テスラの勢いが世界で失速、その理由と復活への道筋-QuickTake

テスラは販売不振に陥っており、電気自動車(EV)の納車台数は2年連続で年間ベースの減少が見込まれている。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は23日の決算説明会で、EVの優遇措置の終了により、今後四半期は「厳しい」局面になる可能性を示した。

  テスラの苦境にはマスク氏自身の影響もある。賛否が分かれる同氏の政治的姿勢は主要EV市場でテスラ離れを招き、政治の表舞台から身を引いた後も顧客はショールームに戻ってきていない。

  しかし、テスラが抱える課題は、こうした消費者の反発よりも根深いものだ。主力の「モデルY」は小規模な改良を施したものの、老朽化した製品ラインアップの刷新には至っていない。年内には新たな廉価版モデルの投入が予定されているが、マスク氏は「モデルY」に似た車両になると述べており、完全な新型車とは言い切れない可能性がある。車種構成が限られるなか、同社は特に中国メーカーを中心とする競合企業に対して脆弱な立場にある。

  テスラの時価総額の大きさは、投資家の楽観的な見方がなお残っていることを映す。ただ、投資家が同社に見出す価値の多くは、EVそのものではなく、自動運転車や人型ロボットが普及した未来というマスク氏のビジョンにますます依拠している。

販売台数に何が起きたのか

  1-3月(第1四半期)の販売台数はほぼ3年ぶりの低水準となった。「モデルY」の新型車生産に向けた世界的な工場改修が響き、減産を招いたことが背景にある。4-6月(第2四半期)は改良版モデルYで巻き返しを図ったが、実際には世界販売台数は前年同期を13%下回り、5月中旬にマスク氏が語った「すでに回復している」という主張を覆す結果となった。売上高は12%減の225億ドルにとどまり、少なくとも過去10年で最大の減収となった。

  マスク氏自身が認めているように、同社にとって最も弱い市場が欧州だ。欧州自動車工業会(ACEA)によると、テスラ車の域内での新規登録台数は年初からの6カ月間で33%減少。これは、市場全体が拡大する中での落ち込みである。

  テスラの苦境は、競合の中国メーカー、比亜迪(BYD)にとって追い風となっている。BYDは4月に欧州市場でのEV販売台数が初めてテスラを上回り、あるアナリストはこれを「分岐点」と評した。通年では、BYDが世界販売台数でテスラを上回るとの予測も出ている。

  調査会社コックス・オートモーティブによれば、テスラの米国での販売台数は上半期に11%減少。テスラは依然として米国で最も売れているEVブランドであるものの、自動車情報のケリー・ブルーブックによると、市場シェアは2022年の75%超から2024年には50%を下回る水準にまで縮小した。

  世界最大のEV市場である中国では、テスラの上海工場からの出荷台数が8カ月連続で減少した。

シェアを奪われている理由

  マスク氏はテスラの製品ラインアップで「少数精鋭」を堅持してきた。同社は長年にわたり、モデルS(2012年発売)、モデルX(2015年)、モデル3(2017年)、モデルY(2020年)、そしてサイバートラック(2023年)の5車種のみを販売してきたが、これらすべてが世界市場で展開されているわけではない。

  対照的に、BYDは幅広い車種を展開しており、その多くがテスラの主力モデルであるモデルYおよびモデル3よりも低価格だ。さらにBYDは3月、約5分で充電可能なEV用バッテリーシステムを開発したと発表。これによりBYDの競争力はさらに高まる可能性がある。

  新規参入企業がテスラの地位を脅かしており、すでに競争が激しい中国のEV市場では特にその傾向が顕著だ。

  新規参入組で最も注目を集めるのが、スマートフォンメーカーからEV製造に進出した小米(シャオミ)だろう。同社のスポーツタイプ多目的車(SUV)「YU7」は、発売開始から1時間足らずで約30万件の予約注文を獲得した。価格は約3万5000ドルで、テスラのモデルYよりも割安に設定されている。

  3万ドル未満の車両は、テスラの販売拡大を左右する重要な要素と長らく見なされてきた。しかし、マスク氏が約束してきた低価格車は、いまだ実現していない。代わりに同社が投入したのは高価格帯のピックアップトラック「サイバートラック」だが、生産・販売台数はマスク氏の期待値を大きく下回っている。

政治がどれほど影響しているか

  マスク氏がトランプ大統領および共和党と密接な関係を持っていることがテスラの足かせとなっていることを最も如実に示すのが、民主党の地盤であるカリフォルニア州での動向だ。同州では昨年、テスラ車の登録台数が4四半期連続で減少した。

  昨年11月の米大統領選後、マスク氏が「政府効率化省(DOGE)」の責任者として連邦機関の解体に着手し、さらに欧州の極右政治家を支持したことで、米国内外での反発は一段と強まった。

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マスク氏とトランプ大統領(ホワイトハウス、3月11日)

  マスク氏自身もトランプ政権への関与によって「反発」が生じていることを認めている。一方で、リベラル層の顧客離れを相殺し得るだけの販売ルートを保守層で開拓したとも主張している。

  しかし、その効果は四半期決算の数字にはまだ明確には現れていない。トランプ氏の目玉政策である減税法案を公然と批判したことから、両者の関係にも緊張感が漂っている。

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業績回復に向けた道筋は

  事情に詳しい関係者によると、長年の側近だったオミード・アフシャー氏の退社を受け、マスク氏は欧州および米国での販売統括業務を引き継いだ。

  テスラでは今年に入り、上級幹部の離脱が相次いでいる。その中には、人型ロボット「オプティマス」プログラムの責任者だったミラン・コバック氏や、10年以上にわたりソフトウェア部門を率いてきたデビッド・ラウ氏も含まれる。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、北米の営業・整備・納車担当バイスプレジデント、トロイ・ジョーンズ氏も退社した。

  EV事業の勢いが鈍るなか、マスク氏は同社の「真の使命」として自らが掲げる自動運転車と人型ロボットの開発に注力する姿勢を一段と鮮明にしている。ただ、いずれの事業も4月の決算説明会でマスク氏自身が述べたように、「財務的に大きな影響を与える」にはほど遠い段階にある。

  テスラはまず、自社の市販モデルを用いた無人運転の配車ネットワークを立ち上げ、将来的にはステアリングやペダルを持たない専用設計の「サイバーキャブ」を導入する構想を掲げている。

  約10年にわたり「間もなく自動運転が可能になる」と予告してきたテスラは、6月下旬に待望のロボタクシーサービスを開始した。

  ただ、サービスの開始は比較的限られた内容にとどまり、テスラはテキサス州オースティンの限られた区域で、少数の支持者に対してのみ乗車機会を提供した。複数の走行映像で車両が交通法規に違反しているように見えたため、連邦安全規制当局の監視の目が向けられることとなった。

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  テスラにとって今後の課題は、ロボタクシー事業を本格的に拡大し、同社の未来が従来型の自動車製造ではなく自動運転にあることを証明することだろう。

原題:Why Tesla Is Losing Ground Around the World: QuickTake(抜粋)

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