現役医師「レアアースよりもっと深刻」…中国の輸出規制が日本の医療にもたらす“とんでもない副作用”

日中関係が悪化するなか、2026年1月6日、中国政府は日本に対し「軍民両用品目の輸出禁止」を発表した。医師の木村知さんは「感染症治療にも欠かせない『抗生物質』の製造は、ほぼ完全に中国に依存しているという現実がある。『レアアース』にばかり注目が集まるが、本当に深刻なのは医療への影響だ」という――。

もし解散総選挙でリセットできると考えているなら、かなり甘い。

それどころか、いよいよこの発言の「致命的副作用」が私たちの生活を直接おびやかすことになりそうなのだ。

写真=時事通信フォト

2026年度予算案が閣議決定されたことを受け、記者団の質問に答える高市早苗首相=2025年12月26日午後、首相官邸

年も明けてまだ間もない1月6日、中国商務部は最後通牒とも言える発表を行った。わが国を念頭においた「デュアルユース品目の輸出管理強化措置」のことである。

名目は「輸出管理の厳格化」だが、実質上は特定品目のわが国への禁輸措置と言ってもいいだろう。

今回の措置は、2024年11月に施行された「両用物項出口管制条例(デュアルユース品目輸出管理条例)」の運用細則として発表されたものだ。

従前とことなるのは、これまでは品目ごとに設定されていた規制を、「特定国家」という出口ベースで厳格化した点である。

「中国の国家安全および発展利益に対し、言動をもって著しい不利益を与えた国家・地域への輸出については、許可申請の審査基準を最高レベルに引き上げる」とされたのだ。

外務省はすぐさま中国側に抗議したが、状況はきわめて深刻である。

ネットでの反応を見ると、レアアースにかんする懸念が多く、「保守派」と呼ばれる論客には「これはいい流れ、これで“脱中国依存”が加速できる」などと“楽観視”する者もいるが、私は医師として非常に危機感をおぼえている。

その理由は、この特定品目は当然ながらレアアースにかぎったものではないからだ。

とくに懸念されるのが、抗菌薬製造にかかる心臓部ともいえる「発酵中間体」だ。

「ほぼ完全に依存状態」という現実

現時点で中国側は、対象となる具体的品目の名称は明らかにしていない。

「日本側の軍事的ユーザーおよび軍事用途、ならびに日本の軍事力向上に資するその他一切の最終ユーザー・用途への輸出を禁止することを決定」としていることから、「軍事」に直接関係しない抗菌薬の原材料が必ずしもすぐに管理対象になるとは、たしかに断定できない。

しかし、「生物医学的分野における基礎的代謝産物およびその製造技術」を管理対象として挙げていることには注意すべきだ。

つまり法律上、たんなる「化学物質」として扱われる「発酵中間体」だが、先方の解釈で該当すると認識されれば、これも管理対象となってしまうのである。

ご存じのとおり、抗菌薬は感染症の治療や手術には必須の薬剤である。

この薬剤の製造に欠かせない「発酵中間体」がほぼ中国に完全依存状態である現実があると言ったら、いかに楽観的な人でも、思わず黙ってしまうのではないか。

2019年の「セファゾリンショック」をご存じの方もいるだろう。

これは中国にある原薬製造工場で、製造過程に異物が混入。さらに、当時の中国政府による環境規制強化のあおりを受け、工場が操業停止に追い込まれた事案である。

当時、日本国内で流通していたセファゾリンの原薬の大部分をこの1社に依存していたため、代替ルートがなく、供給が完全にストップしてしまったのだ。

日本のセファゾリン供給の約6割を担っていた製薬会社が製品回収と供給停止を発表。

一気に国内シェアの過半数が消滅した。


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さらに過激にすすめば、高市首相が「台湾有事」に言及したこととからめて、「日本に送る発酵中間体は、有事の際に自衛隊員の外傷治療や手術をするための薬剤製造に使われる、すなわち中国の安全を脅かす軍事利用だ」という解釈をされてしまうことも可能だ。

つまり「あえて品目を具体的に明示しない」という戦略は、「いつでも、どの薬の原料でも、われわれのさじ加減一つで止められる」という全権掌握の宣言に他ならないとも言えるのである。

今回の危機について「国産できるから大丈夫」と言い、普段から「中国は信用できない」と叫んでいる人たちが「軍事以外のものは対象外のはず」などと、中国に絶大の信頼を寄せて根拠なき楽観論にひたっているのは、あまりに皮肉だ。

こうした楽観こそが最大の危機といえよう。

はたして高市政権は、どこまで危機感をもっているのだろうか。

写真=iStock.com/nyiragongo

※写真はイメージです

医療現場に身をおく者としての不安は、処方しようと思った抗菌薬が「欠品です」と薬局から言われる日が、あるとき突然おとずれることだ。

もちろんわが国の抗菌薬の濫用も由々しき問題だが、本当に必要な人にまで処方できない日が、それも「政治」が原因でおとずれることなど断じてあってはならない。

高市首相に伝えたいこと

この不透明な状況を突破できるのは、両国の事務方どうしの交渉ではもはや難しいのではなかろうか。現在のトップでは対話も無理なら、もうこれは政治的決断(リセット)しかない。

レアアースの供給停止ももちろん深刻な事態を引き起こすが、抗菌薬の供給停止はそれ以上に、わが国に生きる人すべてにたいして即効的で致命的な「劇薬」となることは間違いない。

この状況で高市首相に解散総選挙などしているヒマはあるのだろうか。「自己都合」などよりも、国民の命を救うための「一刻も早い政治的決断」を、最優先とすべきではなかろうか。

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