プーチン主義を作った男は「ロシアは全方位に拡大する」と本気で信じている
プーチン政権は、ロシアの「国境」を通常の枠組みで考えていないとわかる Photo: Ayhan Altun / Getty Images
Text by Charles Haquet and Léo Vidal-Giraud
ドナルド・トランプ米大統領はウクライナとロシアの停戦を実現しようとしているが、場当たり的な対応が目立ち、事態の決定的な進展にはまだ至っていない。理由のひとつに、ロシアの思惑を理解できていないことがあり、それゆえにプーチンには翻弄され、ウクライナや欧州には「プーチンに甘すぎる」と拒否される。
では、ロシアはどのような長期的ビジョンを持っているのか。仏「レクスプレス」誌は、プーチンの側近としてプーチン主義を作り、「枢機卿」「影の魔術師」ともあだ名された元大統領補佐官、ウラジスラフ・スルコフへのインタビューを敢行した。
ウラジスラフ・スルコフが、現代ロシアで最も謎めいた人物であることに異論はないだろう。ヨーロッパの中心部を荒廃させているウクライナ侵攻開始以降、彼は政治的インタビューに答えることもなければ、わずかなパブリックコメントも出すことなく、沈黙を保っている。
スルコフは、プーチンを「作った」影のアドバイザーとして、作家ジュリアーノ・ダ・エンポリの小説『クレムリンの魔術師』の元ネタとなった男である。
彼に接触し、説得するにはいくばくかの時間を要した。ロシアの政治システムの「設計者」ともいえるこの政治家はいま、20年仕えたプーチンから距離をとっている。スルコフが現在何をしているか、知る人は誰もいない。我々とのインタビューでも、彼はその質問をはぐらかした。
なぜ民主主義の理想と真逆のスルコフにインタビューをするのか? 彼は、ウクライナは「武力によってのみ占領可能な人工的な政治実体」だと宣言したが、そんな人物が『レクスプレス』の表紙を飾っていいのだろうか? ご指摘はごもっともだ。
「クレムリンの魔術師」の発言を聞くことは、プーチンの頭のなかを覗くことに等しい。権力の座から離れたとはいえ、彼はプーチン主義の何たるかを熟知している。それがこのインタビューの意義だ。
国際的な緊張の高まる現在、ロシアの権力がどのように計画を追求し、場当たり的なドナルド・トランプと対照的に長期戦略を練っているかを示す貴重な記録である。
──レーニンは「何も起こらない数十年もあれば、数十年が起こる数週間もある」と言いましたが、いまのヨーロッパはその状況でしょうか。
その通りです。米国はここ数週間、ヨーロッパに向けて言葉の嵐を放っています。ですが、いまのところは挑発とからかいにすぎず、本番はこれからでしょう。
ワシントンは停滞から抜け出そうとしています。彼らはペレストロイカ(復興)、グラスノスチ(透明化)、新思考が必要です。
ソ連のペレストロイカは東側の崩壊につながりましたが、米国のペレストロイカが発動すればNATOやEUは崩壊するでしょうか? その疑問が残りますが、決めるのはあなたがたです。
──2025年2月18日にリヤドでおこなわれた交渉は、ロシア側にとっては幸先の良いスタートになりましたね。モスクワの勝利とはどのような結果だと思いますか。
ウクライナの軍事的、あるいは軍事と外交両面での敗北です。そして、この人工的えせ国家を自然な断片として分割することです。その過程では軍事行動や減速、中断もあるでしょうが、この目的は達成されます。──2022年2月24日以来、ロシアの目的には変更はありましたか。
戦略上の目的に変更はありません。しかし、戦術上の目的は戦略の実行状況に応じて変更されます。
──あなたは「ロシアにとって、永久拡大は単なる考えではなく歴史的存在としての存立条件だ」とおっしゃっていますが、ロシアの境界についてはどう考えていますか。
私は哲学界においてすでに存在する「ロシア世界」という概念に基づいて公式イデオロギーを打ち立てました。
「ロシア世界」に境界は存在しません。「ロシア世界」はロシアの影響が届くかぎりすべての場所です。文化的、情報的、軍事的、経済的、イデオロギー的、人道的、あらゆる形での影響力です。
換言するなら、どこにでも「ロシア世界」はあります。地域によって影響の程度はあれど、皆無の土地はありません。
だから我々は神の思し召しのまま、強さの限り全方位に拡大します。調子に乗り過ぎないこと、身の丈に合わないことをしないのは重要ですが。
──この解釈には、人々の主観の入る余地はありません。もし人々が「ロシア世界」に入りたくないと思った場合どうでしょう。強制的にその一員とすることができるのでしょうか。そして何より、なぜそうなるのですか。
先の回答に人々の主観を拒否する要素はなかったと思います。それはウクライナの人々の主観を無視して、キエフでの2度のクーデターを支援したヨーロッパにこそ当てはまります。2014年時点では、半数のウクライナ人が日常的に仕事と家庭でロシア語を話していました。EU加盟を望む者は半数以下で、NATO加入支持者はそれより少なかったのです。 ウクライナの民意、あるいは多数派の意思に反し、誰も理由がわからないまま西側はウクライナを屈服させようとしています。 こうしている間にも、ウクライナの多数派を無視し、反ロシア、親西側の少数派に立脚したキエフの傀儡政権が、フランスを含むヨーロッパが供給した武器で我が国を攻撃しています。これはウクライナを力で植民地化しようとする西側の試みの継続にほかなりません。
──ウクライナをロシアの勢力圏に戻すことは、ソ連崩壊後のロシア外交の意識的な目的だったのですか。言い換えるなら、モスクワはウクライナ併合を1991年以降、さまざまな形で追求していたのでしょうか。
たしかにモスクワの目的でしたが、キエフの目的でもあります。さまざまな方法、機会、程度でそれは成功を収めています。
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