が中央アジアを侵食しているのは、中露関係の変化も影響している。ウクライナ侵略に伴う米欧や日本の対露制裁の影響で、ロシア経済は対中依存を強めている。

 露国内での新車販売ブランド別ランキングを見ると、侵略前の21年に中国勢は上位5位に入っていなかったが、25年は首位のラーダ(ロシア)以外が中国勢となった。

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