【コラム】石破首相に「天命」はもうない、今こそ退陣を-リーディー

石破茂氏は首相になる可能性は低いと長らく考えられ、自身も「天命」を受けない限り、あり得ないと述べたこともあった。

  しかし、石破氏が首相の座を天命だと受け止めているとしても、今回の参院選での敗北でそれは失われた。

  石破氏は自民党と長年の連立パートナーである公明党が、非改選議席と合わせて参院で過半数を維持するという低めの目標を掲げたが、それすら達成できなかった。

  最終的には出口調査が示唆したより若干良い結果だったが、世界的な金融危機後に自民党が政権を失った2009年のような経済の危機的状況を除けば、ほぼ前例のない厳しい審判を受けた。

  日本にとって喫緊の課題は、継続中の対米貿易協議だ。今回の選挙結果は、日本のトップとして交渉する権威が石破首相にもはやない現実を示唆する。

  石破氏が24年に自民党総裁と首相に選出されたのは、スキャンダルに見舞われた同党が選挙に勝てる新たな顔を求めたためだ。過去に4回にわたり総裁選に挑んだ同氏は、これが最後と公言していた。自民党議員の中でリベラル色の強い同氏は、伝統的な派閥の後ろ盾をほとんど持たず、首相就任は夢物語のように思われたが、それでも40年越しの悲願を実現させた。

  昨年出版した著書では、自分が首相になることがあるとすれば、自民党や日本が大きく行き詰まった時ではないかとの考えを示していた。

  今回の政治危機は石破氏が自ら招いた側面が大きい。昨年首相に就任するや否や衆議院の解散・総選挙に踏み切った。人気は瞬く間にしぼみ、自民党は衆院で少数与党に転落した。同党は先月の都議会選でも大敗を喫し、過去最低の議席数となった。3度目の今回は、同氏にとって間違いなく最後のチャンスだった。

  石破氏は党内の候補者からも極めて不人気で、多くの候補が応援演説に来ないよう求めた。その結果、長年政権を担ってきた自民党は無名の存在のようとなり、街頭演説でも野党に主導権を明け渡した。ユーチューブのアカウントを持ち、外国人への有権者の不満に訴える小規模政党が、あらゆることを約束し票を集めた。

  09年に当時の麻生内閣で閣僚を務めていた石破氏は、選挙敗北後に麻生氏の退陣を最初に求めた1人だった。今回はより深刻な敗北にもかかわらず、米国との関税協議への対応を理由に続投の意向を示した。貿易交渉は3カ月間全く進展の兆しがないままだ。

  石破氏の最も巧妙な政治戦術は、トランプ米大統領による関税の脅しを逆手に取って政権の延命を図ることだった。この問題を同氏は「国家的危機」と呼んだ。

  参院選の結果は、国民が主要選挙において3回連続で石破氏にノーを突き付けたことを意味し、疑いの余地はほぼなくなった。若年層や保守層は自民党を離れ、代わりに参政党のような小規模の右派政党に流れた。この動きは長続きしないと筆者はみているが、ポピュリズム的主張で右寄りの有権者を引き寄せ、本来なら自民党を支持する層の票を奪った。

  09年の麻生政権下のように組織的にしっかりした野党が政権交代を狙える状況であれば、話は違ったかもしれない。幻滅した有権者の批判票は今回、陰謀論的な主張を掲げる勢力などに向かった。

  石破氏は貿易問題を解決しなければならないと主張するが、これほど長く影響が残る取引について、果たして同氏に交渉資格があるだろうか。

  首相が次々と交代する「回転ドア」の時代に戻ることを望む人はいない。それでも今回ばかりは例外で、石破氏は退陣すべきだ。自民党を救える人物がいるかどうかは分からないが、それが今の首相でないことは確かだ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

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原題:Japan’s Leader Has Lost His ‘Mandate of Heaven’: Gearoid Reidy(抜粋)

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