トランプ大統領が交渉で示した態度をどう受け止めるか

国際

アメリカと日本の関税交渉が始まった。日本側の代表である赤澤経済再生大臣がホワイトハウスを訪れ、トランプ大統領の目の前に座るという印象深いシーンで始まった。

トランプ大統領と赤沢経財相 ホワイトハウス提供

報道によれば、ここでトランプ大統領は三つの領域を示したという。①貿易赤字、②米国製自動車の販売、③在日米軍の駐留経費負担だ。

赤澤大臣は、優先順位をつけてほしいと要請した、と報道されている。ひょうひょうとした人柄で存在感を出している赤澤大臣だが、日本政府として受け身である、という印象はぬぐえない。

トランプ大統領があげた三つの領域というのは、このままで受け止めると、体系性がない。すでに「(日本の縦割り行政を当てはめる日本側の常識そのままで言えば)関税問題と安全保障問題は別の問題になる」という「日本では正論」の意見も見られる。

ただし、すでに私が指摘しているように、アメリカ政府の関心は、貿易赤字と、さらに深刻な財政赤字を減らすことだ。

日本政府が、アメリカ政府と関税交渉に入る。世界の諸国の先陣を切る。日本には1980年代からのアメリカとの間の貿易交渉の歴史がある。ベッセント財務長官の様子からは、期待がうかがえる。 アメリカは当初、高率関税を普遍的に導入する意...

関税ですら、そのこと自体が本質的な議題ではない。トランプ大統領の発言は、わかりやすく言い換えると、次のようになるだろう。

第一に、理論や努力はどうでもいいから、とにかく貿易赤字を減らすのに協力してほしい、ということである。在日米軍を参照しているのは、二国間関係を総合的に見て、財政赤字のほうでもいいので、赤字を減らすことに協力してほしい、という懇願だ。

第二に、トランプ大統領は、製造業の復活を目標にしている。その象徴として、アメリカ市場に日本車が深く入り込んでアメリカの製造業を痛めつけているというイメージを相殺できるように、自動車産業の復活に協力してほしい、ということだ。

あえて第三を付け加えれば、思いやり予算でも何でもよく、貿易赤字ではなく財政赤字のほうでいいので、赤字削減に資するアイディアを出してほしい、という意思伝達だ。

この問題は、高関税に端を発した交渉になっているが、ある意味で高関税政策は、交渉を開始するためのきっかけでしかない。

したがって「本来あるべき自由貿易の姿は・・・」とか、「在日米軍の問題は関税の問題とは異なる問題であり・・・」とか、「アメリカの車は日本の道路では大きすぎるので売れない・・・」といった「正論」を言っても、仕方がないことは、すでに前回の記事で述べたとおりである。

たとえば、在日米軍の費用負担は、安全保障の政策の問題などではない。日本が米国の財政負担を減らすために直接的に貢献できる領域だ、ということである。アメリカの自動車産業の問題は、アメリカの車が日本の道路を走るかどうかの問題ではない。要は、アメリカの製造業が復活の契機が見えれば、それでいい。

トランプ大統領は、とにかく何でもいいので、貿易赤字と財政赤字を減らす努力に協力してほしい、と言っている。わかりやすく言えば、安全保障上の同盟国が倒れてしまったら、日本だってのんびりしているわけにはいかなくなるはずだろう、協力すべきだ、と示唆している。

もちろん日本も巨額の財政赤字を抱えており、ただ単にお金を渡す、というわけにはいかない。また、一過性のものよりは、継続的に問題改善につながるもののほうがいい。しかしプラザ合意の再来のような急進的な通貨政策は、日本にとって負担が大きすぎ、また管理不能な状態に陥るリスクも抱える。より創造的なアイディアが必要と思われる。

アメリカ政府自身が投資を計画しているAIの領域に、アメリカ政府の負担を軽減しつつ、アメリカに利益が確保される形で日本も投資をするなどのアイディアが求められるだろう。

いずれにせよ、アメリカに対して受け身の姿勢をとりすぎると、かえってトランプ大統領の中心的な意図から外れていく結果になりかねない。そこは注意が必要である。

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