FRBが今利下げする理由-米経済の多くの部分が既にリセッション状態

米国が既にリセッション(景気後退)に陥っていると断言するのは挑発的な主張かもしれない。しかし、経済全体に当てはまらないにせよ、米国の広い地域や層では既に後退局面にあるといえる。

  米連邦準備制度理事会(FRB)がどの程度利下げを行うかが焦点となっているが、そもそもなぜ利下げが急務とされるのかを理解する必要がある。

  就労時間を増やしたい、またその必要があると考える就労者の比率(不完全就業率)上昇、若年層や黒人の失業率上昇といった指標は、多くの世帯が既に深刻な経済的困難に直面していることを示している。これらは典型的に景気後退の先行指標とされる。さらに消費者調査などのソフトデータも、今後12カ月以内に景気後退が到来すると示唆する結果を示している。

  ではなぜ米経済全体は持ちこたえているのか。それは所得上位10%の富裕層が現在、米国の個人消費全体のほぼ半分を占めているためだ。富裕層の状況は良好だ。

  最終的に、巨額の財政赤字と人工知能(AI)関連支出が、米経済全体を景気後退から守る要因となる可能性がある。これが続く限り、株式の強気相場は維持される見通しだ。ただし局地的には深刻な経済的苦境が残り続ける。

景気先行指標

  前年比のコアインフレ率が依然3%前後にとどまる一方、ナスダック100指数が最高値を更新し、AI業界のリーダーたちがバブルの可能性を語る中で、なぜFRBが利下げに踏み切るのかという疑問は当然だ。

  下のチャートが示す不完全就業率の上昇が、FRBが利下げを検討せざるを得ない理由の一つだ。

  最近公表された雇用統計の下方修正は、過去最多の雇用を消失させた。2024年の労働市場拡大は、年初に想定していたよりも弱かったことが明らかになった。22-23年の利上げが遅れて経済に効き始めた格好だ。これは23年以降続く不完全就業率の上昇とも一致する。FRBが今利下げに踏み切らなければ、政策効果が発現するまでのタイムラグによって米経済は景気後退に陥る恐れがある。

K字型の景気後退か

  利上げ後の経済を考える一つの視点は、富裕層と非富裕層の二極化だ。不完全就業率の上昇、粘着性の強いインフレ、高金利の影響は低所得世帯により強くのしかかっている。中小企業も高金利や関税の影響を大きく受けた。

  一方で高所得世帯は、住宅価格の高止まり、AIブーム、安定した利子収入、株価上昇の恩恵を受け、事実上経済を下支えしている。

  しかし、全体の失業率に先行して動く傾向がある黒人失業率の上昇に注目すると、米経済の広い部分が既に景気後退に入っているとの見方も成り立つ。

  25年に入って黒人失業率が上昇に転じ、今まさに進行中である点が懸念材料だ。

  ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は、米経済が上位1割の世帯の消費にますます依存していると指摘している。同氏は現在、12カ月以内の景気後退入り確率を50%とみており、その一因として低所得世帯への負担を挙げている。

  こうした見方は消費者の実感とも重なる。コンファレンスボードの調査によると、今後12カ月に景気後退の可能性があると答えた消費者は70%以上に上り、23年に景気後退懸念が最も高まった時期とほぼ同水準となっている。

それでも株価上昇余地は残る

  では投資家はこの情報をどう活用すべきか。

  オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者ハワード・マークス氏は、株式市場の潜在的バブルについて「初期段階」にあると発言した。人工知能(AI)関連への高水準の投資がこうした見方を裏付けている。

  一方で、黒人失業率や不完全就業率の上昇に加え、景気後退を示唆する他の先行指標も警鐘を鳴らしている。若年層の失業率、特に若年男性の失業増加が目立つことだ。

  米労働市場の脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りになっており、FRBはこれに対応する形で利下げに動きつつある。

  私としては、景気後退というより成長減速を想定すべきだと考えている。加えて、AIを中心とした設備投資ブームや新規株式公開(IPO)の増加など、株式相場にまだ上昇余地があるとのシグナルが出ている。

  実際、22-23年の利上げで循環的な弱気相場が訪れたものの、S&P500の20年の安値からのトレンドラインはそれほど悪くは見えない。

  それでも、経済的苦境がさらに広がれば株式市場を支えてきた要因が崩れかねない。この点で相場への懸念は残る。

  新規失業保険申請件数は警戒材料だ。9月第1週の増加の多くは一時的要因によるものだが、全体的な水準とトレンドは無視できない。強気の投資家にとって、新規失業保険申請データは相場反転の初期警告シグナルとして注視すべきものだ。

原題:Many Parts of the US Are Already in Recession: Everything Risk(抜粋)

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