自己コントロールできるかどうかで、「コミュ力」に差がつく(日経BOOKプラス)

業務上の指示を受けた際、その内容を理解し、集中して取り組み、報告する、ということができない人たちがいます。決して不真面目なのではなく、前向きな態度で仕事に臨んでいるのに──こうしたケースについて、心理学博士の榎本博明さんは著書『「指示通り」ができない人たち』で詳しく解説。著書で取り上げている3つの能力を軸に、お話を伺います。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也) ●相手の気持ちを受け止めず自分の話ばかり… 尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 『「指示通り」ができない人たち』の著者、榎本博明さんをお迎えして、3回目をお届けします。  今回は、第3章「非認知能力の改善が必要な人」についてお伺いします。非認知能力の改善が必要なのは、どういう人なのでしょうか。 榎本博明(以下、榎本) まず「非認知能力」について簡単にいうと、自分の心の状態をコントロールする能力です。例えば、今までいい関係を保ってきた仕事相手に対し、感情のコントロールを失って怒鳴ってしまったり、言い返してしまったりすると、これまで積み上げてきたものが崩れてしまいますよね。このようにしてお客さんや同僚とトラブルになる人もいます。 榎本 自分の心の状態をコントロールすることには、感情だけではなく、いろいろな要素があります。例えば前々回お話しした、我慢する力。いろいろなことを我慢して今やるべきことに取り組まなければいけないのに、それができない。集中力も非認知能力の1つで、集中力がとても高い人もいれば、すぐに飽きてしまう人もいる。また忍耐力についても、厳しい状況の中でも持ちこたえる人と、すぐに心が折れる人がいる。  仕事の能力そのものではないですが、伸び悩んだり人間関係を壊したりするのは、非認知能力の問題かもしれません。また、いわゆる「コミュ力がない」といわれるのも同様です。単に話すことが上手な人は増えているかもしれませんが、気持ちの交流ができて、相手の気持ちを受け止める力があり聞き上手な人は少なくなっている気がします。 尾上 一方的なコミュニケーションを、ビジネス上でもしてしまうのですね。 榎本 そうですね。こちらの気持ちを受け止めながら話を聞いてくれていると分かると、この人と仕事をしたいと思うものですが、人の話を聞かずべらべらしゃべるばかりの人だとうんざりしてしまいますよね。「会話がかみ合う」ということにおいては、一方的にしゃべるのではなく、相手の気持ちを受け止めて引き出す、聞き上手な面も非常に大切なのです。仕事の能力、つまり認知能力そのものではなくても、非認知能力は仕事をすることにおいて重要な要素だと思います。 尾上 そのあたりができない大人が、少しずつ増えているということなのでしょうか。 榎本 発信が快感につながる時代になり、発信することばかりに気持ちが向き、受け止める力が弱くなっているのかもしれません。  相手の気持ちを考えないで発信してしまうと、相手が嫌な気持ちになったり傷ついたりすることもありますよね。日本社会は人間関係が非常に重要なので、気持ちの交流ができることは何をするにも大事な要素です。あとは、先ほどお話しした非認知能力の核になる自己コントロール力で、粘るときは粘る、集中するときは集中するといった心のコントロールができるかどうか、です。  子ども時代に我慢する力を鍛えたかどうかで、大人になってからの学歴や年収に差が出るというデータもあるので、大人になってからも、自分の心の状態をうまくコントロールできるかどうかは仕事の成果にも影響すると思います。 ●キレそうな自分をモニターで見てみよう 尾上 自分の心をコントロールする力は、大人になってからどうすれば鍛えられるでしょうか。 榎本 なかなか難しいのですが、まずは意識することです。人の心は意識するだけで自然に変わっていくことがあります。気付きを得て、自分でなんとかしなければと意識することで、心の状態は変わってくると思います。  今までならカッとなって我慢できずに怒鳴ってしまう場面で、「そうか、自分はここでコントロールができないんだな」と思うだけで一歩とどまれるようになります。もう飽きたからやめようと思うときには、「自分は集中力が切れやすいんだな」と意識するだけで、もうひと踏ん張りしてみようかとなります。意識するかどうかが大きいのです。 尾上 なるほど。そういう場面に出くわしたとき、自分の心を客観的に意識することが大事なのですね。 榎本 はい。つまり非認知能力にメタ認知能力が合わさっていくということです。今、自分は感情的になっているとか、集中力が切れかかっているとか、誘惑に負けそうになっているとか、自分をモニタリングする目で見る。非認知能力とメタ認知能力がかみ合うようになると、少しずつ改善できるでしょう。 尾上 認知能力、非認知能力、メタ認知能力は、それぞれ独立しているわけではなくて、お互いを補完するような働きもある、と。そういう意識を少しでも持つことが大切ですね。 榎本 そうですね。人間の生き方は急に変わるものではないけれど、この3つの能力について知識を持っているだけで意識が変わり、意識が変われば行動も変わっていくのではないでしょうか。 ●自己理解と他者理解に生かしてほしい 尾上 3つの能力をどう意識していくかも大事ですが、本書で取り上げているような「指示通りができない人」が周囲にいるとき、どのように対処していけばいいかというヒントが紹介されているところも、読者にとってはとても有益だと思います。 榎本 本書を手に取っていただくきっかけとしては、「こういう人が周りにいて困っている」という読者が圧倒的に多いと思いますが、読んでいくうちに、この要素は自分にも当てはまるかなというポイントがいくつか出てくると思います。  そういう意味では、人をどう成長に導くかというだけではなく、何らかの気付きが得られて、自分自身の改善にも生かしてもらえると思います。私自身も書きながら「これは自分にも当てはまるな」なんて思うことがあったので。 尾上 これからますます重要視されそうな認知能力、非認知能力、メタ認知能力。本書を通じて自己理解と他者理解を深め、周囲とのコミュニケーションに生かしてもらいたいですね。 榎本 ありがとうございます。ぜひ、手に取って読んでいただきたいと思います。 文/佐々木恵美 構成/市川史樹 編集協力/山崎 綾 ●音声でこの記事を楽しみたい人は…

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